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物流自動化に新たな選択肢を提供

物流自動化に新たな選択肢を提供

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

2019年1月16~18日、東京ビッグサイトにてロボデックス(ロボット開発・活用展)が開催された。220社が出展する中、言わば「ロボットの脳」を開発し、現在注目を集めているMUJINのブースを取材。同社CEOの滝野一征に2019年の抱負を語ってもらった。
(文中敬称略)

ターゲットは3PL企業

 1台のロボットアームが、段ボールの箱をせっせとベルトコンベアに移していく。手元に積み荷が無くなったと思った次の瞬間、待機していたAGV(無人搬送車)がすぐ別の荷物を運んできたーー。

 バラバラに置かれた多種多様なもののピッキングを、完全にティーチレスで可能としたロボット・コントローラを開発し、注目を集める新進気鋭の製造ベンチャーMUJIN。同社はFA(ファクトリー・オートメーション、工場自動化)、物流、OEMという3つのビジネスモデルを主軸に展開しているが、今回お披露目したのは物流領域における新たなソリューションだ。

 ロボット・コントローラを作っていることから、これまではロボットメーカーがお客であったが、今回ターゲットに据えるのは、物流業務を一括で請け負う3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)企業となる。

ロボット導入を阻む壁

 実のところ、ロボットを導入したいと考える3PL企業は多い。しかし、物流においてロボットを使い、自動で荷物の積み降ろしを行うためには、その前後工程としてベルトコンベアや立体倉庫といった大掛かりな「マテリアルハンドリング(以下マテハン)」が不可欠である。

 これには何十億円という初期投資が必要となり、完成までに1年以上を要することも珍しくない。3PLとしては、長くても3~4年という倉庫との契約もある中、高いお金を出して自動倉庫を構築したとしても、減価償却をする前にそこから出なければならなくなってしまっては本末転倒だ。

 また、自動倉庫のために一度ベルトコンベアや巨大な設備を作り上げてしまうと、その後のレイアウト変更は非常に難しく、当然ながら簡単に引っ越すこともできない。

 このような事情から、大掛かりな倉庫を建てるメリットが無いと判断され、ロボットの導入も諦めざるを得ないという意思決定に繋がっていた。

物流自動化にAGVを活用

 そこで今回MUJINが提案したのが、AGVを活用したソリューションである。同社の強みはあくまでロボットに高精度なピッキングを行わせるソフトウェアの技術であり、物流の前後工程に関しては管轄外だ。これまでその部分を補完していたのがマテハンメーカーであったが、営業を重ねる中で前述のようなニーズが多いことを鑑みた結果、今回はAGVメーカーと協力し、新しい選択肢を提供しようというのである。

 AGVを活用して荷物を運んでもらえば、大規模な設備が必要なくなるため、初期投資は圧倒的に安価で済む。固定資産としても大した額にはならないことから、すぐに減価償却できてしまうだろう。

 また、AGVは床のコードを読み込んで軌道上を走るため、レイアウト変更も簡単だ。仮に別の倉庫に移ることとなっても、軽量なのでトラックに積んで運ぶことは容易い。

 小規模から手軽に導入できるのも利点だ。まずはライセンス契約でロボットと共に1~2台取り入れて動作を試してもらい、期待通りであればさらに拡大することもできる。

ロボットによる自動化こそ使命

 ただ、AGVも良いこと尽くめではない。マテハンを入れて大規模な自動倉庫を作れば、高さ10メートルといった広い空間を効率良く活用できるのに対し、AGVに積めるのはせいぜい2メートルといったところ。重さには限度があり、あまり荷物を積み過ぎると崩れてしまう恐れもあるからだ。

 また、移動速度も遅いため、大量の荷物をさばくとなるとマテハンの効率性には遠く及ばない。耐久年数としても、マテハンは一度入れれば優に10年以上は稼働するが、AGVは数年で壊れてしまうこともある。

 こうした事実から、MUJINのHR・PR本部長を務める山内龍王は「投資体力のある企業であれば、大規模倉庫を構築して10年単位で使う方がメリットは大きい」と説く。

 実際、マテハンとAGVに優劣は無く、特徴が異なるだけだ。「マテハンをAGVに置き換えようという意図は全く無い」と山内が強調するように、今後は企業の状況に応じた使い分けが行われることだろう。

 あくまで、ロボットを使った自動化を推進していくことこそMUJINの使命だ。3PLの中で、諸事情からマテハンを導入できない企業に、別の選択肢を提案しようというのが今回の試みである。

ベンチャーから脱却する

 MUJINが展示会に出展する際の特徴は、ロボット導入時の様子を出来る限り現実に近い形で再現していることである。そんな同社は、今年夏秋頃にはオフィスを移転する計画だ。現在の8倍以上にもなる広大な空間に、常に動かせる大規模な自動物流倉庫のモデルを構築するという。

 もちろん今後も展示会への出展は続けるが、現場に近いモデルを自社オフィス内に擁することで、提供できるアプリケーションを見える化し、お客が来た際、導入した場合の実感を持ってもらいやすくなるだろう。

 社員数の増加も、オフィス移転の契機となった。1年前には40名ほどであったが、一気に約80名へと倍増したことで、少々手狭になったと見える。

 次々と業容を拡大するMUJIN。CEOの滝野一征に今年の抱負を聞くと、「ベンチャーからの脱却」と答えた。ベンチャー精神は保ちながらも、より責任ある会社に生まれ変わらなければならないとの危機感が滝野にはある。

「今まではベンチャー企業だから許してもらえていた部分がありました。しかし、もはや技術力があるだけではいけない。既に私たちのコントローラは実際のシステムに組み込まれており、インフラとなっています。絶対に止めてはならないという緊張感が必要です」

 これまでMUJINはロボットのコントローラを提供してきたが、徐々にお客のニーズを汲み、ソリューションまで含めて提案できる企業に脱皮しようとしている。2019年も同社から目が離せない。

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