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『島耕作』が「虎ノ門港屋」の幻のそばを復活

『島耕作』が「虎ノ門港屋」の幻のそばを復活

コラボの立役者3人左から菊池氏、弘兼氏、渡辺氏

(企業家倶楽部2019年12月号掲載)

2019年9月9日に日清食品から発売された「虎ノ門港屋」の味を再現したカップそばを召し上がっただろうか?

 商品名は「島耕作も愛した幻の立ちそば 虎ノ門 港屋 辛香るラー油の鶏そば」だ。ちょっと長いがどの言葉も外せない。

 ひと口食べると「ウァ!こんなカップ麺は初めて」と叫びたくなる。「何がそんなに?」という向きに感想を挙げよう。

 フタを開けた瞬間、花椒などのスパイシーな香りがふわりと香り、甘っ辛いつゆにラー油の辛さがからみつく。そして何よりも太くてコシのあるプリプリとした麺がつゆにピッタリマッチしているのだ。このパンチの効いたつゆには普通のそばでは負けてしまう。そばもつゆもこれまでにない味で、一度食べたら病みつきになる。この特別の味が228円で買えるのだからスゴイ。

『相談役 島耕作』の最初の仕事

 この商品は弘兼憲史氏の大人気漫画『島耕作』、元虎ノ門港屋代表の菊池剛志氏、日清食品がコラボして創り出した特別なカップ麺だ。

 「島耕作シリーズ」は1983年、「モーニング」誌面で『係長島耕作』として登場。以来、シリーズ累計部数4400万部を超える大人気漫画だ。島耕作が幾多の困難を乗り越え、昇進していく生き様は多くのファンを取り込んでいる。2013年からは総合電機メーカー「テコット」の会長を務めてきたが、今般「相談役」に就任。その『相談役 島耕作』の最初の仕事が、このコラボ商品というわけだ。

 8月22日には講談社に関係者が集結、記者会見が行われた。

 ここでは『島耕作』原作者で漫画家の弘兼憲史氏が登壇。『会長 島耕作』の連載が終了し、8月22日発売の「モーニング」38号より相談役に就任させたことを伝えた。弘兼氏曰く、島耕作はオーナー社長ではないので、一定期間で会長職を退く必要がある。今後は相談役として、日本経済の発展のために活躍させたいという。

『島耕作』が愛した虎ノ門港屋

 『相談役 島耕作』の最初の仕事が、このコラボ商品の発売である。そばが好きで、「虎ノ門港屋」によく通っていたという弘兼氏は、たびたび『島耕作』の中でも同店を登場させていた。

 「虎ノ門港屋はこれまでのそばに対する常識を破るようなそばを食べさせてくれた。日本そばなのに、つゆにラー油という斬新な味。麺も太くてコシがあってクセになる味わいだった。カウンターにはてんこ盛りの揚げ玉と生卵があって、今までのそば屋の概念を打ち破る味だった」

 そのひいきにしていた「虎ノ門港屋」が2019年2月に突然閉店、今や幻の名店となってしまったのだ。このことも今回のコラボの大きな要因といえよう。

 「菊池氏は大学を出て金融機関に勤務、そば屋で修行していない。だからこそ、そばにラー油という全く新しい発想が生まれたのでしょう。日本料理は進化するものではなく、港屋のように新しい形で新しい味を提供していくのも良いと思う」

 ここで「虎の門港屋」について少し説明しよう。2002年に菊池剛志氏が、東京の虎ノ門で創業。ラー油を使用した「冷たい肉そば」はそれまでにない斬新な蕎麦として人気を博し、店は連日大行列。新しい食文化を創造したとして名を馳せた。この港屋は多くの人に愛されたが、2019年2月、突然閉店した。まさに“幻の名店”なのである。

 続いて港屋の菊池氏がマイクを握った。「僕は子供の頃から『島耕作』のファンでした。まさか、その中に自分が登場させていただけるとは思いもしなかった。これからどういう話が繰り広げられるのか、すごく楽しみです」

 サラリーマンを退職してから1年間こもって必死にメニューを作った菊池氏。「その頃は異常にアドレナリンが出ていたので、あの港屋ができた」と当時を振り返る。メニューは「冷たい肉そば」と「海苔そば」の2種類だけだったが、「温かいそばが食べたい」という要望から「鶏そば」を作った。今回商品になったのは、この「鶏そば」である。

 「味だけでなくお店も斬新。店内が暗くて、ジャズが流れているようなお洒落な店。全てが常識外れでした。海苔そばにはてんこ盛りの海苔がどんと載っていて、皆を驚かせる新しい味がお客を惹きつけた」と弘兼氏の港屋への愛は止まらない。

 「サラリーマンの方々に、一生懸命働いた後のご褒美、また大きな仕事の前の景気づけとして食べていただきたかった」と菊池氏。おかげで普通は立ち食いそば屋というと、男性客がほとんどだが、港屋には女性客も行列を作った。

「幻の味」を再現

 その幻の「鶏そば」を日清食品が再現。実際に担当した日清食品 マーケティング部 第9 グループ ブランドマネージャーの渡邊豪氏がその苦労話を語った。

 「港屋のそばは太くてしっかりした食感のそばなので、作るのに苦労しましたが、カップ麺としては最高レベルのそばの食感になった。あの独特の味は日清流にカップ麺にアレンジ。ラー油をしっかり効かせ、胡椒、山椒、花椒などのスパイスを加えて爽やかな味わいにしました」

 『島耕作』のような漫画のコンテンツと掛け合わせるのは初の試みなので、新風を送り込めるのではないか。既に港屋は閉店しているので、それを思い起こせるような商品に仕上げたという。

 実際に食べた弘兼氏は「花椒の香りが強く、そばは噛んだ瞬間にうわっと跳ね返すような食感で、今まで食べたことのない新鮮な味わい。ちょっと甘辛いつゆも、クセになる」と絶賛。「さすがは日清さん」と、当の菊池氏もその出来栄えに満足そうだ。

 弘兼氏の「虎ノ門港屋」に対する愛が、菊池氏と日清食品の情熱で「島耕作も愛した幻の立ちそば 虎ノ門 港屋 辛香るラー油の鶏そば」として生まれ変わったといえる。

 2018年8月には、被災地支援として、日本酒の獺祭とコラボし「獺祭×島耕作」を創り出した弘兼氏。今回は幻のそばの再現で、ファンを喜ばせてくれた。今年72歳という『相談役 島耕作』だが、まだまだ元気だ。今後どんな活躍をしてくれるか楽しみだ。

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