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【注目企業】グルーヴノーツ 佐々木久美子会長 最首英裕社長

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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地域コミュニティーと企業の共存共栄

地域コミュニティーと企業の共存共栄

(企業家倶楽部2015年12月号掲載)

(文中敬称略)


IoT時代の到来

 世界中のモノや人がネットとつながる世界はもはやSF映画の話ではなく、現実のものとなっている。Wi-Fi をはじめとする無線通信が一般化したことで、ますますIoT(モノのインターネット化)が進むと予想される。それに伴いネット上で飛び交う情報量が増大している。

 データのやり取りが多いことで知られる証券取引所のシステムは、1秒間に数万件の取引が処理可能だ。そのためにハードとソフトを含めて設備投資額は600億円とも言われている。

 各企業で自社のサービスをIT化させようという動きが本格化してきた。無論、一企業が証券市場と同じような仕組みを使いたいと考えてもこれほど高額なコストは掛けられない。そこで膨大な情報を瞬時に処理するサービスを手頃なコストで提供しているのが福岡県天神にオフィスを構えるITベンチャー、グルーヴノーツである。

「もともと瞬時に膨大な情報を処理しなければならないオンラインゲームのバックエンドを支える仕事をしており、大量のトランザクションを可能にするシステム構築のノウハウがあった」と会長の佐々木久美子は自社の強みについて話す。ゲーム業界で培ったコストダウンを図りつつ、処理速度を高め、さらに膨大な量を処理する仕組みをゲーム業界以外にも応用したというわけだ。

 スマートフォンやその他の端末の普及によってネットを介した情報量は膨大に増え続けている。ますます企業はサービスを止めずに運用し、大量の情報を分析することが求められる。グルーヴノーツでは、IoT時代の到来をビジネスチャンスと捉え、高速分散処理技術を強みに事業を展開している。

エンジニアを介するジレンマ

 ITといえば、以前はエンジニアが限られた領域でプログラムを書き、高度な専門知識と特殊なスキルを持たなければ関われない世界であった。しかし、現在では、PCをはじめスマートフォンの普及で誰もがコンピューターに触れる時代になった。インターネットでニュースを読み、様々なものを検索し、ネットショッピングも珍しくない。

 むしろ、スマートフォンを携帯していないと不安に感じる人も多いだろう。カーナビもしかり、目的地を設定すれば初めて訪れる場所でも心配なく誘導してくれる。今では車にアナログの地図帳を持っている人は少数派だろう。ITは我々のライフスタイルにまで浸透していると言えよう。すでに、私たちは普段の生活の中でコンピューターを意識する、意識しないに関わらず、常にコンピューターのネットワークにつながっている状態なのだ。

 老若男女、誰でもITに触れる時代になったが、誰でもプログラムが出来るかといったら、まだハードルは高いのが現実だ。

「ITの専門知識を持たない普通の人が社会の役に立つアイデアを持っていても、そのイメージを正確にエンジニアに伝えることは難しい。以前からエンジニアを介するジレンマがあった。その課題を解決したい」と社長の最首英裕は言う。グルーヴノーツの主力サービスであるIoTとオンラインを支えるクラウドプラットフォーム「マゼラン」は高度な専門知識を必要とせず、シンプルな設計となっている。支えてくれた社員に報いる

「福岡は東京よりも人間関係がウェットな土地柄で、仲間や家族を大切にする義理人情が強い。儲けることも重要だが、信頼できる相手かどうかで仕事を選ぶ傾向が強い」と最首は地方の利点について語る。

 2011年に佐々木と最首がそれぞれスタッフを連れて合併し、今のグルーヴノーツを設立した。創業当初はなかなか受託開発から抜けられず、本来自分たちがやりたいサービスが始められなかった。業績も振るわず、やむなくリストラせざるを得なかったこともあった。

「自分が引っ張ってきた社員に会社を辞めてもらうことは、経営者として一番つらい経験だった」と佐々木は語る。

 逆境はその後も続いたが、残った社員は経営陣に不平不満も言わず、逆に「何があってもついて行きますから、必ず乗り越えましょう」と2人を勇気付けた。

「支えてくれた社員の為にも、何としてもビジネスを成功させ、世の中の人に役立つサービスを造るのが経営者の仕事と思うようになった」と最首は語る。ベンチャーが挫折する理由は、失敗したときよりも小さな成功のときにあるのではないか。

「資金繰りが苦しく、サービスがなかなか立ち上がらないなど苦境のときは意外と潰れない。逆にこんなことで負けてたまるかと組織は団結する」

「しかし、仕事がうまく行き、稼げるようになると、回りも社長をちやほやし、気持ちが満たされてしまう。そんなときが一番危ない」と最首は警告する。情熱のある指揮官が最前線で陣頭指揮を執っていたから事業を拡大出来たにも関わらず、現場を離れてしまっては成長エンジンを失うことになる。企業家は小さな成功に満足せず、自分の本当にやりたいことに集中すべきで、「社長は貪欲さを忘れてはならない」と最首は経営についての心構えを語る。

コミュニティーと共存共栄

 今後、注力する事業として、これまでにないユニークな企画を打ち出した。福岡・天神の目抜き通りに、3Dプリンターやレーザーカッター等の最新デジタル機器を備え、クリエイターやエンジニアを支援する工作スペースと子供たちが身近にテクノロジーに触れることが出来る学童保育機能を併せ持つ「テック・パーク」の運営を始める。

「企業と地域は密接につながっている。会社はコミュニティーだと考えているので、子供が集まる場であってもよい」と佐々木は話す。子供たちは学校が終わると会社に来て、親たちの目の届く場所で宿題をしたり、食事や入浴を済ませ、働く親と一緒に帰宅出来るようになる。

 働く女性は仕事と子育ての両立など制約条件があるが、この試みが女性活用のひとつのモデルとなるかもしれない。

「頑張っている大人の姿を子供たちに見せることもでき、同様に成長していく子供たちの姿も観察できるとなれば素晴らしいこと」と最首と佐々木は新しい働き方について提案する。

「家族に限定するものではなく、オープンな場所にしたい。本気で福岡という街を良くしたいと考えている会社があってもいい。それは、人々の生活を良くするサービスを作るということと根っこでは同じこと」と企業の成長と地域の発展の共存共栄が目標と佐々木は語る。

「優秀なエンジニアが東京やシリコンバレーに行かなくても地元に仕事があればいい」

「エンジニアに選んでもらえるような会社にしたい。逆に東京では出来ないことも地方なら実現可能なこともある」と佐々木は経営者としての使命に燃えている。

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