MAGAZINE マガジン

【第11回企業家賞記念講演録】企業家賞気象情報サービス革命賞 ウェザーニューズ 会長 石橋博良 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

“大堅”企業への道 ~“ワークシェア”ではなく“ドリームシェア”を~

“大堅”企業への道 ~“ワークシェア”ではなく“ドリームシェア”を~

(企業家倶楽部2009年10月号掲載)

 

世界最大の気象情報カンパニーであるウェザーニューズ。09年度第11回企業家賞気象情報サービス革命賞を受賞した石橋博良氏が「アントレプルナーが組織化された“大堅”企業の要件」、「真のアントレプルナーの奥深さ」や「これからの夢」まで、すべてを熱く語った。

夢と志を持った起業家魂が日本を強く明るくする

 私は95年にニュービジネス大賞を受賞し、今年は「WEOY(ワールド・アントレプルナー・オブ・ジ・イヤー)」で表彰していただきました。この「WEOY」は世界各国を代表する起業家の努力と功績を表彰するもので、私は日本代表として参加したのです。そしてさらに本日、この企業家賞をいただきました。こうした経験から改めて考えたのは、ビジネスとは何か、真の起業家魂とは何かということです。

 昔、「慕情(原題「Love Is A Manylendored Thing」)という映画がありましたが、それをもじれば「Business Is Beautiful Thing」。ビジネスは日本を明るく元気にしていく力です。そのビジネスで大切なのは企業家の前に、まず起業家(アントレプルナー)がいること。業を起こすことが原点であり、エンタプライズを立ち上げて、それをしっかりマネジメントすることが大切です。その起業家にとって一番大事なものはオリジナリティ。利益や売上よりも、誰もやっていないことをやり抜いてこそ起業家です。

「make better」だけじゃ面白くない、「make new」をやるべき。夢と志の下に、新しい価値を生み出すことが大切です。従業員の数も大事ですが、単なる人数ではなく、いかに魅力ある職場を提供しているかが重要。また寄付金の額も賞賛のポイントではありません。仲間と一生懸命作り上げた利益は、まず仲間と一緒に使うべき。寄付してコントロールするのが本当の寄付行為です。

 ところで起業ということを一攫千金のノリで考えている人も少なくないのではないでしょうか。または会社を興して金儲けをし、売り飛ばして一丁上がりというアメリカンドリーム型のリッチを求めている人もいるかもしれません。でも真のビジネスとは感謝のリサイクル方程式です。たとえば「消費者」という言葉、僕は大嫌いです。だから僕にとっては「BtoC」でなく「BtoS」。ビジネスを下支えする「S=サポーター」という意味です。つまりサポーターをサポートするようなビジネスをしなければならないのです。「自己実現」なんて言葉も流行っていますが、これもくだらない。大事なのは「他者実現」。起業とは社会が求める新たな財やサービスを作り出し、人々を幸せにするという「他者実現」の行為なのです。それができないところにビジネスはありません。ちなみに渋沢栄一は500以上の会社を作ったんですよ!こんなエネルギーを持った人が平成の世にも現れてほしいと思います。

 さて、ここで一息。起業家マインドに関する質問をしましょう。まず質問1。あなたは野球チームの監督です。1点リードされた9回裏の攻撃中、満塁2アウトで、2ストライク3ボール。打者に対するあなたのサインは「一球待て」ですか。 それとも「打て!」。 

 「待て」はありえませんよね。それが起業家精神です。では質問2。やはりあなたが野球チームの監督だとして試合に先立ち、チームのメンバーに対する大方針は何でしょう。「1点も取られるな!」ですか。 それとも「3点取られたら4点取り返せ!」ですか。  やっぱり「取り返せ!」ですよね。ビジネスはすべてこれです。私の場合も常に「ガタガタするな! 行け行け!」。これでいつも、みんな元気に楽しくやれました。だから起業家マインドさえあれば日本は元気になれるというのです。

ワークシェアはいらない!いい仲間とドリームシェアを

 それともう一つ、企業をサイズで語るのはどうでしょうね。「大企業」という言葉、どうも八百長っぽく、官僚っぽいイメージがありませんか。こんな言葉いらないと思います。気象革命を起こした僕としては、気象庁もいらない(笑)。「大企業」から「中堅企業」「中小企業」「零細企業」というのはすべてサイズ(規模)の問題だけ。それより重要なのは志(夢)の大きさです。だから全部「堅」を入れて「大堅企業」「中堅企業」「中小堅企業」「零細(0歳)堅企業」と呼びませんか。それが流行ったら日本は面白くなるはずです。「大堅企業」とはどこにいてもStrongでSolidな会社、アントレプルナーシップが組織化された会社です。その要件は「サポーターとの共創」。「競争」じゃありませんよ。それに「誠実さ・透明性」。ちなみに気象庁より僕の方がずっと透明性がありますよ(笑)。それに「イニシアティブ」「相互信頼」「マネージメント」「イノベーション」など。みなさん、ぜひ、そんな「大堅企業」「中堅企業」「中小堅企業」「零細堅企業」になってください。

 ところで、ウェザーニューズでは社員を「労働者にさせない」ということを大切にしています。経営職はありますが、総合職や事務職というものはありません。また労働法でなく、仕事法があります。僕達は「労働者」でなく「仕事人」を求めているのです。労働者は、チャンスは不平等に求めるのに、結果は平等を求めます。でも仕事人は、チャンスは平等であるべきだが、結果の不平等を容認します。

 そしてまた労働者は嫉妬のかたまりの「egoist」(自己実現)ですが、仕事人は「withist」(他者実現)なのです。ここ数年の新入社員の中に、この「労働者」が多いのが、私が腹を立てていることの一つ。同じように有利不利、損得勘定で仕事を選ぶ者が多いのも気になるところです。

 さて最近の私が抱くロマンとファン(fun)をお話しましょう。それは元南極観測船「しらせ」です。南極観測船を引退した「しらせ」にはスクラップにしようという案が持ち上がりました。「オイオイオイ、25年も仕事をしたのに、そりゃないだろう!?」と考えた僕は立ち上がりました。南極観測船としてがんばった第一の人生を終えた「しらせ」に、環境を考えるミッションという第二の船出を果たしてもらおうと思ったのです。具体的には、まず「しらせ」を千葉に持って来くるのが目標です。そして「千葉アドベンチャークラブ」という、ビジネスの海に出航する起業人・企業人が集う場にしたいと考えています。

 もう一つの私の夢は「Japan Based Global Company」を創ること。拠点は日本であってもグローバルなスタッフとともに、幕張basedで働く組織を創るということです。これは今まで我々の先輩が作ってきた会社とは絶対に違うものです。そして、そんなスタッフ達と一緒に「ドリームシェア」をしたい。「ワークシェア」じゃなくて「ドリームシェア」です。「ワークシェア」なんて最低な言葉は、日本から失くさなければなりません。これも最近私が腹を立てていることの一つ。そんなちぢこまった発想じゃダメなんです。

 たとえば僕が夢見ているのはバスコ・ダ・ガマもコロンブスも考えたことのない北極海航路。北極海からロシア、アリューシャン列島、千島列島から、東京へ。「この航路を実現するために、自分で衛星を飛ばそう!」とも考えています。これは僕の夢ですが、こんな「ドリームシェア」をすることが大切なのだと思います。そして、もう一度言いますが、重要なのは起業家魂!それがこれからの日本を元気にしていくのだと信じています。

P r o f i l e

石橋 博良(いしばし・ひろよし)1947年、千葉県生まれ。北九州大学外国語学部英米学科卒業後、当時10大商社の1社に数えられていた安宅産業株式会社に入社(77年10月、伊藤忠商事に吸収合併)。入社2年目に、急激に発達した低気圧の影響により船が沈没し、船乗りの命を失う事故に遭遇。この事故が契機となり、船乗りの命を守るために73年、シリコンバレーに本社を持つ海洋気象情報会社「オーシャンルーツ」に転職。76年、29歳でオーシャンルーツ日本支社代表取締役社長に就任。86年、オーシャンルーツから陸上、航空部門を買い取り、MBOで独立。ウェザーニューズを設立し、代表取締役社長に就任。93年、かつての親会社のオーシャンルーツを買収。2000年、ナスダック・ジャパン(現・ヘラクレス)上場。現在は東証一部に指定替え。

一覧を見る