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【注目企業】佐竹食品代表取締役社長 梅原一嘉

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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スーパー業界の地位を上げたい

スーパー業界の地位を上げたい

(企業家倶楽部2017年6月号掲載)

 日々の献立は主婦にとって悩みの種だろう。考えを巡らせつつ、ため息混じりに義務感で向かうスーパーが楽しいものであったら、どんなに良かろうか。

 そんな切なる願いに応えるべく、「日本一楽しいスーパーマーケット」を掲げて躍進するのが佐竹食品だ。同社は大阪・吹田市を中心にスーパーマーケット「satake」を手掛けるだけでなく、神戸物産のフランチャイズ加盟店として業務スーパー「TAKENOKO」も展開。両業態合わせて37店舗、グループ売上げは2016年度518億円にのぼる。同社社長の梅原一嘉は「価格の安さだけでなく、プラスアルファの楽しさでこそ選ばれたい」と語る。

 スーパーでは、近隣の店舗との価格競争が繰り広げられるのが普通だ。ある店が大根1本98円で売れば、対抗して95円で売る。言わば薄利多売のビジネスモデルである。消費者も「商品はどのスーパーで買っても同じ」と考えており、価格以外にスーパーを選ぶ基準を持っていない。確かに、工場で大量生産される類の商品はどこで買っても変わりない。それならば安い方が得だと考えるのは当然かもしれない。

 しかし、地元の夏祭りでフランクフルトの行列に並んでいた時、梅原はあることに気付いた。店主が焼いていたのは、自分が経営する業務スーパーで売っているソーセージだったのである。

「皆、うちの空調の効いた店内で買えば、快適に何倍も安く買えるのに……」

 そう考えた梅原だが、周りを見渡せば、普段は眉間にしわを寄せてスーパーを訪れている人々が楽しそうに並び、高いフランクフルトを買っていく。スーパーではいつもギリギリの値段で販売し、時には赤字覚悟の大安売りまでしていることを考えれば、その差は歴然だった。経済的に考えれば、スーパーで買う方が良いに決まっている。だが、買い物にも楽しさという要素が必要だと強く実感した梅原は「日本一楽しいスーパーを作ろう」と固く誓った。

大阪・八尾市の久宝寺駅前店

従業員のサービスが武器

「他店は価格で勝負していますが、弊社の武器はサービスです」と梅原は熱く語る。もちろん佐竹食品も、決して他社と比べて値段で引けをとるわけではない。しかし、それは他社より安く売ることで集客するためではなく、来店したお客に喜んでもらうためだ。

 佐竹食品では、必ず責任者が早朝の市場に足を運んで問屋から商品を直接仕入れている。電話やインターネットでの注文が主流になった今では珍しいが、佐竹食品が取り扱うのは生鮮食品だ。必ずしもスケールメリットが働くわけではない。大量に仕入れれば単価が安くなる工業製品とは違い、作物の出来や他社の仕入れ状況によって価格が左右される。こればかりは、市場に足を運ばなければ分からないのだ。

 何より同社が誇るのは、従業員のサービスや各店舗が独自で行っているイベントである。ある店舗では、お正月に餅を配布するイベントを開催した。しかし、店長は若い男性。餅をこねる機械を用意したものの、作り方が分からない。困った彼が常連客に相談すると、作り方を丁寧に教えてくれた。更に、餅を蒸すせいろなどを用意し、当日もスタッフと一緒に参加したほどであった。

「イベントの様子を見に来たら、知らない方がスタッフに混じっていて驚きました」と梅原は笑うが、お客と密度の高いコミュニケーションをしてきたからこそのエピソードだろう。梅原は「うちではおに商品の話をできるだけでは二流」と断言。佐竹食品における接客の神髄は、お客と何でも話せるくらい親密な関係を構築するところにある。

 このサービスの根底にあるのは「正直・感謝・信頼・素直・根性・挑戦」という6つの基本姿勢だ。それがあって初めて、同社の強みが活かされ、オリジナリティ溢れる楽しさと感動の接客ができる。

「お客様が喜ぶことなら何でもあり。面白いと思ったらやってみればいい」

 こうした梅原の考えの下、権限は各店に委譲され、イベント用の予算の中で店舗が自由に季節の飾り付けやイベントを行う。

 もう一つ、他社スーパーには無い同社の特長は、「佐竹通信」というメディアだ。例えば、メーカー特集を組んで作り手のこだわりや想いを伝えることも。そこでは、価格の話や広告は一切なし。メーカーなどから費用をもらうことも無く、全て自社で作り上げる。毎月1日から店頭で配布する佐竹通信では、ただひたすらお客の有益となる情報を提供することに心血が注がれ、好評を博している。

 梅原は「単なるお客ではなくファンを作りたい」と常々考えている。ファンとは、無条件に応援してくれる存在。たとえ佐竹食品の店舗の目と鼻の先に大手スーパーが出店しても通い続けてくれる、そんなお客だ。今では引っ越したお客から「新居の近くにも出店してほしい」と望む声が届くほどになった。

従業員満足が顧客満足を作る

 ただ、現在のような「楽しいスーパー」を全社で目指す道のりは平坦なものではなかった。「楽しい店舗を作るのは従業員。そのためには、人材育成に投資しないわけにはいかない」。そう考えた梅原は、人事コンサルティング会社に依頼。しかし、「当時は反対の声が多かった」と振り返る。「コンサルに払うお金があるなら、給与を上げて欲しい」という声もあった。役員研修の最中だというのに、問屋からの電話に出て中座してしまい、そのまま発注業務を始める者までいたほどだ。しかし、粘り強く想いを語り続けることで徐々に味方の数は増加。2009年、700名を越えるスタッフ全員が集まっての社員総会が実現した時の感動は忘れられない。

 スーパーでは朝早くの仕入れに始まり、毎日長い時間お店を開けて、夜遅くに閉める。労働時間が長くなるのもやむを得ないと考えられてきた中、佐竹食品ではついに週休2日を達成した。梅原は「嫌々働いているスタッフがお客様を楽しませることはできない」と、従業員満足度を重視する。

 そんな同社では、スタッフの半数が正社員。一般的に、スーパーのスタッフは8割がパートやアルバイトであることを考えると驚きの数字だ。また、子育てが終わったパートが正社員となることや、反対に、家庭に重きを置きたい社員がパート勤務に変わることも流動的に行われる。

「周囲がその人の働きを認めているのであれば、働き方にはこだわりません。むしろ、こうした施策が元気に楽しく働ける理由の一つになるなら嬉しい限りです」

 梅原が大事にするのはお客や従業員だけではない。「従業員も取引先も、関係する全員がチームの一員」との想いを全社で共有している。これは、かつて業務スーパーを手掛ける系列会社「U&S」の社長を任された際の苦労の経験からだ。

「現会長である父と喧嘩別れをして新会社を作ったのではないかといった、根も葉もない噂もあり、父と取引をしていた問屋の中には快く取引をしてくれない店もありました」

 支払期限も厳しかったこの時、問屋に売ってもらえなければ安く仕入れるどころか売るものすらないことを痛感した梅原。安くて良いものが入ってきても、どの店に声をかけるかは問屋次第だ。「良い関係がなければ、良い取引は出来ない」と口を酸っぱくする梅原は、今でも新たな問屋と契約する際は、既存の問屋からの仕入れを減らさないことを徹底している。

市場で直接買い付けた野菜が並ぶ

事業目的を持て

 3月23日には神奈川・相武台にTAKENOKOの4店舗目を出店した。関東でのオペレーションに慣れたところで、satakeの進出も視野に入れ始めた梅原だが、「何のために事業を行うのかが重要だ」と説く。店舗が増えればポストも増え、さらに人材の育成が進むだけではなく、ファンも増えることは間違いないだろう。ただ、やみくもに出店数を増やす考えは無い。

 梅原の夢はスーパー業界の地位を上げること。10年後には「スーパーに就職すれば両親に安心される。そんな業界にしたい」と意気込む。上場も視野に入れ、アクセルを踏み始めた佐竹食品。生活の一部でしかなかったスーパーが、日常を彩る少し特別な場所になる日も近いかもしれない。

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