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【トップに聞く】理研ビタミン 代表取締役社長 堺 美保

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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社会の信頼と期待に生産技術と研究開発で応えたい

社会の信頼と期待に生産技術と研究開発で応えたい

(企業家倶楽部2015年12月号掲載)

 

創業66年。理化学研究所のベンチャー企業として、ビタミンAの製造販売からスタートした理研ビタミン。今ではカットわかめやノンオイルドレッシングなど、内外の食卓に欠かせない商品を生み出している。2014年に東証一部指定となり、日本を代表する企業の一つとして躍進中だ。中国をはじめ海外事業の割合も大きく、食品や樹脂の品質改良剤モノグリセライド、健康食品など、新たな分野の事業にも余念がない。食品業界、小売業界の激動の中、大きな転換期を迎えた同社の堺美保社長に、新中期計画や今後の成長のポイントを聞いた。
(聞き手:本誌編集長 徳永健一)

設立65周年の節目に東証一部へ

問 2014年12月3日に東証一部へ指定されました。社内外の反応はいかがですか。

堺 事業内容を変えたわけではないので、特段大きな変化はありませんが、一部上場企業として世間からの注目度も上がり、メディアに登場する機会も増えました。
 従業員の意識も変わり、これまで以上に自信と誇りを持って仕事をしようというモチベーションに繋がり、さらなる進化と成長を図っていきたいと思っています。

問 世間の理研ビタミンへの期待なのか、株価も上がりましたね。採用など変化はありましたか。

堺 採用は担当者が「かなり違う。エントリーする学生のレベルも明らかに上がった」と言っていました。

問 一部上場の基準は既にクリアしていたのに、なぜ今このタイミングでの指定だったのですか。

堺 理研ビタミン設立65 周年の節目でもありましたので。1961年に東証二部に上場して54年が経っています。
 
独自性を発揮してこそナショナルブランド

問 最近の食品業界についてはいかがですか。

堺 理研ビタミンは、BtoBとBtoCを両方手がけています。消費者向けは小売業の皆さんにお世話になります。小売業は食品スーパーやコンビニはもちろん、ドラッグストアなど、今まで食品のウェイトが低かった店舗でも売り場が増えています。消費者の胃袋は縮少する中で、売り場が増えているということは、当然競争が激しくなります。

 また既存の有力な商品はどんどんプライベートブランド(PB)化されています。ナショナルブランド(NB)メーカーは自分の売り場を持たないのが一番の弱点で、自分たちの主力商品がPB商品になると、同じ棚から弾き飛ばされてしまいます。PBの台頭でNBは押し込まれてきていて、決して良い状況ではありません。

 売り場が増えれば、価格競争による差別化に陥りがちです。今好調と言われているコンビニもPB商品が多くなってきています。そのPB商品をつくっているのはNBメーカーです。しかし、独自性のある新しい生産技術で新しい差別化された商品をつくり、新しい事業力を発揮できる仕事をつくることこそメーカー本来の使命です。PB商品をつくるのに忙しいというのでは、ベンチャースピリットが忘れられてしまっている証拠でしょう。

 また、小売サイドから通常のNB商品より安く作れないか、より付加価値のあるPB商品を作れないかと打診され、その商品がお客様に支持されて売れることもあります。NBメーカーとして今まで何をやっていたのだと強く思います。
 
海外事業が成長の要

問 新中期計画の焦点について教えてください。

堺 2015年の4月から2018年の3月までの3年間で、年間売上945億円、営業利益75億円、ROE6.0%以上を数値目標に掲げています。達成するための課題として、収益改善があげられます。消費者からの支持を頂いている家庭用商品の、価格の見直しも重要課題の一つです。

 業務用はこれまでの商品を確実に販売していくと同時に、これまでなかった冷凍海藻に力を入れます。今一般流通しているわかめに塩蔵わかめがあります。乾燥カットわかめも原材料は塩蔵わかめ。塩蔵わかめは浸透圧で水分を除きますので、その時に細胞壁が壊れて食感が本来のわかめとは異なったものとなります。一方、冷凍わかめは、塩による脱水処理はなく、これまで浜にいる人しか食べられなかった、わかめ本来のしゃきしゃきした食感を楽しめます。また、使用するにあたって塩抜きや水に戻すという工程が必要ないので、外食産業の現場で非常に便利です。

問 わかめの主要な産地はどちらですか。

堺 岩手県、宮城県です。わかめは1年で収穫できるので、三陸の復興に大きな貢献を果たしました。ただ福島原発の問題がまだあるので、すべて放射性物質を検査し、原料わかめと製品について結果を理研ビタミンのホームページに掲載して安全性を訴求しています。

問 改良剤事業はいかがですか。

堺 パンや麺、豆腐、アイスクリームや冷凍食品などの加工食品に使われているモノグリセライドを中心とする改良剤は、これまで通り順調に推移しています。食品だけでなく、化成品にもソリューション事業として潜在需要があります。

 プラスチック樹脂製品などに使うと、可塑性の向上、透明度のアップ、帯電防止等の機能があり、食品用のラップや農業用ビニールハウス、小さなお子さんのおもちゃなどに使われます。元々が食品添加物なので、安全です。

 国内では環境に配慮してラップの需要が減ってきていますが、他にも生活関連製品に必要な潜在ニーズはあります。アプローチを変えることで国内化成品は伸びるでしょう。

 海外での需要は主に新興国で伸びています。新中期計画でも成長エンジンの一つと考えており、食品と改良剤合わせての海外売上高の比率の目標を、全社の30%としています。

問 中国はいかがですか。

堺 青島福生食品は売り上げが100億円近くになり、連結決算の中でも大きな比率となっています。冷凍水産物や乾燥野菜を扱っていますが、これまでメインであった労働集約型の仕事を、今後は付加価値型の仕事へとシフトさせていきます。現地のスタッフに新しい事業の芽となるようなアイデアを出してもらい、試作している段階です。欧米や日本への輸出から、中国13億人の国内市場に目を向けます。
 
広い視野を持った人材の必要性

問 一部上場企業として、育児休暇や時短勤務も取り入れられましたね。

堺 理研ビタミンには在宅勤務以外、世間一般的な基本制度はほぼあります。従業員の制度の活用機会も増えてきています。国も宗教も男女も問わず、多様性をもった人材が力を発揮出来るような体制や風土を創るのが会社の役割でしょう。

 日本は物理的に労働力が少なくなってきています。今後は男性は70歳くらいまで働いて、力を発揮してもらえるような組織運用が課題となってくるでしょう。自分の経験からも、70歳までは問題なく働けます。理研ビタミンには今、社員だけで約910名の従業員がいます。

問 80歳でも平気そうにお見受けします。後継者についてはいかがお考えですか。

堺 世代交代は必要です。プロの経営者を外から招へいすることは考えていません。

 理研ビタミンのようにスケールは大きくないが、国内外、業務用も消費者向けの商品も扱って多様化している企業には、理研ビタミン全体を広く分かっている人が経営するのがいいと考えています。

問 後継者の条件は考え方の合う人ですか、業績を残した人ですか。

堺 多様化している企業なので、ひとりの力で業績を上げたという見方はできません。昔のようにカリスマ性のある人間がというのもありません。高度成長時代に成功体験を持っている人は多くいますが、この失われた20年の間にどれだけの人が成功体験を持っているでしょう。

 仕事のしかたが専業化し、分業化している現代です。その中で、全体を見渡す広い視野を持った人材が最も適しているでしょうね。

P r o f i l e 堺 美保 (さかい・よしやす)

1939 年9月23日生まれ。63 年、東北大学農学部食糧化学科卒。同年4月、理研ビタミン油(株)入社。本社工場東京研究課配属。70年草加工場技術グループリーダー。82 年本社食品企画室長。88 年取締役。食品事業担当。92 年常務取締役。95年代表取締役専務。営業部門担当。96年、代表取締役社長に就任。

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