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【トップの発信力vol.12】佐藤綾子のパフォーマンス心理学

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

もう、名刺交換はするな。

(企業家倶楽部2012年10月号掲載)
 

企業家賞のパーティで

 先日、企業家倶楽部の「企業家賞」授賞式に参加させていただきました。その時に、友人が私に初対面のFさんという方を紹介してくれました。「こんにちは、Fさん。佐藤綾子です」と名乗り、「ちょうど明日から、『もう、名刺交換はするな。』という新刊をフォレスト出版から出しますよ。とてもお もしろい本なんです。お腹を抱えて笑うくらいおもしろいのですが、ビジネスシーンで初対面の人と会う機会が多い方には勉強になることがいっぱいあるんです」

 そう言って名刺を差し出したら、Fさんがニッコリしてすぐに、私にしっぺ返しをしました。

「『もう、名刺交換はするな。』と言いながら、名刺を出すんですね、アハハ。私の名刺も受け取ってくださいね。ダメって言われてしまうかな?」

「いえいえ、間違った名刺の出し方なら出すな、ということです。でも、上手にその名刺を活かして人脈づくりや新しい仕事につなげるのならば、どんどん名刺交換はしたほうがいいですね。今度の本は、初対面から上手に名刺交換をして必ずそれを仕事につなげたり、人脈に育てたりするための具体的な方法を書いた本なのですから」

「ああ、そういうことですか」となりました。

あまりにも無意識な名刺交換

 日本人は、本当に名刺交換が好きです。海外の友人たちが、「あんなに名刺を交換して、すべて名前を暗記しているのか?」と驚くくらいです。

 でも、日本では名刺交換が習慣化されてしまったことが災いして、あまりにも名刺が有効活用されていないことが、最近ずっと気になっていました。その証拠に、先の話の企業家賞のパーティなどに出ていても、皆さんどんどん名刺交換をするのですが、もらった名刺にろくに目も留めずにサッと名刺ケースに入れてしまう人もいます。あれで相手の名前や肩書きが頭に入っているのかと、ふと心配になります。

 もらうと同時に名刺を手渡すこちら側も、相手にとってなんらかの“メリット”がある有能な人であるという印象を与えることができなければ、あなたの名刺は永遠に相手の名刺ケースにしまい込まれ、時間がきたらゴッソリと捨てられてしまうかもしれません。

 もらっただけで次の仕事や出会いにつながらなければ、名刺は単に小さな厚紙に過ぎないのです。

 いつかは燃えるゴミになってしまうだけのこと。資源もムダ、労力もムダ。渡したつもりが、ただ余分な動作をしたに過ぎないと気づかされるのは、なんと虚しいことでしょうか。

あなたの「名刺活用度」チェック

 さて、そうならないためにも次のチェック表で、あなたの現在の名刺に対する考え方を確認してみてください。

< 名刺活用度チェック表 > 

次の5項目は正しいですか?

① 名刺に書いてある肩書きが偉ければ、その持ち主は偉い人である

② 名刺の肩書きは、すべて「現在活躍中」を表している

③ よい名刺を持っている人は、よい人である

④ 「元○○」の肩書きは、現在もそのポジションで活躍中である

⑤ 肩書きがいくつもズラリと並べてある人は、すべてに同じように力を入れている

 なぜ、もらった名刺がなかなか役に立たないのか?
 
 それは、相手の名刺に書いてある肩書きを鵜呑みにして、「この職業の人だから、きっとこういう人だろう」と思い込む、私たちのカチカチの思考パターンが理由のひとつです。

 この職業ならばこのタイプに違いない、というようにグループ分けする考え方を、「カテゴライゼイション」(枠にはめる作業)と呼びます。

 例えば、

①警察官←きっとお堅いだろう

②裁判官←きっと正直者だろう

③デザイナー・芸術家←きっと個性豊かだろう

④保育士←きっと子ども好きだろう

⑤国会議員←きっと国のことを第一に考えているだろう

⑥医師・弁護士・司法書士・会計士・大学教授←きっと頭が良いだろう

 落ち着いて考えてみれば、どれもまったく間違いだらけということに気づくでしょう。

 でも、実際に異業種交流会やパーティなどでバタバタしている最中に名刺を交換すると、つい手っ取り早く、このカテゴライゼイションで相手を判断してしまいます。

 そして、「多分この肩書きならば、重要人物だろう」と、その人との話が長くなる。その人は、本当は名刺の肩書きとは随分違う、実力が伴わない「ミスター・ハズレクジ」かもしれないのに。

 その間に、もっと大切な、あなたが直ちにこの場でつかまえて話をしなければならない人が、気づけば先に帰ってしまっていたりする。それが、まずいのです。

 名刺のカテゴリーに縛られずに、「その人」を判断するために最も大切なことを、ひとつだけここでお伝えしましょう。

 それは、「その名刺の持ち主」をしっかりと見ることです。

名刺の持ち主の「顔」を正確に見る

 例えば、顔の表情に活気がある時、その人はビジネスでうまくいっている人です。

「顔なんか見る暇がない」というのは言い訳です。

 なぜならば、延べ4000人のデータをとっている私の実験で、たった2秒間でもしっかりと相手の表情を見れば、その人が優れた人なのか、そうでない人なのかが、きちんとわかることが証明されています。しかも、5秒でも10秒でも、第一印象は変わらないこともわかったのです。もちろん、ボヤッと見ていれば、2秒の30倍である1分間見ていても、何もわからないでしょう。集中して相手を見れば、2秒で充分なのです。

 そうなると、名刺交換をしている際に見るべきは、名刺に書いてある文字と同時に、その人の「顔」。顔の表情が生き生きしているか、姿勢が堂々として元気そうか、エネルギーが溢れているか、名刺の肩書きと服装との間に極端な違和感(例えば「代表取締役」と書いてあるけれど、どうやら着ている服はまったくお粗末である)、そういうギャップをしっかりと見てほしいのです。

 結論をはっきり言えば、活かせない名刺なら交換しないほうがいいのです。

 名刺を活かすためには、あなたの観察力と、相手を見る習慣が必要です。

 そしてもちろん、自己アピールがきちんとできることも条件です。

 紙面の都合上、今回は大事なポイントをひとつ書くのに留めましたが、もしも機会があれば、前述の拙著を読んでみてください。巻末には、『企業家倶楽部』でもお馴染みのワタミの渡邉美樹氏、ジャパネットたかたの髙田明氏、ファーストリテイリングの柳井正氏、ニトリの似鳥昭雄氏に、最初に私が出会った時の名刺交換のエピソードを、音声データでダウンロードするおまけがついていますから、是非それで確認してみてください。

(前述の表の答えは、すべて「間違い」です)

Profile 佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。連載月刊誌8誌、著書168 冊。「あさイチ」(NHK)、「教科書にのせたい!」(TBS 系)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はi n f o @ k i g y o k a . c o m まで

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