会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2013年4月号掲載)
「エグゼクティブ」とは、「人の上に立つ人」。肩書き上は、執行役か重役、役員であったりします。
もとになる動詞形は「execute」で、「契約書などを読んで署名・捺印をし、正式にその契約を決定して執行する」。つまり、契約を実行する「最終責任者」、「責任を取る最終の人」なのです。
ちなみに、死刑執行人は「executioner」、遺言執行者は「executor」で、大変な人なのです。
まずは、自分が約束を守る。そして、まわりの人にも約束を守らせて、有効な「ダメ出し」ができる人、実行させるプロ。彼らは当然のことながら、人を見抜いて的確な指示を出さないと、最後の責任が自分に回ってきます。
だから、人を見る目が優れていて、相手のタイプを的確に見極め、その人に合った「クギ」を刺すことで、その効果を発揮します。
部下の「スイートスポット」にはまらないクギは無駄
目の前の部下の性格や感情に合わないと、せっかくの「エグゼのクギ」も逆効果になるため、彼らが今どのような感情を持っているかによって、言い方を微妙に変えていく必要があります。
何かを言われて心地よいと感じるかどうかは、部下の性格によって、タイプ別にその心の「スイートスポット」がどこにあるかが決まり、そこにはまったクギだけが有効になるからです。ここではパフォーマンス心理学的に、次の4タイプの「スイートスポット」を外さないためのヒントを列記します。
①内向的な「劣等感」タイプ
②攻撃的な「優越感」タイプ
③保身欲求の「狡猾」タイプ
④成長する「バランス」タイプ
誰の心にも「コンプレックス」があります。コンプレックスはもともと「複合型」という意味ですから、人の心がいくつかの「感情の複合」から成り立っていることを表しています。
劣等感や優越感から自由になれる人はいません。皆がこの2つを持っているのです。 ただ、この2つのバランスをうまくとりながら、劣っているところは直し、優れているところはより伸ばしているのが、きちんと成長していく多くの「バランス型」人間の特長です。
①内向的な「劣等感」タイプへのクギ刺し
まず、最も扱いにくい「劣等感」タイプ。この人たちは何を言われても、「どうせ私なんか」と後ろに引いたり、せっかく大きな仕事を与えようとしても、「とても私にはできそうもありません」と尻込みしたりします。
ちょっと強く叱られると、すぐに落ち込みます。
また、まわりで他の人が褒められているとおもしろくないので、わざわざ書類やパソコンの音を大きく立てて、聞こえないような手筈を整えます。
劣等感の強い部下については、ただひたすら褒めればいいものと早飲み込みしている人が多いのですが、それは違います。「先日の企画がとても良くて、僕も鼻が高かった」「がんばった君にこんな力があるなんて、本当に驚いた」といった具合に、具体的に「今できていること」はきちんと褒めましょう。その上で、次の仕事を指示し、かつ「失敗しても大丈夫。その時は自分が責任を取るから、思い切ってやるんだ」という調子で、にこやかに・おおらかに・朗らかに、ポンと肩を叩きながら、そんな「励ましのダメ押し」が効きます。
②攻撃的な「優越感」タイプへのクギ刺し
「優越感」タイプは、自分が優れていると思っているのですから、いかにも「成長好き」で指示が出しやすそうですが、これはこれでまた大変です。
自分が優れていると思っているので、上司が異なる意見を言うと、「お言葉ですが……」と反論しないまでも内心おもしろくないと思って、「わかりました」と口先だけで返事をしたりします。
彼らにはなんとかして、「世の中、広いんだよ」ということを教える必要があるのです。
でも、のっけから「何を『井の中の蛙』をやってるんだ。君ぐらいじゃ大したことないよ」と言うわけにもいかないでしょう。そんなことを言ったら、反発を招くだけです。
しかも、優越感タイプは「上司のあなたのほうがおかしい」と言って、まわりに言いふらしたりもしますので、被害も大きいのです。
それよりは、「君だけにしか、この仕事はできない」とか「君だからこそ、できるんだ」という言い方で、他の人との「差別化」をしっかり言葉で表しましょう。その時に、「そういえば、○○社の△△君がこんな素晴らしいプランを出してきたよ。参考になるかなあ?」と、さらに優れたものを提示するのもひとつの手です。上には上がいる、ということを知らせておく必要があるのです。
③保身欲求の「狡猾」タイプへのクギ刺し
組織が古い場合にありがちですが、自分のミスがバレないようにと「保身欲求」ばかりが強く、失敗しないことが第一で、新しいことにはまったく挑戦したがらない人がいます。
こんな部下は、実は大きなトラブルを抱えていても、「何かあった?」と聞いたところで「別に」と答えるので、問題を見つけ出すのが大変です。
それを見抜くには、彼らの顔をよく見るのが一番です。視線を合わせて、アイコンタクトを充分に返してくるかをよく見てみましょう。その上で、「どうやら現状の問題をスルーしているな」とわかったら、すかさずこう言いましょう。
「それで、現在の具体的な状況を中間レポートにして明日までに提出するように」
ここで相手が、素直に「ハイ」と明るく言うか、ギョッとするかで事態が判明します。
④成長する「バランス」タイプへのクギ刺し
最後の「バランス」タイプは、自分の劣等感を地道に克服しながら、小さな優越感の虜にもならず、前へ前へと進もうとしている多くの素晴らしい社員たちです。この人たちに「ダメ押し」のクギを刺すならば、太く大きく、永続性のある言葉が最適です。
「今までの君の仕事は素晴らしい。次は、さらに大きなことをやってほしい」という言い方です。
彼らは自分の潜在能力を磨くことに快感を覚え、新しいことを学びたいと思っているので、チャンスがあれば感謝をして仕事に励みます。こんな部下を持つエグゼクティブは、本当に幸せです。
エグゼの「クギ刺し」の技術が確かならば、さまざまなタイプの困った部下たちも、やがて成長し、このタイプに変化していくでしょう。結果、効率よく仕事が進み、トップの余計なストレスも減ることでしょう。
これらは、私の20年に及ぶビジネスセミナーでも、詳しい実験データのあるものです。ぜひ『エグゼクティブの「クギを刺す」技術』(すばる舎)をご覧になってみてください。
注)佐藤綾子著『エグゼクティブの「 クギを刺す」技術』(すばる舎)より引用
【困った3 つのタイプへの「クギ刺し」】
●内向的な人 マイルドな言い方で「励まし風味の念押し」をする
●攻撃的な人 正面から否定せず、「Yes, and」で伝える
●狡猾型 真実を語らせる
【その他のタイプへの「クギ刺し」】
●威張り屋 おだてながら、クギを刺す
●従順なタイプ 判断を求めず、明確に指示する
●見栄っぱり 事実を尋ね、自省を促す
●言動にズレがある人 嘘を言っていることがわかったら、すかさず指摘する
●慎重すぎる人 決断を援助し、「結果を楽しみにしてるよ」と背中を押す
●強欲型 曖昧な態度を取らずに、きっぱりと意志を伝え、お灸を据える
●手を抜く人 警告するため、同じことを続けることのリスクを伝える
●追従欲求タイプ 次にやるべき具体的な内容を明示し、本意を探る
Profile 佐藤綾子
日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『プレジデント』はじめ連載9誌、著書170 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで