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【デジタルシフトの教科書】第3回 デジタルシフトウェーブ 社長 鈴木康弘

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

デジタルシフトは推進体制の構築が肝

(企業家倶楽部2019年6月号掲載)

 

デジタルシフトは第二の創業と同じ

 デジタルシフトは、企業にとっては「第二の創業」とも言える取組みとなります。未来の顧客を見据えて、今迄のビジネスを再構築することになり、それは一から創業をするのと同じだからです。このような場合、経営者が決意をして部下に命じても、組織は動きません。会社の創業経験がある方ならばお分かりになると思いますが、何もないところから事業を立ち上げる際には、自分が何を目指しているのかを示し、そのビジョンに共感してくれた人が集まり、議論を重ね創りあげていきます。デジタルシフトを推進する場合は、創業と同じように進める必要があります。このように「第二の創業」とも言えるデジタルシフトは、まず経営者がビジョン(目的)を明確化することからはじまります。社会の動向、業界の流れ、そして顧客の変化を意識したビジョンをつくり、経営者自ら社員に語りかけ、共感を得たときが本当のスタートです。

ビジョンが作れない経営者、必要と感じない経営者

 最近、デジタルシフトについてのご相談をよく受けます。そのときに、ビジョンの大切さを説明させていただくと、経営者の方から、「ビジョンを作ったことがないんだ」「ビジョンなんて必要ないのでは」という言葉を聞くことがあります。大手の企業の経営層の方に多いように感じています。そういった企業は、既に社会において認知された企業であり、経営者も何代も交代してきた会社、既に経営理念、企業文化があり、長年積み重ねてきた仕事の仕方があり、その枠の中で仕事をしてきたため、改善は得意だけれども、0から考える改革は苦手な方が多くなってしまったのではないかと思います。結果として、ビジョンを自ら掲げることに対し、経験が無かったり、恐れがあるのかもしれません。しかし、既に決意を決めている経営者にとっては、経験が無いだけであって何も恐れる必要はありません。

皆が反対する意見は大抵成功する

 経営者がデジタルシフトに向けての新たなビジョンを語ると、聞いている殆どの社員は「えっ、殿ご乱心!?」という反応だと思います。日々、目の前の業務、責任を果たそうとしている社員達に、未来のことを語るのですから、当然の反応だと思います。経営者ほど会社のことを考え、会社全体のことを把握し、会社の未来を考えている人はいません。その経営者が掲げるビジョンをすぐに社員が理解することの方がありえないことなのです。むしろ、「それは良い案ですね!」という反応の方が、改革ではなく改善に留まっているのではないかと不安に感じるべきだと思います。初めてビジョンを語ったときには、こう考えてください。新規事業、改革を推進するときには、「皆が賛成するものは大抵失敗し、皆が反対するものは大抵成功する」と。

企業変革=組織の変革×個人の変革

 デジタルシフトのビジョンを宣言し、いよいよ改革推進体制の構築です。この体制は、デジタルシフトを目的として企業変革を目指しています。企業変革は、組織の変革と個人の変革(企業変革=組織の変革× 個人の変革)であり、組織、個人両面の変革を同時に進めていく必要があります。組織変革で一番大切なのは、メンバーの選定であり、その中の役割を明確にすることです。そして、個人変革で一番大切なのは、会社外でも通用する人に育てあげることです。

推進体制の構築は立候補者を中心に

 社員達のしらけた視線を感じつつも、経営者がビジョンを語り続けていると、社員の中に「これは本気かも」「面白いかも」と感じる人が必ず現れてきます。そのタイミングで是非、推進体制の立ち上げを宣言し、プロジェクトに入りたい人を立候補で募ると推進体制の核が出来上がります。大企業で新規事業を立ち上げる場合、よく指名をしてメンバーを決めるケースがありますが、これはお勧めしません。指名された人は、心のどこかで「自分でやりたいと言ったわけではないのに」という気持ちを持ち続け、待ちの姿勢になってしまうことが多いからです。逆に立候補した人は、「自分で望んだことだから」と困難なことにも立ち向かおうとしてくれます。第二の創業とも言えるデジタルシフトの推進体制だからこそ、スタートアップ企業に集まるような自発的な人間を集めることが大事であり、プロジェクトの成否を決めると言っても過言ではありません。

多様性のあるメンバーを集める

 選任時にはなるべく多様性を重視することが大切です。現在はまだデジタル時代の始まりにすぎません。これからもっと進化していくことが予想されます。しかし、その捉え方は、業界、年齢、性別によっても多種多様です。そのため、プロパー社員だけでなく中途採用社員、年齢もベテランだけでなく若手社員、性別も男性だけでなく女性といったように、出来る限りバラエティに富んだメンバー選定をした方が良いでしょう。最初は纏まりがつかないかもしれませんが、議論を重ねた結果、幅の広い案になっていきます。そして出来れば、外交的で外部のネットワークを広げていける人材が望ましいです。そのメンバーは、常に外部の新しい情報、人材をプロジェクトにもたらし、チーム全体を常に活性化させていく働きをしてくれるからです。

デジタルシフト推進体制のスタートは三役の決定

 デジタルシフトの推進体制を構築する際には、まず核になる三役(3人のリーダー)を決める必要があります。1人目は全体を総合的に推進するリーダー、2人目は業務改革のリーダー、そして3人目はシステム推進のリーダーです。大企業で全社的に推進するならば、全体を推進するのは社長(CEO)、業務改革を推進するのは経営企画もしくはマーケティング担当役員(CMO)、システム構築を推進するのは情報システム担当役員(CIO)であることが望ましいと思います。中規模企業以下で、プロジェクト型で小さく推進する場合も前述の核になる3人の役割を持つ人を決める必要があります。この3人が各々の役割を認識し、三位一体で推進することがデジタルシフトをより高い確度で成功に導くことになります。

変革人材の育成

 三役が決まり、メンバーが決まったらメンバーの育成です。もちろんプロジェクトを推進しながら育成していくのですが、どういった人材にしていく必要があるのでしょうか。イメージとしては、新しい事業を考える人材ですから「起業家」が近いイメージです。それを社内で出来る人材「企業内起業家(イントレプレナー)」を育てていく必要があります。必要な能力は5つあります。1つ目は、白紙に絵を描くような業務改革能力、2つ目はテクノロジーに精通したITマネージメント能力、3つ目は軸がブレないリーダーシップ能力、4つ目は周りを説得するコミュニケーション能力、そして最後の5つ目は情熱です。難しく感じるかもしれませんが、メンバーが立候補した時点で既に、一番困難なスキルである情熱をクリアしています。後の4つについては、殆どの場合、経験が無いだけですから、教育し、場を与えていくうちに必ずスキルは向上していきます。次回以降は、この具体的なアプローチにつきお話をすすめてまいりたいと思います。(つづく)

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