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【先端人】レオス・キャピタルワークス 取締役CIO(最高運用責任者)藤野英人 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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投資文化を日本に根付かせたい

投資文化を日本に根付かせたい

R&Iファンド大賞3年連続受賞は快挙

(企業家倶楽部2015年1・2月合併号掲載)

 アベノミクスで景気は本当に上向いたのだろうか。膨れ上がる国債と社会保障費、消費税の課題など日本の金融不安は決して小さくはなく、日本の政策に世界も注目している。今後、資産を守るためには個人の積極的な資産運用が不可欠と藤野は語る。預貯金の多い個人資産。リスクを避ける考えの人が日本にはまだまだ多い。なぜなら投資文化が日本社会に根付いていないからだ。おカネの教育を受けていないからだ。企業家精神をもつ人材が育成されていないからだ。日本人が変わらなければ、今後の日本経済に光はない。停滞している日本経済にレオス・キャピタルワークスのひふみ投信は一石を投じている。いかに安全で効率的に資産運用できるかを示すシャープレシオは1.7。その驚異的な数字をたたき出す秘密を解き明かす。

3年連続R&Iファンド大賞受賞

 優れた運用成績のファンドを表彰するR&Iファンド大賞は、1年に1度、500社の中から選ばれる。レオス・キャピタルワークスのひふみ投信は3年連続受賞した。2012年に1位、2013年に2位、2014年に1位。3回連続受賞の確率は2000万年分の1であるという。 
 R&Iファンド大賞は投資の効率性を示すシャープレシオという数値を基準としている。シャープレシオとは、ファンドの運用成績を比較するために用いられる数値で、リスク(変動率)に対してどのくらいのリターンを得たかというもの。変動率の高いファンドの成績がよくても、たまたまギャンブルに勝っただけという可能性もあり、翌年も成績が良いとは限らない。シャープレシオはリターンをリスクで割るので、ギャンブル的な成果を排除することができ、ファンドの実力、本当の運用力を示すことができる。

 日経平均のシャープレシオは0.4。0.8あれば優秀なファンドと言われる。ひふみ投信の今年のシャープレシオは1.7と飛びぬけた数字だ。日経平均よりも運用リスクが低く、リターンが高い。実力のあるファンドということだ。

 なぜひふみ投信は強いのか。

「ひふみ投信はライバルが見るとぎょっとするファンドなんですよ」と藤野英人ファンドマネージャーは語る。

 ファンドにはそれぞれカラーがあり、成長株、割安株、大型株など、何らかの分野に特化している。だが、ひふみ投信には思想性が見えない、エッジが効いていないように見えるのだ。結果は優秀であるのに、ファンドの内容に才気が感じられないのだ。

「才気をわざと消すことによって、リスクを小さくすることができています。なぜかというと、リスクの形態がバラバラになっているので、変動性の多様性によって、事象の影響がそれぞれ干渉し合い、結果的に大きな影響が出ません。変動性の高い銘柄が入っていても干渉し合って、全体的に見れば結果的に動いていない。建物の免震装置と同じ仕組みになっているんです」

 現在ひふみ投信は国内株のみの取り扱いだが、世界株を投資する仕組みは準備されている。日本人として日本に住み、日本にいい企業があり、勝負できているうちは日本株に投資する。

成果を出すのはオーナー企業

 ひふみ投信の強さはリスクを分散させた銘柄の個性の多様性だけではない。どのような成長の軌跡をたどろうとも、個性豊かな経営者・企業を組み合わせることにより、5年後に株価2倍の成績を出すという目標を実現している。営業利益が倍になれば比例して株価も倍になる。企業の成長がかなりの確率で見込める銘柄に投資しているということだ。藤野のファンドの組み方は他社にはないオリジナリティがある。

「中小企業でも大企業でも5年間で2倍の営業利益、株価がつくならばファンドに組み入れます。あまり自分好みでないのはサラリーマン社長の企業。株価にコミットしていない社長が多いですし、インセンティブも少ない。中にはガッツのある人もいらっしゃるので一概には言えませんが。でも概ね成果を出す企業はオーナー企業が多いんです」

 オーナー色、リーダーシップの強い企業は確実に成長していく。

経営者は放射能を出している

 藤野は早稲田大学卒業後、野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)に入社し、配属されたのは中堅・中小企業の投資や調査を担当する部署。

「経営者は放射能を出している」

 藤野はそう例える。オーナー企業の経営者は個性が強烈だ。信念も強く、人に発していくメッセージも影響力も強い。毎日のミーティングで中小企業の経営者と会い、企業家としての生き方を熱く語られる日々。気がつけば仕事に夢中に取り組み、企業家精神に強く惹かれている自分に気づく。

 経験を積むうちにヘッドハンターから連絡が来るようになった。

 藤野が会ったヘッドハンターの提示額は当時の年俸の倍。5年以上、中小企業の経営者何百人とビジネスをしてきた藤野の実績が、具体的な数字となり、自分と自分の仕事に価値を認識した。

 藤野は転職し、ジャーディンフレミング(現:JPモルガン・フレミング投信投資顧問)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントとキャリアを積みながら、自身の起業に目標を定めていた。

 投資事業に携わって14年目の2003年。藤野はレオス・キャピタルワークス創業に参加、CIO(最高運用責任者)に就任する。

日本に投資文化を根付かせる

 レオス・キャピタル・ワークス設立から11年が経過した。

 経営は他人や環境のせいと言い訳できない。経営者はすべて自分で選択できる。そこが経営の苦しくも楽しいところである。自分で選択した限り、プラスであろうとマイナスであろうと、結果はすべて自分の行動の報酬である。

 藤野の抱く夢。それは日本に投資文化を根付かせ発展させること。日本にはなぜか尊敬される運用企業がない。欧米や韓国には存在するが、あこがれのファンドマネージャー、とすぐ思い浮かぶ人物がいない。

 投資をすることは社会に役立つ良いことであるという文化が根付かなければ、多額の国債、眠ったままの個人資産を抱え停滞感のある日本経済は厳しい局面を迎えつつある。こういう時こそ、人々は自分の資産を守るために積極的に投資をすれば、結果的に社会に貢献できるのだ。必要以上にリスクを恐れ動かないままでは何も変わらない。

 広く深く社会に貢献する理想の投資家の姿が藤野には見えている。 (K)

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