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【注目企業】 トリプラ代表取締役CEО高橋和久 代表取締役CTО鳥生 格

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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ホテルの疑問をチャットで楽々解決

ホテルの疑問をチャットで楽々解決

トリプラ 代表取締役CTО鳥生 格氏(左) 代表取締役CEО高橋和久氏(右)

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

AIがあなたの疑問に答えます

 海外旅行に行くとき、ホテル選びに困った経験がある人は多いのではないだろうか。チェックイン時間は何時か、荷物は事前に預けられるのか、朝食は付いているのか。メールや電話で問い合わせたくても現地の言葉が分からない。

 旅にまつわる悩みは訪日外国人も同じである。インバウンド客が3000万人を超え、2020年には東京五輪を控える中、これまで以上に外国人観光客に寄り添った対応を求められる。そんなホテル予約の手間や苦労、旅行業界の問題の解決の糸口となるのが、多言語チャットボットを利用した「トリプラ・チャットボットサービス」である。

 使い方はとてもシンプル。ホテルのオフィシャルサイト右下にあるアイコンをクリックするだけで、サービスが利用できる。チャット画面に質問を入力すると、AIが多言語で即座に回答し、もしAIが回答できなかった場合は代わりにオペレーターが回答する仕組みだ。

 このサービスの強みは、自社にオペレーターがいることと、旅行業界に特化していることである。AIの回答精度や機械学習のスピードが向上し、AI自動化率を一気に高めている。自動化率は当初の目標の60%を大きく上回り、約85%の質問をカバーできる。

ホテルサイト内で予約の流れを一元管理

 旅行者の約94%がOTA(オンライントラベルエージェンシー)を利用して予約を行っている。メリットは条件に合ったホテルを価格比較した上で探せること。ただ、旅行者にとっては便利だが、実はホテルには大きなコストがかかっている。ホテルは宿泊費の約15%を手数料としてOTAに支払わねばならないからだ。

 例えば、売上げ600億円のホテルで、約9割の旅行者がOTA経由で宿泊予約を行った場合、年間で約70億円を支払う。ホテルにとって1番理想的なのは、チャットボットサービスを使ったお客がそのまま自社サイトで宿泊予約を行ってくれることである。この問題解決の活路を開いたのが、「トリプラ・ホテルブッキングサービス」である。

「チャットボットサービス」と連携しており、ホテル自社サイト内で予約が完結できる上、価格比較して、最安値を提示してくれる。手数料は、1施設1万5000円で、予約数が部屋数を超えた場合は宿泊料金の3%を支払う仕組みとなっている。


月2000通のメール対応に衝撃

 トリプラを創業する前、アマゾンに勤めていた共同経営者の高橋と鳥生は、前職での経験から現在のサービスの着想を得た。共にファッションビジネスの部門に携わる中で、アマゾンなどを介してブランドを販売するのではなく、自社サイトでの販売を強化し、ブランドを確立しようとするファッションブランドの多さを感じていたのである。同じようにブランディングの強いホテル業界においても、「自社運営の流れが来るのではないか、その時に自社集客の支援ができたら面白い」という考えに至り、手始めにインバウンドに焦点を当てたサービス開発に取り組んだ。

 最初に開発したのは、飲食店の多言語メニューアプリ。しかし、訪日外国人にとって「Wi -Fi環境がない、わざわざダウンロードしなければならない」などの思わぬ弊害があり、このサービスは思うようにいかなかった。

 そこから、よりマーケットインで事業を展開する方針へと舵を切った。まず、ホテルグレイスリー新宿へのヒアリングを行い、ホテル業界の問題を分析した。驚くことに、ホテルに送られてくる旅行者からの問い合わせメールは月2000通に上り、従業員が1通1通返信をしていることが分かった。1件の対応時間が3分程度だとしても、2000通の処理に100時間かかる。従業員1人の労働量で換算すると、1日8時間の勤務で、月の3分の1を問い合わせ対応に費やしていることになる。

 また、京王プラザホテルでは宿泊者の約75%が外国人だと聞いた。そこで高橋と鳥生が考えたのが、多言語のチャットボットサービスである。利便性があり、ホテルにとって、安く利用できることが人件費の大幅な削減につながっている。1人のユーザーにつき250円でチャット対応する仕組みで、同じお客なら1日に何度チャットしても一律250円で済む。先ほどの月2000件のメールは約300人からの問い合わせであることから、ホテルの負担は月7万5000円になり、月の人件費と比べたら、コスト削減率は一目瞭然である。ホテルグレイスリー新宿では同サービス導入後に問い合わせ数が60%削減され、その実績の確かさが示された。

 国内の市場規模はインターネット予約を行うホテル、旅館約3万施設で、現在は約300施設が同サービスを導入している。今後の目標として、最終的には6000施設での導入を目指すという。そして「チャットボット業界でダントツの1位になりたい」と二人は意気込みを語る。

時代とニーズに合わせた提案を

 事業の幅は国内のホテル業界にとどまらず、広がりつつある。今後の展開として、駅や空港への多言語チャットボットの導入を目指している。すでにJR池袋駅での実証実験も始まっており、障がい者や落とし物をした人、道に迷ってしまった人からの問い合わせ対応を多言語で行っている。さらに発展させて、駅、レンタカー、ホテルを繋げることで、相互送客を目指す取り組みにも貢献していく考えだ。

 海外展開も視野に入れている。現時点で85%がAIによる多言語対応されているため、例えば中国のホテルにサービスを導入した場合でもスムーズに中国語対応が可能となる。新たに対応言語を追加すれば、さらに海外のホテルで導入が進むだろう。

 メールや電話といった連絡手段が、チャットに移り変わりつつある現在、トリプラのサービスはホテル業界のデジタルシフト化を支えている。

 LINEを始め、個人間ではチャットでのコミュニケーションが主流になりつつある。ビジネスの世界においても、チャットを利用したサービスややり取りが当たり前になる時代が来るのもそう遠くないだろう。

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