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【エンジェル鎌田’s Eye】TomyK Ltd.代表 鎌田富久×グランドグリーン代表取締役 丹羽優喜

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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接木技術で農業にイノベーションを起こす

接木技術で農業にイノベーションを起こす

(企業家倶楽部2018年12月号掲載)

ACCESS 創業者で現在エンジェル投資家の鎌田富久氏が、投資先企業の経営者と対談する「エンジェル鎌田’s Eye」。今回はタバコを媒介として異種の植物の接木に成功し、新品種開発に応用している名古屋大学発ベンチャー、グランドグリーン代表の丹羽優喜氏をゲストに迎えた。新たな接木技術による農業の革新、現状の課題、未来展望など、多岐に渡る話題に花が咲いた。

タバコが異種の植物を繋げる

鎌田 まずは御社の事業内容について詳しくご説明いただけますか。

丹羽 弊社は、有史以前から存在する接木という技術を軸に、主に二つの事業展開を考えています。一つ目は新しい植物の品種を作るための技術開発、二つ目は接木苗を自動で作成する機械の製造です。これらの商品化、サービス化に向けて研究を進めています。

鎌田 接木とは、二つ以上の植物同士を人為的に切断面で固定し、一つの植物として生育する技術ですね。例えば、病害に強い品種のトマトに、味が良い品種のトマトを接木することで、二品種の良いとこ取りをした新たなトマトができるという具合でしょうか。

丹羽 その通りです。実はソメイヨシノも接木でクローン繁殖させています。ただ、今までは同じ科の植物しか接木はできないとされてきました。異種を接木しようとすると枯れてしまうという制限があったためです。

 しかしある時、ナス科とアブラナ科という異種の植物同士を接木したところ、水も栄養も輸送され、ちゃんと生育することを発見しました。更に調べていくと、タバコはあらゆる植物から拒絶されることなく、全ての品種に接木できると分かりました。

 例えば、雑草とトマトの間にタバコを挟むことで、いかなる雑草の上でもトマトを生育することに成功したのです。これを応用し、上下の組み合わせを変えることで新たな品種を作れないかと、現在研究を進めています。

鎌田 タバコを間に挟むことで、本来生育できない場所で作物を育てることが可能になるかもしれないとは驚きの発見ですね。研究が進めば、異種の植物を掛け合わせた全く新しい品種が作れるかもしれません。

バイオテクノロジーの民主化

鎌田 新品種と言うと、遺伝子組み換えなどの技術がありますが、こちらとの関係はいかがでしょうか。丹羽 遺伝子組み換え技術では、一つの品種開発に10年かかると言われていて、大手種苗メジャーのように資金力と開発力がある企業しか実用できないというのが現状です。遺伝子組み換えの代替として登場したゲノム編集ツールも、どのようにして作物の標的遺伝子まで送り込むかという技術的なハードルがあります。そこで、弊社では接木技術を応用した新たなゲノム編集ツールの開発も進めています。

 具体的には、ゲノム編集ツール自体をタバコに作らせて、それを標的作物に送り込みます。そして、標的作物が種を作る前段階で遺伝子を編集してしまうことにより、改変された遺伝子を受け継いだ種が1年ほどで大量に採れるようにするというものです。タバコは異種にも受け入れられやすく、品種の壁が取り除かれるので、何にでも汎用的に使えるツールが作れるのではないかと期待しています。

鎌田 遺伝子組み換えや従来のゲノム編集ツールより、少ない制約で技術的にも応用しやすいツールになりそうですね。このゲノム編集ツールができれば、小さな種苗会社でも短期間で安く新品種が作れます。まさにバイオテクノロジーの民主化と言っても良いでしょう。

丹羽 そうですね。狙いどころとして世界的に市場が大きいのは、毎年種を大量に蒔かなければならない穀物です。種苗メジャーは農家がいかに楽をして大量に作れるかに力点を置いていますが、消費者にとって美味しかったり、健康に良かったり、そのような付加価値のあるものを作ることを見据えて取り組みたいと考えています。

鎌田 大豆やとうもろこしなど大手種苗メジャーが押さえている穀物だけではなく、少量多品種のように、皆が参入してチャレンジできるようなプラットフォームを作れれば面白いですね。

丹羽 品種には大きく分けてグローバルな品種とその土地の気候に合った品種があります。私たちは、後者のローカルな作物について、その土地に根ざした種苗会社が簡単かつ安価にオリジナリティ溢れる改良を加え、売れるようにするのが目標です。

鎌田 大手種苗メジャーも御社の技術を欲しがるのではないでしょうか。

丹羽 実はアメリカの大手種苗メジャーからも注目していただいているので、この接木技術が完成したら、まずはそのような大手と組んで新品種を開発するつもりです。製薬ベンチャーのように、共同研究の中で各ステップに応じた収益モデルを考えています。

接木自動化で新品種を大量に

鎌田 御社の二つ目の柱である接木苗の自動作成とは具体的にどのような技術ですか。

丹羽 まず部材を作り、それを通してあらかじめ植物のばらつきを吸収し、規格化された植物を機械で扱うことにより、簡単に接木できるようになります。私たちは実験の段階で、2mmほどの小さい苗を顕微鏡の下で接木していたのですが、その時に接木作業を補助するマイクロチップを開発しました。この発想を実際の接木に応用できないかと考えたのがきっかけです。

 機械化の試みは今までもされてきましたが、やはり大きさがばらばらな植物を機械で扱うのは難しく、ロボットアームでは対応しきれないという問題がありました。私たちもまだ開発段階ではありますが、成功率は95%まで高められています。

鎌田 この装置が商品化されたら、誰でもその技術を真似できてしまいますよね。

丹羽 装置を売るだけではなく、消耗品である部材で継続的にビジネスができないかと考えています。アメリカや中国では苗の需要に対して接木苗の供給が全く追いついていない状況なので、そのようなグローバルでの提携も模索しています。

 また、自社で装置を使ってこれまで以上に効率良く新たな組み合せの接木苗を作り、その品種を押さえていくことも視野に入れています。一見関係のない二つの柱ですが、将来的には「新しい組み合せの接木苗を装置で大量に作る」という一つの大きな流れに繋がっているのです。

鎌田 日本人の器用さが接木の手作業を可能にしてきましたが、なかなか手作業は難しいと思うので、興味を持つ海外の企業は多そうですね。接木の自動化があっての新品種開発ということにもなります。機械を販売する対象は農家ではなく苗生産者になるのですか。

丹羽 はい。最近では、苗に関しては接木か否かにかかわらず全て外注している農家が多いので、そのように考えています。

鎌田 御社が自前で作った新品種を売りつつ、苗生産者には機械を販売して、そちらでも新品種を作ってもらう。こうなると、世の中に様々な苗が登場することになり、社会貢献になりますね。

環境・食料問題の解決も視野

鎌田 元々は京都大学出身ですが、どのようにしてこのプロジェクトに出会ったのですか。

丹羽 この技術は弊社共同創業者の野田口理孝が発明したのですが、彼とはたまたま学生時代に出身ラボが同じで、起業のプロジェクトが立ち上がる際に声をかけてもらったのがきっかけです。私は事業化に向けた開発を担当するということで名古屋大学に入り、起業準備をスタートしました。

 鎌田さんとは東京大学の知り合いを通じて1年ほど前にお会いし、興味を持っていただきましたね。

鎌田 私は人工知能分野などのベンチャーに投資していましたが、丹羽さんの研究について初めて伺ったとき、自然界の秘めているパワーに気付かされました。ゲノム編集の流れが来ている中、今回の開発はまさに時代に合っていて、可能性の大きさを感じました。

丹羽 ありがとうございます。自然を扱っているので、機械のようにスムーズにはいかないのが難点です。とにかく植物が育つのを待たなければ始まりませんので、同時並行であらゆるプランを試しています。

鎌田 生ものを扱う難しさですね。今までに前例のない農業ベンチャーということで、これからますます注目されていくと思います。最後に、今後の目標や計画をお聞かせ下さい。

丹羽 農業に対して技術提供し、植物を変えることで地球環境や世の中、人に貢献したいという想いがあります。良いものを作り、植物のエンジニアリングの可能性を世の中に示していきたいですね。

 また違った方面では、アートと組むことも計画しています。ニューヨークに接木アーティストがいるのですが、彼は接木で1本の木に40種類もの果物を付けてみせるといった活動をしています。彼に顧問になっていただいて、同じ根を持つ植物に異種の花を咲かせてアートとして見せるなどして、技術と社会の距離を縮めていけたらと思っています。

鎌田 接木の花をアートとして出すことで、その技術の分かりやすさを伝え、一般の方々にも興味を持ってもらえそうですね。今や「人類の敵」とまで言われているタバコが、世の中や地球環境を良い方向に変える可能性を秘めているとは面白い限りです。この技術を使って、例えば塩害土壌で農業ができるようになったり、食料問題の解決に寄与したり、その将来性は尽きませんね。

丹羽 そうですね。将来的にはそのような社会問題にも貢献できればと考えています。

 例えば、乾燥地に強い植物の根は水分の吸収率が良いので、接木によって自然の力をそのまま利用し、別の植物に「対乾燥」という新しい性質を付与できるわけです。そうした接木苗の強みを活かしたアプローチも期待できます。

 実際に、海岸で生育する塩に強い植物を集めてきて接木し、塩に弱かった植物を塩のあるところで育てる実験はよく行っています。そのような、新しい接木苗で新しい栽培を目指していきたいです。

鎌田 イノベーションを起こせるレベルで世界と戦える農業ベンチャーは、日本ではほとんど見られません。だからこそ、日本発の農業ベンチャーとしてグローバルに成功できるよう、これからも支援させてください。

丹羽優喜(にわ・まさき)

京都大学農学部を卒業。京都大学大学院生命科学研究科を修了。生命科学博士。京都大学博士研究員、助教となり、この間、植物発生学の研究に従事する。2016 年に名古屋大学に移り、2017年にグランドグリーン株式会社を共同創業、代表取締役に就任。

鎌田富久(かまだ・とみひさ)

1961年、愛知県生まれ。東京大学大学院の理学系研究科にて情報科学博士課程を修了。理学博士。1984年、東京大学の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウェアを手がけるベンチャー企業ACCESSを荒川亨氏と共同で創業。iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引する。2001年、東証マザーズ上場を果たし、グローバルに積極的に事業を展開した。2011 年に退任すると、2012 年4 月より、これまでの経験を活かし、TomyK Ltd. にて革新技術で日本を元気にするベンチャー支援の活動を開始した。

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