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【企業家は語る】ストライプインターナショナル社長 石川康晴

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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大胆な路線転換で突き進む

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

ファッションブランド「earth music & ecology(以下アース)」を中心に、幅広い世代の女性を魅了しているストライプインターナショナル。しかし、現在手掛けるのはホテルにレストランと、アパレル分野に留まらない。現状に囚われず革新を続けてきた同社石川康晴社長が、その成長の秘訣を語る。

決死の覚悟が会社を変える

 私たちは25年前、4坪の小さなお店からスタートしました。当時の売上げは2000万円ほどでしたが、お陰様で現在は1300億円にまで膨らみました。

 アパレル業界は、既に成長し切ったレッドオーシャン。その中で私たちは、路線転換を繰り返し、規模を拡大してきました。今回はこの「路線転換」をキーワードに、ストライプインターナショナルについてお話したいと思います。

 私は14歳の時に洋服屋を開くと決め、23歳で起業しました。当初、手掛けていたのは輸入品を扱うセレクトショップ。イギリス製やフランス製の極めてニッチな商品を取り扱っていました。Tシャツ1枚9900円、ワンピース1着15万円などかなり高価格で、おまけに店の前には金色のドクロの置物、赤い門に回転扉という奇抜な外観でした。

 ただ、他店では取り扱っていない商品を置いていたため、客単価が非常に高く、広域からお客様に来店いただきました。売上げも1年目は2000万円、2年目で6000万円、3年目には1億円と順調に伸びていきました。

 そこで4年目は更に高級でアバンギャルドなものを扱おうと商品を仕入れたところ、全く売れず、残ったのは在庫の山。お金もない、お客様も来ないという状況の中、追い討ちを掛けるように14人いた従業員のうち10人が一斉に退職届を持ってきたのです。

 正直、自殺を考えるくらいまで追い込まれました。店内を掃除していたら、レジ下から「社長がバカだから会社を辞める」と書かれた従業員の手紙が出てきたこともあります。人間不信にもなりました。ただ、死ぬ覚悟があれば何かできるのではないかとも感じていました。

 最終的に「倒産するまでこの会社を辞めない」と残ってくれた従業員が3人。「それなら今まで成功したものを全て捨ててでもやり直そう」と、ニッチなマーケティングを止めることを決意しました。代わりに、ベーシックなブランドとして立ち上げたのが「アース」です。

 高額な輸入品を販売するセレクトショップから、自社で製造した商品を低価格で扱うSPA(製造小売)へ。この路線転換が業績をV字回復させ、スケールアップをもたらしました。

セオリーの打破でバズる

 次の路線転換は、プロモーション戦略です。SPAのビジネスモデルにして以降、10年間に渡って業績は伸び続けていました。しかし、「アース」を真似たナチュラルテイストのブランドが急増。このままでは商品の差別化ができないため、2カ月もすればすぐに模倣品が作られてしまう。そこで、差別化しようと考えたのがプロモーションです。

 アパレル業界では、ターゲットが一番絞られているファッション誌に広告を打つのがそれまでのセオリーでした。「テレビCMを流してはどうか」と競合他社の社長にアドバイスを求めると、当然どの方も「やめた方が良い」と答えるわけです。だからこそ、私はテレビCMを流すことに決めました。会社の利益が24億円の時に、プロモーションにかけた費用は14億円。女優の宮崎あおいさんを起用して、ザ・ブルーハーツの『1001のバイオリン』を歌っていただきました。

 CMを打ったのは2010年。当時は既に、グーグルやヤフーを使った検索が盛んに行われる社会になっていました。例えば、「宮崎あおい 歌う」と入力すると、一発で「アース」がヒットする。自社ブランドが検索で引っかかりやすいようにSEO対策を行うだけでなく、実際にお客様から関心を持ってもらうことに重点を置いたのです。その結果、11年には会社の規模を拡大させることに成功しました。

教科書には載らない戦略

「アース」は宮崎あおいさんをアンバサダーにして、7~8年間に渡って25~30歳の女性をターゲットに販売してきました。この影響からか、「アース=若い人のブランド」というイメージが付いていました。そこで、去年は大きく路線転換。CMには宮崎さんに加えて鈴木京香さんと広瀬すずさんを起用しました。

 実は、データ上では30~40代の方も「アース」の洋服を買っています。ところが、「若者ブランド」のイメージが強いため、30歳を超えると「昔はアースの服を着ていた」と過去形になる人が多かったのです。

 更に、新規ユーザーになってくれる10代や20代前半の層も減っていることが判明。そこで、2人を新たに起用することで、「10代から40代まで着られるブランド」というイメージを確立しようと試みました。マーケティングのセオリーとしてターゲットを「絞る」ことが重要と言われていますが、私たちはその逆の「広げる」ことを行ったのです。まさに、教科書には載らない戦略ですね。

 この結果、30~40代のユーザーの離反はかなり減少しました。ターゲット層を広げたため、20代の集客は多少落ち込みましたが、10代は少し増加しました。総合的に見ると、客数は伸びています。商業施設の入客数が減少する中、客単価は落ちているものの、その分を全世代マーケティングによって獲得した客数で補っているのが現状です。

新生ストライプ誕生創業から

 20年経った15年、会社のドメインを「アパレル」から「ライフスタイル、アート、テクノロジー」に変更しました。これからは、洋服だけでなくホテルもレストランも手掛ける。更には理念も「カスタマーファースト」から「セカンドファミリー」へ。つまり「お客様と家族になろう」に変えました。

 そこから遅れること1年、考えに考え抜いて社名も「クロスカンパニー」から変更しました。世界各国から店長が集まった社員総会の中で、最後に私が登壇し、「今日でクロスカンパニーは終わります」と宣言すると、皆あごが外れたような顔をして驚いていました。

 しかし、その意味が分かると社員は元の表情に戻りました。従来のドメスティックなトップダウン型の会社ではなく、海外展開やテクノロジーへの投資も行い、想像力を持った個性的な商品を開発するという私の決意に、賛同してくれたのではないでしょうか。

 悩み抜いた新社名は、「ストライプインターナショナル」。「ストライプ」とは「線」であり、この中には細い線や太い線など様々な線が含まれます。すなわちそれは、個性です。色々な人がいて良い。ビジョンとして「個性」「想像力」「挑戦」の3つを掲げ、アパレルだけでなく他の分野にも取り組んでいくと決意しました。

経済は規模だ!

 私たちは「小型店舗戦略」という、20坪ほどの小さなお店を全国に多く出して行くスタイルを取って、売上げを1000億円まで伸ばしてきました。お店が小さいため、在庫数を絞り、商品の回転率を高くすることができる。更に内装費も少なくて済む。この戦略で、最大時には年間100店舗を出店し、大きく駆け上がって来ました。

 そんな13年、ファーストリテイリングの柳井正会長から連絡がありました。伺うと「なぜ君は小さい店ばかり出すのか」との質問です。「ウォルマートのような巨大スーパーもあれば、セブンイレブンのような小型店舗で成功している企業もあります」と持論を述べると、「それは違う!」と一喝。「経済は規模だ!」と繰り返し叩き込まれました。ボクシングでKOを喰らった気分でしたね。

 話を聞いた直後は、「自分は間違っていない」と思っていましたが、その後よく考えてみれば、確かに私たちのお店は1店舗1億円しか稼げないのが現状です。売上げを1兆円にするには、何千店舗、何万店舗と出店しなければなりません。一方、柳井会長のお店は1店舗で10億円くらい稼ぎますから、営業利益率が高い。「やはり規模の大きい店舗での新しいビジネスモデルを作らなければ、当社の更なる発展は無い」と考え直し、大型店舗をオープンしました。

 これが現在の「koe」です。低価格で、世界のトレンドを意識したグローバルブランドにしようと試みました。メンズやレディースに加え、子供服まで扱っています。まだまだこれからですが、5000億円、1兆円のブランドに育てていこうと思います。

「koe」が挑戦しているのは、「衣食住遊」。1階がエンターテインメントとベーカリーレストランで、2階はアパレル、3階はホテルという構造になっています。このように複雑なことを行っているのは、お客様からこのブランドを身近に感じてもらうためです。

 アパレルはシーズン単位で商品が動くため、大体年4~6回買ってもらうというサイクルになります。それをもっと高頻度で利用してもらうためには、デイリー、ウィークリー、マンスリーの仕掛けが必要だと考えたのです。

 まず、ベーカリーのパンは毎日買いに来ていただけますよね。更に、週末に行うライブで毎週楽しめる。レストランでは月に1度ランチが変わり、毎月違う料理を味わえる。そして、シーズン毎のアパレルという仕組みです。

 上の階では宿泊もできますから、これまでに無かった「ブティックホテル」という概念を生み出し、200ものメディアに注目いただいています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでには10億円の売上げを達成し、グローバル展開を目指していく所存です。

洋服を借りる時代

 ファッションレンタルアプリ「メチャカリ」をご存知でしょうか。買った洋服だけを着るのではなく、借りたものと買ったものを組み合わせてファッションを楽しむ。10年後、そんな社会になると信じて、このアプリに注力しています。新品や中古品を買う人がいるならば、レンタルで十分という人も出て来るでしょう。つまり、新品だけを扱う会社はこれからの業績には期待できない。新品も中古品もレンタルも手掛けるからこそ、売上げを伸ばせるというのが私の予測です。

「メチャカリ」のキーワードは、「サブスクリプション(定額制)」。月額5800円で1回に3点ずつ、何回でも利用できます。最も多い方で、月に24点借りられています。それだけ借りれば、毎日違う洋服で出かけられる。それでも月額5800円ですから、きっとファッションが楽しくなるでしょう。

 しかし、これでは私たちがマネタイズできません。ではどうするかと言うと、1着の洋服につき2人からお金をいただくのです。

 まず、レンタルできるのは新品の洋服になります。1度借りられたものは1~2週間もすれば返ってきます。私たちはこれを「新古服」と呼んでいます。この新古服を、すぐに中古品を扱うマーケットで50%オフにして販売する。これで、元値の50%が返ってきます。更に「メチャカリ」の方ではおよそ2割が月額制から回収できます。したがって、例えば1万円の洋服であれば、お客様Aからはレンタル料金として2000円、お客様Bからは中古品代金として5000円、合わせて7000円が返ってくる。原価を考えれば、十分に黒字が成り立つ数字です。

 実際、この「メチャカリ」は3年半で黒字化に成功しました。IT系のベンチャーでは7年くらい経たないと黒字にならないことが多いため、私もそれくらいの時間を要するだろうと覚悟していましたが、かなり早い段階で達成できました。ですから、2019年は「赤字」を目指します。

 もう一度言いますが、「赤字」を目指す。もうこのビジネスモデルが成り立つと分かりましたから、次は広告投資を3倍にして、会員数を増やしに行きます。強烈な宣伝によって、圧倒的なプラットフォームに仕上げていこうと思います。

 大人版ゾゾタウン 今、新たに挑戦しようとしているのが「大人版ゾゾタウン」です。スマートフォンの中に百貨店を作る。いわゆるF2層と呼ばれる35~49歳の女性をターゲットにして、百貨店で取り扱っているブランドや、まだ百貨店には並んでいないベンチャーのブランドをインターネット上で購入できる場を作りました。これまで百貨店のホームページを検索しても、トップページはギフトばかり。そこから中に進んでいかないと、ブランドの商品は出て来ません。私たちは、トップページからブランドが出て来るように設計しています。

 現在、取り扱いブランド数は1000ほど。これを来年に向けて2000、3000と増やしていこうと思っています。そこまで来れば、「ZOZOTOWN」とほぼ互角です。ターゲットとしては団塊ジュニアを捉えた私たちの方が多く、客単価も高いですから、そのうちこのビジネスだけで1兆円を超えてくるのではないかと見込んで、必死に投資をしています。

 5年前にこのサービスを立ち上げた時は、全国に360店舗の百貨店がありました。それが今では260店舗。たった5年間で100店舗も閉店しており、同時に小さなファッションメーカーも潰れてしまっています。経営がギリギリの百貨店も多いため、リニューアルもできず、地方在住の方は新しいブランドに触れる機会を奪われている。だからこそ、プラットフォームを作ることに苦しんでいる百貨店自体も変えていきたいと思い、このサービスを立ち上げました。

 最後になりますが、会社においても人生においても、様々な路線転換の時があるでしょう。これができるかどうかで、今後成長していけるかが変わってくる。今回お話してきたように、当社では個性的なスタッフが個性的な商品を開発しています。これからも成功体験をどんどん捨てながら、新しいマーケットに挑戦していきたいと思います。

p r o f i l e 

石川康晴(いしかわ・やすはる)

1970年岡山県生まれ。94年クロスカンパニーを創業。99年「アースミュージック&エコロジー」を立ち上げた。10 年中国に進出。女性支援制度を中心とした社内制度の充実、環境活動や地域貢献活動へも積極的に取り組んでいる。内閣府男女共同参画会議議員。岡山大学経済学部卒。2016年3月ストライプインターナショナルに社名変更。第18回企業家賞大賞受賞。

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