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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第24回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

再燃するリーダー論 平時VS有事

(企業家倶楽部2014年12月号掲載)

リーダーの人間としての「総合力」

 「リーダーとは、どうあるべきか?」というテーマについて、ことにこの半年ほどの間、世の中の関心が強くなっています。

 そんな折、私も4冊のリーダー論を読み、その中の2冊に大感動しました。

 1冊目は、富士フイルムホールディングス株式会社 代表取締役会長・CEO 古森重隆氏の『君は、どう生きるのか 心の持ち方で人生は変えられる』(三笠書房)です。

 この本における最大の特長は、古森氏がリーダーに、人間としての「総合力」を求めていることです。

①「今を本気で生きること」「本気で仕事や課題に取り組むこと」「それらを通じて、絶えず自己を磨き続けること」 
⇒「そのパフォーマンスは迫力を増し、成果を得られる」

②「その人のパフォーマンスは、その人物のシグマ(総和)によって表せる」「野性的な賢さや、へこたれない心、物事を動かす現実的な能力、強い体、人間の裏面も理解する感性……こうしたトータルな力を磨くこと」

⇒「人間としての総合力が不可欠である」
 続いて2人目は、元・スターバックスコーヒージャパン株式会社 CEO(現在・リーダーシップコンサルティング 代表)岩田松雄氏の『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)です。

 この本には、「リーダーとは、具体的に決定を下し、明確に語る人」であることが記されています。

①「部下の意思決定力を鍛える。リーダーに求められるのは決定力である」

②「“to do good”より“to be good”になりなさい」

③「リーダーが示すべきは、志やミッションである」

リーダーは志を語れることそして、信頼関係を築くこと

 2人の共通点をまとめると、第1に「志とミッションを明確に示し、語っている」こと。

 第2に、この「トップの日々の言動が、部下との信頼関係をつくり、その仕事ぶりそのものがコミュニケーションになっている」ことでしょう。

 また、組織の大小にかかわらず、リーダーは次の3点を、常に矢印のように示していることがわかります。

①率いる組織がどこに向かい、どのような理念を持つか【ビジョン】
 ↓  ↓  ↓
②その理念を実行していくために、どのような方向から攻めていくのか【戦略】
 ↓  ↓  ↓
③攻めていくに際しては、どのような細かい数値 目標あるいは予定(時間軸)を持つか

 【実行計画】

 この3段階を明快に語る必要があり、その説得力については、パフォーマンス心理学では、「表現されない実力は、ないも同じだ」と常に標榜しています。

 リーダーが心の中に持っている「理念」がわかりやすく部下に伝わり、その素晴らしい理念を、ちょうど1基の神輿を皆で担ぐように、部下と共に担いで前進していくことが、リーダーの仕事でしょう。

 さらには一朝事あった時に、このような理念・ビジョン・計画を示す以外に、リーダーにはどうしてもやらなければならないことが出てきます。

有事のリーダーは責任ある決意と感情を示せ!

 私の生まれ故郷である長野県と岐阜県にまたがる御嶽山(3067メートル)で9月27日、正午前に、7年ぶりの大きな噴火が起きました。多くの方が亡くなり、いまだ行方不明の方もいて、現在もなお捜索活動が続いています。

 この大惨事に際し、気象庁の火山課長らが記者会見を開き、「事前に情報を発表できなかったという意味で、予知ができなかった」と発言しました。ここで使われた言葉は、すべて科学的に正しいのでしょう。

 けれど、本当に予知は不可能だったのか? それについては国内のみならず、フランスをはじめ諸外国からも疑問視されています。

 そもそも気象庁は、8月29日から御嶽山の火山性地震を観測しています。9月10日には52回、11日には85回を記録。その後、いったん回数が減少したとはいえ、「危険である」と大きな声を上げることはできたはずです。それはやはりどういう手段であれ、専門知識があるからこそ言葉に出してほしかったところです。

 加えて、「予知できなかった」という事実を記者会見で淡々と述べる姿を見て、多くの家族や関係者、国民が腑に落ちない思いをしたことでしょう。

 その時点で、すでに多くの犠牲者が出ているのです。「自分もまた心痛に絶えない。心から心配している」という気持ちを、顔の表情や言葉のはしばし、声のトーンで伝えるべきだったのです。

 あらゆる責任問題もあるでしょうが、その人の心の中に遺族や死者への思いやりがあれば、それはおのずと表情や言葉にも表れてしかるべきだからです。

 そしてやはり、登山者の安否情報と共に、皆が気がかりな「今、被災者はどうなのか?」ということと、「なぜ、予知できなかったのか?」ということについて、心を込めた説明が日本国内にも海外にも必要だったと思われます。

 平時はビジョンを語り、有事は心からの思いやりや心痛、責任感、誠意を示す言葉を瞬時に顔の表情や声で表現することができる人。パフォーマンス心理学から言えば、リーダーとはまさに、そういった人なのです

【表情筋が表す10の感情】
① まばたきの急増 は? 困惑とウソの図星
② 横への泳ぎ目 は? 隠された自信のなさ
③ 上向きの泳ぎ目 は? 過去の回想のはじまり
④ 下向きの泳ぎ目 は? 「思案中です」のサイン
⑤ 口もとだけ笑って目のまわりが動かない のは? ウソツキ
⑥ 唇を小さくとがらせる のは? 幼児性か不満の意思表示
⑦ 唇を固く結んだ強いアイコンタクト は? 固い決意
⑧ 顔の表情変化が少なくなる のは? 鈍感か不調のサイン
⑨ 表情筋すべてに力が入って目も口も大きく開く話し方 は? 達成感
⑩ コンスタントで10 まったく同じスマイル は? ゴマカシか詐欺師
(佐藤綾子  2010『読顔力』(PHP文庫)より一部抜粋)

Profile 佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『プレジデント』はじめ連載9誌、著書170 冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。19年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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