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【編集長インタビュー】IRI/BBTower グループ代表藤原 洋

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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企業は未来を創るために存在する

企業は未来を創るために存在する

(企業家倶楽部2017年1・2月合併号掲載)

商業インターネットが誕生して20年が経つ。IT業界の重鎮、藤原洋が率いるインターネット総合研究所グループも2016年に会社設立20 週年を迎えた。偶然だが日本のネットビジネス史は、この男の歴史と重なる。ITビジネス黎明期から業界の発展を支えてきたいぶし銀に日本の未来を聞いた。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

10年後には半分の職業がなくなる

問 IRI設立20周年おめでとうございます。この20年間を振り返ると、様々な業界でデジタル化が進みましたね。昨今ではIoT、AIなど次のステージに進もうとしています。ITによる進化は留まることを知りません。そこで、今後、藤原社長はインターネットによって世界はどう変化していくと見ていますか。

藤原 ありがとうございます。これまでは様々なものがデジタル化れた時代です。例えばテレビがデジタル化されましたね。これからこることは「デジタルトランスフォーメーション」です。仕事や生活でITを使うというフェーズから、ITそのものに変わっていくでしょう。

 例えばフィンテックがそうです。今までは金融機関がコンピュータを使ってデジタル化をしました。株はインターネットで買う方が多くなってきましたね。これは単にツールとしてITを使っただけです。今後はそうではなくて、ITそのものと一体化する。これを「デジタルトランスフォーメーション」と呼んでいます。

 既存の企業がIT活用をするのではなく、IT企業そのものが主体となり、例えば銀行や証券会社を始めるわけです。それがフィンテックの本質です。フィンテックは金融とITの融合のことを言います。

問 それは藤原社長の目から見て何年後くらいに起こりますか。

藤原 すでに「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は定着しつつあります。私も提唱しているのですが、シンギュラリティ(技術的特異点)とも関係があります。人工知能が人間の知能を超えるという大きな流れの一貫だと思います。遅くとも2045年というデータがありますが、2029年と予想する人もいます。いずれにしてもそう遠くない未来の話です。

問 私たちの生活にどんな変化があるのでしょうか。

藤原 オックスフォード大学のオズボーン准教授が、AIの進展によって、ここ10年から20年で職業が変わると発表しました。それを702の職業に分類して予測しています。2013年9月に出た論文ですが、段々と信憑性を得てきました。

 その説によると今後10年で47%の職業が無くなるリスクがあると書いてあります。現在ある仕事の約半分が人工知能の発展で無くなるという予測です。

問 大変興味深い内容ですが、どんな職業が無くなってしまうリスクがあるのでしょうか。

藤原 単純作業です。クリエイティブな仕事ではなくてデータを整理するような職業が無くなるリスクがあるとされています。

 逆に新しくゼロから作る仕事は比較的無くなるリスクは低いとあります。例えば、デザイナーとか起業家がそれに当たります。コンピュータが起業家に変わるのは難しい。それから人を束ねるような仕事はコンピュータには不向きです。「私の上司はコンピュータです」というのは50年後には分かりませんが、現実的には少し先になります。

日本が世界をリードする

問 既存の企業や人々の働き方も変わってきますね。

藤原 既存の企業も何も変わらなければ、段々衰退していき、いずれはなくなってしまいます。つまり、プレーヤーが入れ替わることを意味します。ITは道具としてしか今までは考えていなかったのです。既存企業がIT企業に仕事を発注していましたが、IT企業そのものが業務を始めます。

 金融サービスも消費者よりに進化します。銀行という形態ではなくなるかもしれません。現在はまだ供給者側の論理で動いています。消費者よりも物を作るほうが強い。自動車メーカーは消費者よりも自動車のことを知っているから「このメーカーが作った自動車だから買いましょう」という論理から、「こんな自動車が欲しい」と消費者が思い、その車を提供してくれる会社にビジネスチャンスがあるようになります。

 あらゆる業界で、需要者側の論理に完全に入れ替わる時代が来ることでしょう。構造変化を起こします。それが「デジタルトランスフォーメーション」の本質だと思います。

 例えばイーコマースですが、アマゾンが誕生し出版社とエンドユーザーの間に存在した中間業者が不要になりました。生産者と消費者を直結する流通網を作ったわけです。店舗もいらない。インターネットはそのような期待感があって普及しましたが、これから起こる変化はもっと大きい。中抜きではなくて、ITそのものが産業になります。産業のデジタル化が起こります。今までは情報のデジタル化でした。そのくらいのインパクトがあります。

次世代通信規格5Gが鍵を握る

問 ネットビジネスでは米国企業のグーグルやフェイスブックの成功があり、先を越されました。日本が挽回するチャンスはありますか。

藤原 条件付きですが、チャンスは十分にあると思います。1つはテクノロジーのトレンドを主導できることが重要です。AIやIoT、ビッグデータといった3つのテクノジートレンドは三位一体になっています。すでに個別ではありません。このトレンドをリードしていくのが重要です。

 2つ目は情報通信インフラを主導することです。そこで現在の携帯電話等で使われている4Gの次の通信規格である5Gに注目しています。せっかくのAIもインフラがないとネットワークの時代に活用できません。日本は5Gを最速で整備すべきです。騙しだまし使えるネットワークはあり、一世代前の3Gや4G、あるいはもっと低速のネットワークなのですが、本当の意味でのIoTのためのインフラは実はまだありません。しかし、私はここにチャンスがあると思います。

問 なるほど、すでに次世代の通信規格の開発が進んでいるのですね。5Gサービスが始まるのはいつ頃からでしょうか。

藤原 日本は世界に先駆けて2020年にサービスインします。私もその関係で総務省の委員会に呼ばれました。本気でやると言っています。

 5Gは日本が復活するための大きなチャンスになるでしょう。それは4年後に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるからです。世界中の人が日本にやって来て、どういうオリンピック・パラリンピックになるのだろうと期待しています。競技場建設のコスト削減の話も大切ですが、長期的に見ると5Gのインフラを使ったオリンピック・パラリンピック向けのサービスを日本からどれだけ世界に向けて発信できるかの方が重要です。

 5Gサービスをきっかけに世界を一気にリードできるまたとない機会が広がっています。そこで、会社のロゴも変えました。

問 5Gサービス成功のポイントは何でしょうか。

藤原 デバイスを新しく開発する必要があります。私が期待しているのは窒化ガリウム(GaN)ですが、現在、名古屋大学の天野浩教授が研究しています。2014年にノーベル物理学賞を受賞されましたが、窒化ガリウムで青色発光ダイオードを世界で初めて光らせました。この発明は様々なところに使えます。その1つは青色が出来たことで、LEDで白色が作れるようになり、電球の代わりができます。その意味は、世界の電球の消費エネルギーが桁違いに下がるということです。世界規模で省エネ効果が期待でき、社会貢献になります。

 それから紫外線LEDでは殺菌ができます。バクテリアで汚染された水にこの光を照射するとキレイな飲める水になります。すると世界中の安全、衛生に貢献可能です。

 窒化ガリウムの研究では日本にアドバンテージがあります。成果を全て日本で独り占めしなくてもいいのです。得意なものが1つあれば、それで十分良いわけです。世界は協調した方がいい。得意技を持ち寄れば今よりもっと住みやすい世界になります。日本はここをやりますというのを持っていることが外交上極めて重要です。

国家や企業家は未来へ投資せよ

問 藤原社長の話を聞いていると新しいテクノロジーの可能性を感じ、今後が楽しみになってきました。そこで、未来に対して企業経営者はどんな心構えが必要でしょうか。

藤原 テクノロジーの進化は人類の生活も変えてきました。今後10年で既存の職の半分が失われるリスクがある訳です。楽観論で言えば、これまでの産業革命の歴史を見れば分かりやすいかもしれません。

 人類は紡績機械を開発した結果、手工業がなくなり職を失う人が出ました。一方で単純作業から解放された人たちは新しい産業を起こしたとも言えます。実際に製鉄業や自動車産業が起こったわけです。

 今まで人間にしか出来なかったことが機械によって入れ替わるということは、人間に余力ができることを意味します。その余力を使って、また新しい産業を作ればいいという考えが基本的にはあります。

 企業経営者が未来に目を向けず、コスト削減だけして、売上げと利益さえ追求すればいいという考え方には反対です。効率化だけを求め、究極的には従業員はゼロでいいと思い始めると世の中はおかしな方向へ行てしまうでしょう。

 やはりコストダウンして利益を上げると同時に次のアイデアを考えることが大切です。そもそもテクノロジーは人間のためにあるというのが私の信条です。あるいは地球環境全体のためかもしれません。人類の発展のために環境破壊をして人間さえよければいいというのでは長続きしません。世界には絶滅危惧種も存在しますが、保護は大事です。

 国家や企業経営者は未来への投資を怠らない方がいいでしょう。富士フィルムは優秀な会社で、アナログフィルムがなくなったら、化学を中心に医薬品や化粧品に進出しました。時代に合わせて事業転換ができる企業は、未来への投資を怠らない経営者がいるからできること。企業は未来を創るためにあるのだという経営哲学が大切です。

 人工知能がこれまでの産業革命と少し違うのは人間の身体の代替ではない点。人間の脳の代替です。これが今までの産業革命を起こしてきたテクノロジーとは異質なところだと思います。

企業家が世界を変える

問 将来展望について、今後の藤原社長の夢を聞かせてください。

藤原 日本がもう一度世界をリードできるような社会になってほしい。それは政治では出来ない。民間の力だと思う。その一石を投じたいと思います。日本が国際社会で受け容れられる、安全保障とかではなくて、世界の経済発展の一翼を担えるような国、社会になってほしいし、それをやれるのは企業家しかいないと思っています。

 さらに民間も大企業では無理だと思います。そういう企業家の先鞭をつけたいなと。自分たちで全部やるわけではありません。「あいつに出来るなら私だって出来る」と身近に感じてもらえればいい。

「あの人の様になりたい」という憧れでもいいと思います。企業家の影響力とは、そういう類だと思います。両方あればなおいいですね。「やればできる」という実例を作ればこの国は動くと思います。

問 ぜひ若い企業家にもメッセージを頂けますか。

藤原 自分たちの手で未来を創る。民間の力を信じて、日本を挑戦する文化を持つ国にして下さい。そして、国際社会の一員として世界をリードできる社会を作って下さい。それは企業家のミッションです。

p r o f i l e

藤原 洋(ふじわら・ひろし)

1954年生まれ。1977年、京都大学理学部(宇宙物理学科専攻)卒業。日本IBM、日立エンジニアリングを経て85年、アスキー入社。96年、インターネット総合研究所(IRI)を設立、代表取締役所長に就任。99年、東証マザーズに上場。2000年、第2回企業家賞を受賞。05年6月に子会社のIRIユビテック、8月にブロードバンドタワーをヘラクレスに上場させる。現在、ナノオプトニクス・エナジーの代表取締役も務める。

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