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【エンジェル鎌田’s Eye】TomyK Ltd.代表 鎌田富久 x アカデミストCEO 柴藤亮介

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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大衆の力で日本の「知」を育てたい

大衆の力で日本の「知」を育てたい

左:アカデミストCEO 柴藤亮介氏 右:TomyK Ltd.代表 鎌田富久氏

(企業家倶楽部2019年4月号掲載)

ACCESS 創業者で現在エンジェル投資家の鎌田富久氏が、投資先企業の経営者と対談する「エンジェル鎌田’sEye」。今回は、研究者に特化したクラウドファンディングサービスを手掛けるアカデミストCEO の柴藤亮介氏をゲストに迎え、同社が取り組む学術分野の課題解決と未来展望を伺った。

学問の発展に貢献

鎌田 アカデミストは研究者に特化したクラウドファンディングサービス「academist(アカデミスト)」を手掛けておられますね。クラウドファンディングは、インターネットを通じて不特定多数の人に製品開発などへの資金提供を募る手法として認知度も高まっていますが、学術分野に対象を絞ったサービスはあまり見かけません。立ち上げにあたって、何かきっかけや問題意識があったのでしょうか。

柴藤 私は元々、大学院で理論物理学の研究をしていました。その中で、優秀な方が多い一方、研究者が自身の研究の魅力を発信できる場所や仕組みが無いと感じ、2014年4月に本サービスを立ち上げました。現在、案件数は過去のものも含めて合計約100件に上っております。

鎌田 お金を集めることは重要ですが、まずは研究者に発信の場を提供しようとの想いから始められたわけですね。サービスを利用されるのは、どのような分野の研究者が多いのでしょうか。

柴藤 「宇宙の起源を明らかにしたい」といった、知的好奇心を探求する基礎研究の分野です。経済的価値に直接結びつくのはかなり先になりますが、人間の精神的な価値を充足できるような研究分野と言えるでしょう。ただ、クラウドファンディングを利用する研究者はかなり珍しいというのが現状です。

鎌田 それには何か理由があるのでしょうか。

柴藤 研究者は論文数によって評価されます。したがって、外部に発信している時間があるなら、論文を書いた方が良いという思考になるのは仕方ありません。同じ研究でも、一般の方に向けて発信するのと論文を書くのでは書き方が全く異なりますので、一般向けに発表するとなると、その分の労力を考えねばならないのです。研究者は基本的に、お金を出してくれている国に向けて論文を発表しますから、その内容は専門外の方にとって難易度が高いものになりがちです。

鎌田 とはいえ、そうした国のお金も元々は私たちの税金ですから、一般向けに発信できるよう努力するのは義務だと思います。研究をオープンにすることで、認知度も向上し、お金も集まりやすくなるでしょう。ただ、そもそも現状では国も経済的価値に繋がりやすい研究にお金を出す傾向にありますね。

柴藤 まさに、iPS細胞や量子コンピュータといった注目度の高い分野であれば、国の予算を取りに行く方が賢明でしょう。しかし、今は国にもお金が無く、別の方法を作っていかなければ、日本の「知」が育ちません。そこでクラウド(大衆)からお金を集め、発信しながら研究する流れを作れればと思っています。

研究者の魅力を発信

鎌田 御社の強みを伺えればと思います。

柴藤 研究者プロデュース力です。当社には大学院での研究経験があるメンバーが集まっていますので、研究プロセスについて理解が深く、研究者の魅力を引き出すことができます。

鎌田 研究者が一般向けに研究内容を発表していく上で、アドバイスをするような形ですか。

柴藤 その通りです。クラウドファンディングのページを作成する際には、研究者と必ず打ち合わせをしています。具体的には、一般の方に刺さりやすいタイトルやメッセージ、ストーリーを考えるといった具合です。論文は客観性を重視するので、研究者が感じている面白さが削がれてしまう傾向にあります。そこでアカデミストでは、研究者の主観をいかに魅力的に発信するかに注力しています。

鎌田 熱い想いを語ってもらうわけですね。審査はあるのでしょうか。

柴藤 設けております。まずは大学や研究機関に所属していること。また、過去に論文執筆経験があること。そして、研究のビジョンを語れることです。どの程度のスパンで、何を明らかにするため、今どのようなことに取り組みたいのか語っていただきます。

660万円を集めた事例も

鎌田 金額として一番集まった案件を教えてください。

柴藤 無人の潜水艇で海底の地形を調べて地図を作成するプロジェクトで、約660万円を集めました。この場合、チームでの挑戦であったため、メンバー一丸となって宣伝したことが成功の秘訣です。

鎌田 お金を出す支援者の側に何かリターンはあるのでしょうか。

柴藤 まずは物品系のリターン。例えば、調査で得た化石を解説付きでお渡しするとか、プリントTシャツ、バッグ、マグカップなどもあります。ただ、多くの方が求めているのは体験や情報のリターンですね。前者は一緒に研究調査のツアーに行くといったもので、後者は研究の進展を直接本人から聞くことができます。

 通常の研究では、論文が書かれて一般の方々に届くまでに5年や10年を要することもあります。そこで、研究報告レポートなどリアルタイムの情報を届けることにより、支援者の方に「自分の支援がここに繋がった」との実感を得ていただいています。

論文がネイチャー誌に掲載

鎌田 御社の収益モデルをご教示願えますか。

柴藤 アカデミストは完全達成報酬モデルなので、私たちは目標金額が集まった場合、そのうちの20%を手数料としていただいています。

鎌田 仮に目標金額の80%が集まっても、未達成ということでお金のやり取りは一切発生しないわけですね。

柴藤 そうなります。集まった金額だけで取引を成立させる仕組みも考えましたが、海外の論文に「完全達成報酬モデルの方が最終的に集まる金額が高くなる」というデータがありました。実際、こちらの方が皆さん頑張られている印象です。

鎌田 確かに、目標未達成でもお金が入ってくるとなると、どうしても気は緩みますよね。苦労してお金を集めた方が、研究にも気合いが入ります。実際に目標金額を集めるのは難しいのでしょうか。

柴藤 お一人の場合、50万円集まれば良い方でしょう。決して簡単ではありませんが、クラウドファンディングは宣伝効果が大きく、思わぬ方に注目いただくこともあります。共同研究が決まったり、大きな寄付をいただけたり、メディアへの掲載依頼が来たり、有名な方との繋がりがプロジェクトを通して生まれやすいのも特徴です。

鎌田 アカデミストでのクラウドファンディングを機に成功を掴んだ研究事例はありますか。

柴藤 雷の発生メカニズムを解明する研究ですね。元々は国からのお金を取れなかったため、クラウドファンディングで資金調達し、160万円を集めて装置を2つ開発。データを集計しました。この実績を経て、再度申請したところ、国からお金が下り、その資金で更に研究を進めた結果、国際的に著名な科学雑誌「ネイチャー」に掲載されたのです。余談ですが、3万円以上支援された方には「論文の謝辞に名前を載せる」という権利がリターンとなっていたため、その全員が「ネイチャー」に個人名を連ねました。

企業と提携し研究費を拡大

柴藤 私たちはこれまで、クラウドファンディングを個人の方から支援いただく体制で進めてきましたが、研究者が得られる金額が少ないという課題がありました。国からの研究費は毎年約2300億円も出ている一方、私たちのサービスの流通総額は1億円にも達していない。これをもっと増やさなければ、世の中にインパクトを与えることができません。

鎌田 その課題解決のために、何か施策を打たれているのでしょうか。

柴藤 今年から企業とタッグを組むことによって、研究者が目標金額の調達に成功すると、企業からも50万円の追加支援を得ることができるマッチングファンド型のクラウドファンディングを始めました。

 その提携第1社目が、大学発技術ベンチャーへの投資経験が豊富なVCとして知られるBeyond NextVentures(以下BNV)です。今回の募集対象は、基礎研究への情熱を持った方。BNVとしても、20~30年後に花開くような基礎研究を支援したいとの想いがあり、今回の提携に至りました。

鎌田 今後、様々な分野の企業と組めるようになれば、企業は早くから研究者と繋がることができますし、研究者は支援金額が増えるきっかけとなり、お互いにメリットがありますね。

柴藤 企業からは、自社で抱えているデータなどのリソースを生かせていないという課題をよく聞きます。しかし、必要な研究者の居場所が分からない。そこで、私たちと一緒に情報発信することによって、企業と研究者のマッチングも実現していければと思います。

科学という文化を浸透させたい

鎌田 研究者は狭い世界を飛び出して、もっと発信すべきだと思います。そこから様々な人や企業と繋がり、大きなプロジェクトに挑戦できるかもしれません。今後アカデミストには、そうした多くの研究者が参加するプラットフォームになっていってほしいですね。

柴藤 まさに、そうした立ち位置を目指して頑張ります。

鎌田 アカデミストの良い点は、研究者が自ら、一般の方にも分かるように説明を行い、共感を生んだ結果として応援してもらう仕組みだということです。そうした体験は研究者にとって、自分の研究が将来世の中のどのようなことに役立つのか考えるきっかけにもなるでしょう。また、研究段階から社会的意義を説明することができれば、研究の後に起業して社会実装に挑むこととなった場合にも有利です。

 アカデミストは研究者をサポートしようという熱意に溢れています。企業との提携も動き始め、今年は飛躍の年となるのではないでしょうか。今後の目標をお聞かせください。

柴藤 現在国から出ている研究費2300億円の1%に当たる約20億円をクラウドファンディングで集めたいですね。それにはまず、2桁億円を目指します。

 また、科学という文化をより浸透させたい。例えばスポーツ選手であれば、一人くらい好きな方の名前が頭に浮かびますよね。それと同じように、好きな研究者が思い浮かぶような社会になれば良いと思います。

鎌田 インターネットの普及によって、個人が輝く時代になりました。アカデミストも研究者を輝かせるプラットフォームになれれば良いですね。将来的にはアカデミストからノーベル賞を受賞するような研究者が出てくると面白い。大学の中には社会実装できそうな研究が数多く眠っています。ほとんどの人が知らなくても、素晴らしいものばかりですので、そうした芽を育てていけるような存在を目指してください。

Profile

柴藤亮介(しばとう・りょうすけ)

首都大学東京大学院 博士後期課程単位取得退学。大学院時代は、ボース・フェルミ混合気体の理論研究を進めながら、私立中学・高等学校にて非常勤講師として勤務。2013年にエデュケーショナル・デザインを創業。2014 年に「academist」を公開。4年間で約100 件の研究プロジェクト立案・コンテンツ作成に携わる。

鎌田富久(かまだ・とみひさ)

1961年、愛知県生まれ。東京大学大学院の理学系研究科にて情報科学博士課程を修了。理学博士。1984年、東京大学の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウェアを手がけるベンチャー企業ACCESSを荒川亨氏と共同で創業。iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引する。2001年、東証マザーズ上場を果たし、グローバルに積極的に事業を展開した。2011 年に退任すると、2012 年4 月より、これまでの経験を活かし、TomyK Ltd. にて革新技術で日本を元気にするベンチャー支援の活動を開始した。

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