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MUJINが見せるロボットの未来

MUJINが見せるロボットの未来

(企業家倶楽部2018年1・2月合併号掲載)

11月29日から12月2日にかけて、東京ビッグサイトで2017国際ロボット展が開かれた。今回で22回目を迎えた、この2年に一度の大イベントに、過去最大規模となる612社・団体が2775 小間のブースを出展。各社自慢のロボットたちを披露した。(文中敬称略)

 大盛況の国際ロボット展の中でも、一際賑わっている場所があった。イメージカラーのオレンジが目に鮮やかなMUJ INの展示ブースだ。2年前と比べて出展フロアの広さは7倍になったというから、同社の成長ぶりがうかがえよう。

 CEOの滝野一征が「技術力に自信があるからこそ、それをお客に見せる機会に対する投資は惜しまない」と常々語る通り、社員50名に満たない企業のものとは思えないほど広いブース内は、自由に歩き回れないほど大混雑。中では種々様々なロボットアームが働いている。しかしよく見ると、それらはどれも他社製だ。それもそのはず。MUJINはロボットメーカーではなく、ロボットを動かすための脳の部分を作っている企業なのだから。各ロボットアームの側面には、「MUJIN inside」の文字。ブースの中のロボットは全てMUJINのシステムで動いており、彼らはそれを提携メーカーのロボットアームを使って見せているというわけだ。

現場さながらのデモを構築

 いかなるアームでも動かせるコントローラを作ってしまった点だけでも画期的だが、MUJINが開発したのは世界初となる完全ティーチレスのロボットコントローラということで、業界を驚かせた。

 これまでロボットには、動作をプログラムする「ティーチング」が不可欠であった。目の前にあるモノ一つ取るだけでも、ロボットにとっては至難の業。一つの作業だけで何工程も教え込まねばならないというのに、バラ積みピッキングなどの芸当をさせることは不可能であった。今回のロボット展を見渡しても、同じ動作を繰り返すロボットは数えきれない程あったが、完全ティーチレスで変幻自在に動けるロボットと言うと、MUJINの他に類例が無い。

 MUJINのブースはファクトリー・オートメーション(以下FA、工場自動化)と物流の二種類に大別される。ブースの特徴は、単にアームが動く様子のみを展示するのではなく、MUJINコントローラを導入した際の具体例がイメージしやすい作りにしていること。他社の周辺機器も一緒に配置し、実際に機械がどう動くのか、現場さながらのデモンストレーションとなっている。

 例えば、薄い円盤状の金属をバラ積みからピッキングした後、その金属がプレス機にかけられて皿になる様子まで含め、お客ははっきりと見て取れる。同社PR&HRマネージャーの山内龍王も「こうした俯瞰性はFAと物流の双方で心がけている。周辺機械まで含めて工程の全貌を見せているブースは少ないため、かなり意識した」と説明する。

物流自動化を一手に引き受ける

 トラックが輸送してきた箱詰めの荷物を、ロボットが次々に運び出し、ベルトコンベアに乗せる。自動的に格納された荷物は、しかるべきタイミングでまた取り出され、行き先を同じくする別の荷と共に再びトラックへと積み込まれる。この工程に一切人は介しておらず、全てが自動で行われる。

 こんな未来の物流を実現すべく、MUJINは次々と新サービスを投入する。今回の展示で初めてお披露目となったのは、トラックのコンテナからロボットが自動で荷下ろしを行うシステムだ。未だ開発中のため少々拙い部分もあるが、既に受注が入っており、2018年2~3月には現場への導入を目指す。

 夏場、コンテナの中の温度は50℃に達する。トラック運転手のやりたくない仕事の2つは、長距離運転と荷下ろしと言われており、その片方だけでも自動化する意義は大きい。

 課題の一つは、画像認識。MUJINが得意とするバラ積みピッキングの場合、カメラは上に付いており、対象物を視認しやすいが、トラックの中のものを取り出さねばならない以上、カメラは横に付けざるを得ない。すると、自分のアーム自体でカメラの視野が塞がれることもあり得るのだ。また、コンテナの奥の方にある荷物を取る際には、アームの動ける空間が限られるため、工夫が必要となる。

 荷物の重さは30~35kg程度までならば問題は無いが、大きさに関してはあまりにバラバラなものだと難しい。ただ運送業者の話によると、「大きさはまとまっているケースも多く、部分的でも自動化できれば助かる」という。

 他にも、自動化が望まれている物流現場は多い。コンビニ物流向けのピッキングが行われるのは室温5℃の部屋の中。こうした状況下で働いているのは95%が外国人労働者だ。人がやりたがらない部分にこそ、自動化の需要があると言えよう。

 積み荷を仕分けたり入れ替えたりする作業は、MUJINコントローラにとってお手の物。最近では掴めるモノの形も徐々に増え、チューブ型の歯磨き粉やスプレータイプの洗剤など、曲面でも持てるようになった。あとはトラックからの荷下ろしが導入されれば、MUJINは物流の上流から下流まで一気通貫して自動化できる唯一の企業となる。

誰でもロボットメーカーになれる

 MUJINブースの中には、故意に比較的性能の劣るロボットアームを使用した展示もあった。しかし、そのロボットの動きは他のものと比べて遜色無いほど滑らかだ。「MUJINコントローラを導入し、脳の部分を変えるだけで、これだけ動くようになるという証拠を見せたくて、あえて使っている」と山内は明かす。

 彼らが目指すのは、誰もがロボットメーカーとなれる時代だ。ロボットアームのハードウェア自体は作るのが難しくないため、既に中国勢などはその領域へこぞって進出している。しかし、ソフトウェアの開発は困難を極め、せっかくのアームも鉄の塊と化しているのが現状だ。

 MUJINは、そうした人々にソフトウェアを提供することで、ロボットメーカーとして活動ができるようにしたい考えだ。メーカー参入へのハードルが下がれば、ロボットがより普及し、便利な未来に近づく。ただの鉄の塊に命を吹き込むのが、MUJINコントローラなのである。

 ブースの案内に、投資家へのプレゼンにと忙しく飛び回る滝野に、次回2019年の国際ロボット展に向けた抱負を聞くと、「次は会場全部貸し切りますよ!」と冗談めかしつつ、「今回ここで披露している技術をどんどん現場に投入していきたい。そして、今後は単に動くだけではなく、誰でも使えるように操作性を上げて行く」と語った。

 確かに、まだ認識できないものや、掴めないものも多い。解決すべき問題は山積みだ。しかし、その中でもMUJINはスピード感をもって、グローバルに展開していく。自慢の技術をいち早く現場に導入、改善を繰り返し、地に足を付けて成長していくMUJINから目が離せない。

 

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