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【エンジェル鎌田’s Eye】TomyK Ltd.代表 鎌田富久 & WHILL CEO 杉江 理

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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空飛ぶ車でエアモビリティの未来を切り拓く

空飛ぶ車でエアモビリティの未来を切り拓く

左:テトラ・アビエーションCEO中井 佑氏 右:TomyK Ltd.代表 鎌田富久氏

(企業家倶楽部2019年8月号掲載)

ACCESS創業者で現在エンジェル投資家の鎌田富久氏が、投資先企業の経営者と対談する「エンジェル鎌田’s Eye」。今回は世界最大の航空機メーカー、米ボーイング社が主催する世界大会に向け、一人乗り用の空飛ぶ車「teTra(テトラ)」を開発しているテトラ・アビエーションCEOの中井佑氏をゲストに迎え、エアモビリティの未来についてお話を伺った。
(企画:本誌デスク 相澤英祐)

3000チームの頂点を目指す

鎌田 御社はアメリカのボーイング社が主催する「GoFly Prize(ゴーフライ・プライズ)」に向けて空飛ぶ車「テトラ」の開発に取り組んでいますが、これはどのようなコンテストでしょうか。

中井 一人乗りで垂直に飛び上がれる空飛ぶ車の開発を競う世界大会で、2018年から始まりました。

 私たちは同年6月にフェーズ1の審査を経てフェーズ2に進み、現在はフェーズ3に向けた開発に勤しんでいます。最終的には実際に1人の人間が50キロ、30分以上飛んで移動できる製品を作らねばなりません。

鎌田 どのくらいのチームが参加したのでしょうか。

中井 合計95の国と地域から出た約3000チームです。そのうちフェーズ1を通過したのは167チームで、中でも私たちは上位10チームに選ばれる高い評価を得ました。現在31チームが最後のフェーズ3通過を目指しています。

鎌田 この短期間で上位10チームに選ばれ、最終の31チームに残る製品を作るとはすごいですね。フェーズ1、2ではどのような審査がされたのですか。

中井 フェーズ1は基本的な設計審査です。本当にその設計で空を飛べるのかを審査されました。フェーズ2で行われたのは、製品を作っての技能試験です。

鎌田 フェーズ3では実際に人を乗せて飛ばすのでしょうか。

中井 はい。フェーズ3は20年3月に予定されており、1/1サイズの機体での飛行審査が行われます。

鎌田 自信のほどはいかがですか。

中井 現時点でいくつか課題があるので、それが悩みですね。例えば、翼への負荷をもう少し抑えて浮かせるように改良したり、長く飛行できるようにバッテリーのハイブリッド化に取り組んだりしています。
 部品の調達にも苦労が絶えません。今やインターネットで簡単に物が買える時代ですが、私たちが使用するような特殊な部品の購入・輸入には3カ月ほど前から事前申請が必要です。国内で調達すると品質は良いのですが、さらに時間がかかってしまいます。

 今は性能や品質よりも、限られた時間の中で早く実験を行うことにこだわる時期だと考えています。

「早く移動したい」との想いが原点

鎌田 空飛ぶ車に興味を持たれたきっかけは何ですか。

中井 子どもの頃から長時間移動が嫌いだったというのが原点ですね。小学生の頃から電車通学をしていたのですが、「乗り物が直接、学校まで行ってくれれば良いのに」と常々思っていました。ある時、小型飛行機に乗る機会があり、その速さと簡便さを実感した経験から、空を飛ぶ乗り物に憧れるようになりました。

鎌田 子どもながらに抱いていた疑問や問題意識が、今こうして事業に直結していると考えると、中井さんの探求心は素晴らしいですね。ただ、飛行機は操縦が難しいというイメージがあります。

中井 皆さんが思っているほど難しくはありません。海外では14歳から小型飛行機の免許を取れる国も多い。それは障害物が無くて安全であり、高度を指示するレーダーが付いていて衝突の心配がないためです。

鎌田 なるほど。むしろ自動車の方が障害物や衝突の危険が大きそうですね。飛行機に興味を持ちながら、大学では航空ではなく機械を専攻されていますが、それはなぜですか。

中井 実は、移動を速くする手段として、初めから飛行機に絞っていたわけではなかったので、とりあえず機械を選びました。しかし、移動手段の開発はそう甘くなかった。そんな時、17年10月に偶然ツイッターでゴーフライの情報を見つけ、「これならできそうだ」と思いました。それから航空関係の授業を沢山取り、ヘリコプターの原理から勉強したという次第です。

鎌田 私が空飛ぶ車の事業計画を初めて拝見したのが18年1月ですから、わずか3カ月にしてゴーフライに挑戦する準備が整ったということで、凄まじい行動力ですね。

 中井さんは人を巻き込む力がとても優れていると思います。時間が無い中、協力者を集めて目標を達成していく。また、人に任せるだけでなく、しっかり自分でも理解した上で物事を進めていく性格も、企業家向きの素質でしょう。

 初めて空飛ぶ車のプランを見た時、「これは凄いのが来たな」とワクワクしました。

空飛ぶ車が行き交う日は近い?

鎌田 現在、大手自動車メーカーをはじめ、空飛ぶ車の開発が日本でも進められつつありますが、やはり差別化は必要ですよね。

中井 確かに多くの企業が開発を進めていますが、競合とは思っていません。むしろ多くの企業が参入しなければ、飛行などのルール作りも進みませんし、話題にもしてもらえないでしょう。ベンチャー企業である私たちにはできないことが沢山あるので、影響力のある大企業に引っ張っていただきたいです。

 自動車に様々な車種があるのと同じように、空飛ぶ車にも独自性のある多様な種類が生まれるでしょう。弊社は一人の人間が将来的に100キロ、200キロと移動できる「空の原付」を作る考えです。

鎌田 多くの企業が参入しなければ市場が盛り上がりませんし、空飛ぶ車が普及してこそ、ルールが決められるわけですね。そうなると、ルールが策定されるのはもう少し先になりそうですか。

中井 実はそうでもありません。18年から経済産業省が「空の移動革命に向けた官民協議会」を開催し、23年までに空飛ぶ車の商用開始を目指してルール作りを進めようとしています。

鎌田 日本でこれほど早く商用開始に向けた整備が進められようとしているとは驚きました。

中井 その協議には私も参加してい「テトラ」の完成予想イメージます。ゴーフライに向けた開発だけではなく、実際に日本で空飛ぶ車を普及させるためのビジネスプランも考えなければならないので、全くのゼロから新しいものを作る難しさを痛感するばかりです。

鎌田 空飛ぶ車のビジネスプランについて、具体的にはどのようにお考えでしょうか。

中井 まず、多くの方に利用していただかなければ量産できませんので、公共性があって、社会問題を解決でき、更にそれが収益に繋がるにはどうすれば良いかを模索しています。例えば観光と結び付けて、地方の観光資源として使っていただくといった具合ですね。

鎌田 セグウェイも観光資源として使われていますし、多くの方に興味を持っていただけそうです。最近は車でもシェアする流れができていますので、そのようなシェアリングサービスの可能性もあります。

中井 そうですね。正直なところ、空飛ぶ車を社会に広く普及させるという意味では、機体を海外から輸入してしまうのも一つの方法だと思っています。中国ではすでに実用化が進んでいますし、ドバイでは警察が空飛ぶ車に乗ってパトロールをしています。既にある物を利用してしまえば、ビジネスプランを考える上でもイメージが湧きやすい。

鎌田 とてもオープンな考え方ですね。普通ならば自社製品をいち早く売り出したいと思ってしまいがちですが、まずは業界を盛り上げたいという想いの強さを感じます。

中井 もちろん自社の独自性は出していきたいですが、業界の基盤が整ってこそ、初めて細かい違いや個性が際立つようになると思います。

陸と空の住み分けで効率的な社会に

鎌田 よくSF映画などでは空飛ぶ車が縦横無尽に空を行き交っているのを見ますが、実際にそうした製品が普及した場合、どのような世界観になるとイメージしていますか。

中井 難しいですが、空中に作られた見えない通路の中を飛んでいくイメージですね。機体の位置情報を全てコンピュータで処理できれば、衝突しないように経路を変えながら進ませることもできます。

 今後普及が予想されるドローン配送との兼ね合いもありますから、配送システムと空飛ぶ車のシステムをどのように分けるか、また国際標準規格と国内ルールのどちらになるのかなど、読めないことばかりです。

鎌田 色々な可能性がありますね。ただ、初めから全て自動運転にしてしまえば、高度によって配送専用レーンと人が移動するレーンを明確に分けるなど、インフラが整っている自動車よりもむしろ取り組みやすいかもしれません。

中井 そうですね。都市など経済活動が活発なエリアでは自動運転が前提になると思います。一方、決められたエリア内に限って手動運転を許可すれば、車と同じように運転が好きな人も楽しめるでしょう。

鎌田 空飛ぶ車はリアルな道路を作る必要がないので、ある程度のルールやプラットフォームを作ってしまえば、実用化される日は近そうです。空飛ぶ車が普及したら、どのような社会になるとお考えですか。

中井 私は、早ければ28年には普及すると予想していますが、そうなると当然コストが下がるので、陸の自動車との住み分けが起こるでしょう。短距離の移動や重い荷物の運搬には地上の車の方が適当ですが、長距離を移動したり、ある程度軽いもの、早く輸送せねばならないものを運んだりする場合は、空飛ぶ車に任せるべきだと思います。

鎌田 陸と空、双方の車を、それぞれ得意な分野で使い分けるということですね。

 空飛ぶ車が時代の潮流に乗ったまさに今、こうして事業化を進めておられるのは奇跡的なタイミングだと思います。是非、今の取り組みに思い切り挑戦してください。

Profile

中井 佑(なかい・たすく)

2015年、東京大学工学部機械工学卒業。17年、東京大学大学院工学系機械工学修士課程卒業後、同大学院博士課程入学。テトラ・アビエーション代表取締役兼プロジェクトテトラ代表。博士課程在学中に一人乗りの「空飛ぶ車」の設計コンテストに応募し、世界10傑に入選。直後に起業し、資金調達を行う傍ら、飛ぶためのハードウェアを開発中。23年までに日本の空の移動革命実現を目指している。

鎌田富久(かまだ・とみひさ)

1961年、愛知県生まれ。東京大学大学院の理学系研究科にて情報科学博士課程を修了。理学博士。1984年、東京大学の学生時代に、情報家電・携帯電話向けソフトウェアを手がけるベンチャー企業ACCESSを荒川亨氏と共同で創業。iモードなどのモバイルインターネットの技術革新を牽引する。2001年、東証マザーズ上場を果たし、グローバルに積極的に事業を展開した。2011 年に退任すると、2012 年4 月より、これまでの経験を活かし、TomyK Ltd. にて革新技術で日本を元気にするベンチャー支援の活動を開始した。

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