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【編集長インタビュー】ランクアップ 代表取締役 岩崎裕美子

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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挑戦」が好き

挑戦」が好き

(企業家倶楽部2015年12月号掲載)

ほぼ残業なしで17 時を過ぎるとオフィスには社員がほとんどいなくなるという。社員数は43名、売上は70 億円を超え、業績は右肩上がりで伸びているというから驚きだ。ある事件をきっかけに会社は転機を迎える。「女性が子供を産みながら一生好きな仕事を続けられる社会を目指したい」と、ランクアップ岩崎裕美子社長は創業の想いを語る。( 聞き手は本誌編集長 徳永健一)

ベンチャーは差別化で勝負

問 美容・化粧品業界の市場規模が2兆円と大きなマーケットですが、最近のトレンドについて岩崎社長はどのようにお考えですか。

岩崎 化粧品業界のトレンドは移り変わりが速いと思います。以前は大手化粧品会社が強く、ブランドで製品を選ぶ時代でしたが、今は製品の成分であったり、メーカーがどういう想いで作っているかなど、「機能」で自分の好みに合わせて購入する時代になってきました。私たちのように後発でまだ小さなメーカーでもしっかり特徴を打ち出していけば、売上を伸ばせる時代だと思います。

問ランクアップの製品の特徴は何ですか。

岩崎 「無添加」で肌に安全で安心して使えることです。効果があっても肌に必要ない成分は入れません。毒を塗ってまで綺麗になりたくありませんから。あくまで消費者目線で効果が実感できて、肌が綺麗になるものを作っています。自分目線を持っているので、マーケティングはしていません。

 もともと起業したのは、前職で夜遅くまで働き詰めで肌がボロボロになってしまい、自分の肌を改善したいというのが始まりです。自分の肌さえも改善できなければ、人の肌を綺麗に出来ません。マーケティング調査をすると架空の人物像が出来上がります。30代の女性はこういう悩みがあるので、こういった製品を作ると売れますといった方法はしたくなかった。

 私たちは差別化できる製品を作るのが得意です。ベンチャーは差別化できなければ生き残れませんから。まず、自分たちで効果が実感できないものは売りません。例えば、今でもまだ製品化できていないものがありますが、それは美容サプリメントです。アンチエイジングを目指しているので美容サプリメントも販売したいのですが、モニターの実験で若返るとか肌が蘇るといった充分な効果が得られていません。ですので、自分たちが納得したものしか販売していません。

問 売れるかどうかではなく、自分たち自身が本当に欲しいかどうかという究極の顧客目線がランクアップの特徴となっているのですね。まず「効果」が実感でき、そして「無添加」という明確なコンセプトがありました。すぐに製品は完成したのですか。

岩崎 化粧品を作ったことがなかったので苦労しました。製品開発に当たって何社も製造メーカーを訪ねました。「女性を確実に綺麗にする化粧品を作りたい。あなたならどういう成分を入れますか?」と聞いて回りました。すると、「原価はどうしますか?」「最近はこういった成分が入っていると売れます」という返事が返ってきました。

 私は原価はどうでもよく、肌が綺麗になれば何万円かかってもいいと伝えましたが、話が噛み合いませんでした。価格帯は効果のある製品が出来てから考えようと思っていましたので、メーカーを見つけるのにさえ苦労しました。そんな中、私たちの想いに共感してくれる担当者が現れ、試作を繰り返し、「ホットクレンジングゲル」が誕生しました。

累計販売500万本突破

問 主力製品の「ホットクレンジングゲル」は発売から10年で累計販売数が500万本を超えたそうですね。ロングヒットを続けているのはなぜでしょうか。

岩崎 クレンジング(メイク落とし)ですが、「毛穴の黒ずみが取れる」というのが口コミで広がって、汚れが取れ、さらに肌に優しいという点が支持されたのではないでしょうか。クレンジングとは肌を洗剤で洗っているのと同じことです。メイクは食器の油汚れと同じで、女性は毎日、食器洗剤で洗顔しているようなもの。だから、刺激が強くて肌が荒れてしまう。私も以前は、洗顔後は顔がお猿さんみたいに赤くなっていました。肌に優しいクレンジングがあればいいなと考え、美容液と同じ成分で作ったので、肌が突っ張らず、洗顔も一度で済み、手間が掛からないのもメリットです。

問 リピーターも多いと聞きました。ファンになってもらうためにどんな取り組みをしているのでしょうか。

岩崎 前職で広告代理店の営業をしていた経験があります。販売会社は製品を売るだけで、雑だと思いました。どのように使って欲しいのかなど、案内書が入っていません。マナラでは製品が届いた時には分かりやすい使用方法が入っています。パンフレットを同封し、次にどうして欲しいのかアクションが取れるようななサービス」を心掛けています。

 こんなことがありました。紫外線をカットする帽子が2週間で3000枚売り切れました。でもその帽子は、ツバが大きくて風が吹くと目の前に落ちてきて視界をさえぎることがありました。自転車に乗っていて危ないという指摘を頂いたので、3000人全員に「もし危ない思いをしていたら返金します」と手紙を出しました。誠意をもって対応します。それも社員の声から出てきたものです。

会社のターニングポイント

問 皆さん、明るくて元気な印象ですが、是非、会社のカルチャーについて教えて下さい。

岩崎 今は会社の雰囲気も明るくて、挑戦する風土がありますが、以前は暗い会社でした。会社設立から今まで売上は右肩上がりで、お陰さまで資金繰りに困ったことは一度もありませんでしたし、お客様に誠実な対応をするという理念は浸透していたのですが、心がひとつという感じではありませんでした。

 原因は経営陣にありました。私と取締役の日髙の二人で始めた会社です。立ち上げ期は分からないことばかりで苦労しました。会社の方針、仕事のやり方に渡るまで全て二人で決めていました。猫の手も借りたいくらい多忙でしたので、中途採用を始めると、銀座にオフィスがある化粧品会社と言うことで人気が有り、一人の採用枠に700人の応募がありました。とても優秀な人材を採用できたのにも関わらず、何もかも私と日髙で決めて、作業員の様な仕事の仕方をさせていました。

 社員には彼女らなりのアイデアがあったと思います。でも私たちの方が会社を興して苦労してきた先輩だから、「まだあなたは分からないよね」という感じで、私たちの言うことを聞いていれば間違いないと考えていました。二人で何でも決めて、理念も発表するものだから、聞いている社員は反応がいまいち。白けている雰囲気は感じていましたが、私たちは毎日二人で仕事のことばかりずっと話していたので、これが最高だと思っていました。「何でこんないいのに皆分からないのだろう?」と不思議でした。

問 それが、どういうきっかけで変わったのでしょうか。

岩崎 会社の雰囲気が悪くストレスで休職する人が出てきました。前職に比べたら残業はないし、給料だって安くはないし、何でなんだろうと思いましたが、何とか改善しなければと金融機関の紹介を受けて、外部の研修を受けました。

 前半は管理職のみ2泊3日の研修でしたが、会社の強み弱み、自分の強み弱みが理解でき、客観的に全体像を把握できる良い研修でした。しかし、後半の一般社員が参加した研修で事件が起きたのです。

問 事件とは穏やかではないですね。何が起こったのですか。

岩崎 その位のインパクトがありました。研修はとても中身が充実していて2日目まで順調に進みました。問題の3日目に「会社の方向性は分かった。自分たちの適性も理解しました。それでは、あなたたちは会社に対して何ができますか」という課題が出て、それぞれ発表する機会がありました。

 そしたら、参加していた社員が全員泣き出した。「私たちは会社にまるで認められていないのに何が出来るか考えられない」と。優秀な人材を採用できているにも関わらず、やりがいの感じられる場面を作ってあげられていなかったのが原因です。社員は承認欲求が満たさせず、それまで我慢していたのです。

「岩崎さん、大変です。皆に謝ってください。会社に認められていないと泣いていますよ」と講師から電話がありました。すぐにタクシーに乗って青山の研修会場へ駆けつけました。そのときに初めて社員はやりがいを求めていると知りました。

問 会社が変わる良い転機になりましたね。

岩崎 その研修は会社のことを真剣に考えないと答えが出ないカリキュラムになっていて、夜中まで課題が出され、きついものでした。だから、3日目に押さえていた思いが爆発したのでしょう。社員一人ひとりの不満を引き出そうと意図したものではありませんでしたが、自然とそうなりました。

 結果としてとても良かったと思っています。その日をきっかけに会社の雰囲気が暗かった本当の理由が分かり、社員と対話が出来るようになりました。

問 その後、具体的にはどんな改善をしたのでしょうか。

岩崎 当時はしっかりとした評価制度がなく、新しく作ることにしました。前職の営業職時代には組織のマネジメントは難しくありませんでした。売上目標などは数字で決まっているので、達成したかどうかのみの指標なので楽でした。

 しかし、通販会社は製造・宣伝・配送部門があって、コールセンターもあります。誰か一人がスターではなく、皆の協力があって売上が立つ会社なので、評価制度を作るのが難しかったです。

価値観を共有

問 評価制度を作るときのポイントは何でしょうか。

岩崎 これまでは何となく出来てるからいいねで昇格していましたが、基準が明確ではありませんでした。そこで、評価制度を作る前に、会社の価値観をはっきりさせようと考えました。

 中途採用が多く、前職でのスキルを持って入社してくる人がほとんどで、価値観採用では有りませんでした。私たち経営陣の想いやミッションに対して賛同しているわけではない。そんな理由から会社に対する忠誠心は持ちにくかったと思います。

 そこで、私と日髙で会社の価値観を明確にしようということで、「挑戦」が好きだということを発表しました。価値観はその人それぞれなので無理に合わせることはできない。それよりも私たちの価値観を打ち出せば、社員は選ぶ権利があります。

 会社の理念や製品誕生の背景など、ちゃんと説明していなかったと反省しました。自分たちは何度も説明したつもりだったのですが、伝わっていなければ意味が無いでしょう。何度もコミュニケーションを取ることが必要だと学びました。

問 岩崎社長の夢について聞かせてください。

岩崎 「女性活用」と「長時間労働撲滅」の2つが私たちの強みですので、キャリアのある女性が一生活躍できる社会にしたいと思います。キャリアがあっても出産するために好きな仕事を諦め、会社を辞めていく人を多く見てきました。育児のため定時に帰ったら戦力外と見なされますから。厳しいですがそれが日本の現状です。子供を産むのを諦めて仕事を一生続けるか、子供を産むなら仕事を諦めるかという二者択一の選択は怖くて、将来のキャリアプランも考えられません。

だから、キャリアのある女性も、子供を産みながら仕事も辞めずに済むモデルケースを実証し、そのノウハウを社会に還元していきたい。私たちの情熱で女性が幸せになる社会を作ることが夢です。

p r o f i l e

岩崎裕美子(いわさき・ゆみこ)

15 年間広告代理店に勤務し、多くの通信販売の化粧品会社を担当する。平成11 年からの6 年間は取締役営業本部長として活躍。その後、株式会社ランクアップを立ち上げる。自らのブランド「マナラ」は、自身の肌で試作を繰り返し、苦労の末に完成。肌に悩む女性から多くの評価を得て、全国に広がっている。

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