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【核心インタビュー】大研医器会長 山田満

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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原点回帰とは「現場第一主義」である

原点回帰とは「現場第一主義」である

(企業家倶楽部2016年4月号掲載)

絶対に人真似しない独創的なアイデアで最先端の医療機器を開発・製造・販売し、成長し続ける大研医器。2010年には東証一部に株式上場、現在も9期連続の増収増益を更新中だ。2015年11月にその高度な技術力が認められ、関西初となる国家戦略特区における事業認定を受けた。創業から約半世紀、同社を牽引する山田満会長に企業の持続的成長の秘訣を聞いた。(聞き手:本誌編集長 徳永健一)

創業50周年に向けて

問 山田会長は80歳を過ぎても、ますますお元気そうに見受けられます。現在も経営の最前線でご活躍されているそうですが、何か健康の秘訣はあるのでしょうか。

山田 私は約50年にわたり会社経営をしてきましたが、一番充実していたのはいつごろかと聞かれたときに、今現在であると即答できます。それは現状に満足せず、常に成長を考えているからだと思います。今に満足すれば成長は必ず止まります。

 私は今でも毎日会社に出社しています。先日は工場に行き、社員約30人と会社への要望は何かあるか個人面談をしてきました。現場で仕事をするのが頭と身体にもいいようです。やはり現場の話を聞くのが一番楽しいですね。

 そして、医療機器業界はまだまだ欧米企業が強く、日本のメーカーは負けています。私はそれが悔しい。日本発の医療機器メーカーとして全世界に貢献したいという想いがある。今でも沸々と闘争心がわいてきます。

問 来年は大研医器を創業してから50周年を迎えるそうですね。

山田 私が34歳のときに独立・起業したので、来年でちょうど会社設立から半世紀、50周年を迎えることになります。ひとつの節目ですから、2017年4月に社員とその家族、ごく親しい関係者を招いて、お祝いの式典を開催する予定です。特に社員とその家族のための式典にしたいですね。来賓のスピーチは極力減らして、私は音楽が好きですから、皆が楽しめるような光と音の祭典にしたいと考えています。

問 会社は設立してから10年で10%未満しか残らないという数字があります。さらに10年後の設立20周年の会社となると生存率は1%とも言われています。優秀な企業でも30年説がある位、産業の移り変わりは激しい。つまり多くの会社が存続できずに消えているのが現実です。会社設立から50年もの間、持続的に成長する理由はどこにあるのでしょうか。

山田 毎日必死に仕事をしていたら月日が経つのを忘れていました。(笑)

 弊社は最先端医療を支える研究開発型のベンチャーです。医療現場と協力して医療機器を作ってきました。弊社製品の統一ブランド「クーデック」とは、「クーデター・バイ・テクノロジー」という意味の造語で、独創的な技術で医療に革命をもたらしたいという想いが込められています。主力製品である吸引機器は、手術中の血液や体液等の排液を吸引し、直接排液に触れることなくワンタッチで凝固させ焼却処分が可能なため、ウイルス等の院内感染予防に役立っています。病院の医師たちが困っている課題を解決するモノづくりをしてきたことが、評価されたのだろうと思います。

 これまで、現場第一主義を掲げて、日本の医療に貢献するのだという強い思いでやってきたのが良かったのかもしれません。

現場第一主義を徹底

問 2015年3月期の業績も売上高80億3300万円、経常利益16億2300万円と9期連続で増収増益と好調ですが、今期の業績はどうでしょうか。

山田 決算が確定するまで分かりませんが、2016年3月期売上げが82億5000万円、経常利益16億5000万円と10期連続増収増益を見込んでいます。

 堅実に伸びてはいますが、決して満足していません。ここでギアを1つ上げて、早く売上げ300億円まで持っていきたい。そこまでいけばまたステージが変わってくると思います。

 今年はもう一度、「原点回帰」をすることが重要だと考えています。弊社には、研究開発・生産・品質保証・営業・管理といった部門がありますが、全ての部門が医療現場と一緒になってイノベーションを起こします。我々の現場とは病院です。病院に足を運ばなければ、本当のニーズは見えてきません。

問 現場に足繁く通うと何が見えてくるのでしょうか。

山田 なぜ医療現場が大事かというと、病気で困っている患者さんが大勢います。そういう人を目の当たりにすれば医者と協力して、早く病気を治して一日も早く社会復帰してもらい、豊かな人生を送ってもらいたいという熱い想いがおのずとあふれてきます。病気で困っている人に直に接しないと助けてあげたいと思わないでしょう。自分の力で何とかしたいという実感こそ良い仕事が出来る重要な要因だと思います。検査入院でもいいので1カ月病院に居たら、患者さんの気持ちが分かります。

 医療機器業界は進化のスピードが速いのが特徴です。今も昔もそうですが、最先端の医療機器は欧米の企業が強く、日本の医療メーカーはスピードが遅い。だから、シェアが小さいのです。日本勢が勝てない理由は、開発に掛ける予算が1桁違うことも挙げられます。しかし、弱音を吐いてはいられない。自らやるしかありません。誰かを頼っても仕方ない、実行あるのみです。

国家戦略特区に事業認定

問 現在、力を入れている分野は何でしょうか。

山田 10ミリ程の超小型で精密なポンプの一種ですが、様々な分野で利用できるマイクロポンプの開発に注力しています。

 このマイクロポンプを用いた医療機器の開発に対して、2015年11月に内閣府から関西では初となる国家戦略特区における事業認定を受けました。理由は世界の医療分野における我が国の国際競争力の強化に寄与する研究開発であることが認められたということです。この認定により、課税の特例措置として、マイクロポンプに関わる法人税法上の優遇措置を受けることが出来ますので、資金を当研究開発に充当し、より一層の迅速な製品実現化に向けて取り組んでいきます。

問 最近の医療現場のトレンドはありますか。

山田 世界に目を向けると、新しい治療法がどんどん出てきています。例えば、痛みを緩和する麻酔領域ですが、現在は静脈に直接麻酔を注入します。効果がすぐに現れ、処置が終わった頃には目が覚めるといった感じで、ムダが無い。ムダが無いというのは薬の量も少なく、身体にも負担が少ないということです。

 人は誰でも人生の終わりが来ます。出来ることなら病室ではなく退院して自宅で療養し、最期を迎えたいと考えるのが必然です。最近話題にも取り上げられる「終活(しゅうかつ)」ですね。痛みへの対応を含めた在宅治療の分野でも、麻酔領域は要望があります。今は自分で痛みを和らげられる装置があります。麻酔薬の進化によって、治療法も変わってきています。入院患者数が削減できれば、医療費の削減にもつながりますので、社会貢献度が高いといえます。

問 最先端の治療法とはどういったものでしょうか。

山田 今、開発中のマイクロポンプを使って皮膚の上から吸引すると、患部の血管を皮膚の方まで引っ張り上げることができます。毛細管が外皮の近くまで出てくるので、治癒が早いのです。これもクオリティ・オブ・ライフですね。

 既存の製品では電源につないだり、バッテリーが必要で非常に重たく使い勝手は良くなかった。しかし、電池を使って小型にするとポータブルに使えるようになり、手軽で使い勝手がよくなります。イメージで分かりやすく表現すると、進化した新型の絆創膏です。皮膚に張って治療します。

 無痛分娩の分野もデンマークや北欧が進んでいます。痛みがなければ母体への負担が少なく、早く日本にも導入した方がいいでしょう。このようにまだ開発されていない治療法も多く、麻酔領域だけでも潜在的な市場があります。

次世代の経営陣を育てる

問 前回取材をした際に、若い世代の人材育成が重要ということで、各事業部の部長に権限を委譲しているとのことでした。その後、いかがでしょうか。

山田 現在も部長会が執行役員会に昇格し続けています。社長の視点で物事を考える習慣を身に付けて欲しいという目的で始めました。早くから経営感覚を習得してもらい、将来的には経営陣の一角を担ってもらいたいと思い、期待しています。

問 会長は大研医器にどんな人材を求めているのでしょうか。

山田 簡単に言うと、「ノー」と言える人材を求めています。私や経営陣に対しても「私はノーです」と明確に意思表示できる人です。

 新聞でも大企業の不祥事の記事をよく見かけます。結局、上司が間違った判断をして部下に指示を出すと逆らえない。これではいけません。だから、上司であってもこれは間違っていると思ったら自信を持って「ノー」と言える人物を育てていきたい。

 経営とは責任を取るということです。責任の範囲と量を自覚していなければいけません。昔で言ったら、責任を果たせなかったら武士はその代償として、切腹しなければならなかった。それに比べたら現代は生ぬるいと違いますか。「ノー」と言える人は、普段からよく勉強しており、物事の核心を突いています。

問 理工学系の学生の支援もしているそうですね。目的は何ですか。

山田 公益財団法人山田満育英会から医学系・理工学系の学生に奨学金の支援をしています。今年は、京都大学、大阪大学、大阪府立大学、大阪市立大学、神戸大学、同志社大学、岡山大学の7大学7名に寄付をしていますが、今後はできる限り支援規模を拡大していきたいと考えています。卒業後に入社するかどうかは学生次第で、条件ではありません。多くの学生にメディカル業界に関心を持ってもらいたい。欧米並みに企業内ドクターが増えることを期待しています。

問 新卒採用の状況はどうでしょうか。

山田 お陰さまで、2010年に東証一部へ上場し知名度と信用度が上がり、現在新卒のエントリーは毎年数千人単位であり、その中から選抜して10名前後採用しています。関西地区のみでなく、関東圏の有名大学出身者を含め文系・理系を問わず採用ができております。

問 将来の展望、今後の事業戦略についてはいかがでしょうか。

山田 「生涯現役」が私のモットーです。2012年に企業家賞を頂いたので、利益も100億円を達成して、次は大賞も狙っていきたい。

 開発中のマイクロポンプもいろいろな製品に活用できるので、近いうちに完成させたいと考えています。このようなコアになる技術は自社で確立したい。たとえば金型も自社で削り出せばいいと話している。肝心なノウハウを蓄積するため、外注ではなく自前で作れる体制を整えたいと思います。

 今回、大阪府和泉市にある工場の隣の敷地を購入し、広さは今の2倍になります。十数億円はかかると思いますが、3000坪の敷地面積に開発と生産が出来る新拠点を設立する計画です。これからの大研医器の成長を支えるエンジンになっていくことを期待しています。

p r o f i l e

山田 満(やまだ・みつる)

1932年(昭和7年)大阪府生まれ。51年、電電公社近畿電気通信局(現:NTT西日本)入社。68年、資本金100万円で大研医器を設立し、医療機器の仕入れ販売を展開。90年、院内感染予防機器「フィットフィックス」開発・販売。97年、携帯型ディスポーザブル注入器「シリンジェクター」開発・販売。2012年、「第14回企業家賞」受賞。

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