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【スタートアップベンチャー】Liaro代表取締役 花田賢人

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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AIで動画分野を切り拓く

AIで動画分野を切り拓く

(2018年12月号掲載)

 (文中敬称略)

■新興の動画共有アプリLiaro

「この動画、最高に面白いから絶対見て!」

 スマートフォンの画面上で再生される動画を一緒に見ながら、チャットを楽しめるアプリ「Liaro(リアロ)」。ユーザーは、キーワードから検索したり、人気リストから選んだりすることで、好きな動画や音楽を友達や恋人と共有。チャットだけでなく、シーンに応じて、「かっこいい」「かわいい」「なける」といった表情のスタンプを送ることもできる。アプリには、昨今様々な業界から注目を集めるAI(人工知能)を搭載。自分の見ている動画の内容を元に、おすすめのコンテンツを提示してくれる。

 手掛けるのは、東京・渋谷のコワーキングスペース「HiveShibuya(ハイブ渋谷)」に本拠を置くLiaro(サービスと同名)。代表の花田賢人は24歳ながら、新進気鋭のベンチャーキャピタル「スカイランドベンチャーズ」から投資を受ける企業家だ。現在は6名のエンジニアチームで、アプリをより充実させるべく、鋭意さらなる開発を進めている。

 実はこのアプリ、リリースからまだ2カ月しか経っていない。「まずはユーザー数や広告数を伸ばすより、コアなファンを作ることが重要」と語る花田は、アプリ使用の継続率や滞在時間に着目している。

 これまでは二者間での共有しかできなかったため、カップルに絞ってツイッターなどのSNSで告知をしていた。しかし先月、グループ機能を実装したことで、アプリ内にコミュニティーを作ることが可能に。現在は、特に音楽好きの人々に向けて発信力を高めている。

 確かにユーザーとしては、一口に「動画共有アプリ」と言われても、使い方に困ってしまう。花田は「趣味の合う仲間たちと一緒に好きな音楽を聴ける」と用途を絞って強調することで、スムーズにアプリの世界観に入ってもらいたい考えだ。

 音楽にまで領域を広げることは、ビジネス上でもメリットがある。動画だけでは、ユーザーが見終えた際、アプリ内に滞在しないことが多い。その点、好きな音楽となると次から次に聴いていく傾向にあるため、プレイリストのような形で使われやすいというわけだ。

■AIの本質は人間の補助

 AIの活用を売りにするLiaroだが、何から何までこれに頼るわけではない。実は花田も、元々はAIが直接的に動画を推薦する形を考えていたが、たとえ精度が高かろうが、機械的なレコメンドでは聴く気になりにくいという結論に達した。反対に、親しい間柄の人からのオススメであれば、多少自分の趣向と異なっていてもひとまず再生してみるもの。こうして、誰かと共有する前段階で自ら動画を選ぶ際にはAIによるレコメンドを受け、最終的に薦めるのは自分自身(つまり相手からすれば身近な人間)という現状の構図が出来上がった。

「動画にせよ音楽にせよ、同じような好みを持つ人からオススメされれば、AIから推薦を受けるよりも当事者意識が生まれる」と花田。例えば、「オススメの曲は何か」とだけ問われると少し迷うかもしれないが、AIが相手の趣向に合った曲ばかり集めておいてくれれば、その中から選ぶことができるだろう。

「人間が本当にやりたいことに時間を使えるよう補助するのがAIの本質」というのが花田の持論。人がオススメした方が高い満足度を得られるのならば、その助けとしてAIを使えば良いというわけだ。

■動画制作の最適化も視野

 小学校時代に『スター・ウォーズ』を見て以来SFが好きになったという花田。そうしたSFで描かれる世界によく登場するAIに興味を持ったのは、必然と言えるかもしれない。小学校高学年時にパソコンを買ってもらうと、中学時代からインターネットに親しみ、より深くコンピュータについて勉強しようと高等専門学校に入った。当初は「AIの時代はまだ遠い未来」という風潮があったが、4年生の時にAIブームが到来。そこから本格的にこの分野に関わるようになったという。

 動画関連サービスを選んだのは、この分野が未開拓であったためだ。現在、画像認識の分野はかなり研究が進んでいると言っていい。しかし動画となると、一秒間に何十回と切り替わる画像を一つずつ認識して解析しているのが現状だ。つまり、厳密に言えば動画としての動きを分析しているわけではない。

 動画の中の動き自体を認識するのは、現時点の技術では難しく、まだデータが蓄積されていない。まずは、動画に対する人々の感情変化といった情報を得たいところだが、これまでの動画サイトでは視聴者が各シーンにどのような感想を抱いているのか、ほとんど分からなかった。

 例えば、YouTubeでは動画全体に対する評価やコメントはあるものの、「何分何秒のどのシーンが良かったのか」は正確に把握できない。ニコニコ動画のように、リアルタイムでコメントが流れてくるタイプのサイトもあるが、そもそも言語には複雑な感情が含まれるため、現状としてAIによる解析には不適当だ。

 ここで肝となるのが、冒頭でも紹介したLiaroの表情スタンプ機能。Liaroのユーザーは、動画を再生しながらリアルタイムで感情の起伏に沿ったスタンプを押すため、どのタイミングでどのように感じられているのか、従来と比べ圧倒的に解析しやすいデータを手に入れられる。

「僕らは動画共有アプリを展開しつつ、ビッグデータを収集して動画を解析したい。その解析結果をレコメンドに取り入れるのはもちろん、今後はクリエイターの支援まで視野に入れています」

 現在は、いかに最適配信するかに主眼が置かれている動画広告だが、動画データの分析が進めば、動画制作自体を最適化することができる。つまり、「こうしたシーンは盛り上がる」「このアングルが視聴者に注目されやすい」といったデータを動画制作者に提供するサービスも考えられるというわけだ。花田の千里眼には、ただただ驚くしかない。

■成長して技術に投資したい

「最終的には、AIで難しいとされている部分に挑戦したい」と語る花田。動画や音楽を選んだ理由には、世界共通の分野であることも挙げられる。確かに音楽でも、リズムやメロディーと人間感情の相関関係を分析できるだろう。さらに音声認識がより進歩すれば、言葉の内容も分析の対象とすることが可能になる。花田は「動画解析はまだ寿命が長い分野」と分析し、この領域をリードすべく、将来的には上場も視野に入れる。

 IT業界はアメリカが日本の遥かに先を行っている印象が強いが、それは「アメリカの企業が儲かったお金を次の研究にどんどん注ぎ込む体質を持っているから」と花田。日本にも優秀な技術者は多くおり、決してアメリカに見劣りはしないという。「早くデカくなって、新しい分野に適切な投資を行い、良い研究ができる基盤を作りたいですね」

 また一人、日本の将来を託すべき若き企業家を見つけた。


【企業概要】

社 名 ● 株式会社Liaro

本 社 ● 東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル3号館531号 #HiveShibuya

創 立 ● 2014年10月

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