MAGAZINE マガジン

物語コーポレーション 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

業態・商品開発力と人財力で顧客を魅了

業態・商品開発力と人財力で顧客を魅了

(企業家倶楽部2021年3月号掲載)

2021年2月8日、物語コーポレーションは2021年6月期第2 四半期決算を発表した。既存店売上が対前年同期比101.1%と好調に推移した。特に、主力業態である焼肉部門では、対前年同期比107.5%と好調であった。第1 回の緊急事態宣言発出後の4 月、5月は、新型コロナウイルスという未知の敵との戦いを強いられ、営業自粛を余儀なくされた。業績も大きく落ち込んだ。6月以降は、業績を急激に回復した。今回は、主力業態である焼肉を中心にその背景に迫ってみたい。

業態・商品開発力

 物語コーポレーションの大きな強みは、業態・商品開発力である。焼肉という大きな市場を考えた場合、高級店からカルビ1人前390円で提供する店、「食べ放題」までいくつかのカテゴリーに分けられる。同社が目を付けたのが食べ放題である。食べ放題と言っても、以前の焼肉の食べ放題と言えば、センターテーブルに肉や野菜などが並べられ、それを客が取りに行き、テーブルで焼くというスタイルであった。言い方を選ばなければチープで、安かろう悪かろうといったイメージがあった。
 同社が作った食べ放題は考えに考え抜いたこだわりの詰まったものであった。看板一つにもこだわり抜いた店舗内外のデザイン、テーブルオーダーで頼める料理の種類と数、さらに客に喜んでもらうことを最優先する接客。それらをマーケットボリュームが一番大きい客単価3000円前後のところで見事に差別化を図っている。
 我が家の外食事情を考えてみよう。4人家族で中学生と小学生の子どもが2人。子どもの教育費が現在の家計の第一優先となり、外食機会はさほど多くない。久しぶりに外食に出掛けようとなった時に、私自身は居酒屋でも良いのだが、候補に挙がるのは焼肉か回転寿司である。決まった金額で、ドリンク、お肉、デザートまで入って2980円というのはありがたい。さらに、小学生は半額となれば、自ずと「焼肉きんぐ」に足を運ぶ機会が増える。実に消費者心理を抑えている。
 さらに、商品開発にも余念がない。「4大名物メニュー」といった「この店のこの1品」というメニューをしっかりと作りこみ、顧客へアピールを行っている。さらに、1人前当たりのポーション(料理の量)も数多くの料理が食べられるように考えられている。また、メインの肉以外の料理にも工夫が凝らされている。ごはんメニューだけでも、9種類あり、なかでも「焼肉専用バウンドごはん」など、ありそうでなかった商品を開発し、随時投入している。
 飲食業界の一番の敵は店自体の陳腐化である。どこかで新しい業態が流行れば、すぐに模倣する店舗が出て、競争が厳しくなる。そこで、顧客から選ばれ続けるためには、業態、商品共に今あるものに満足することなく、常に新しいものを考え、投入する必要がある。同社では徹底した議論の中から、新たな業態、商品の開発を行っている。そして、それをフォーマット化し、展開のスピードを上げるという繰り返しを回し続けている。
 すべての開発は顧客のためと言っても過言ではない。それが、顧客から愛される店づくりにつながり、リピートを生み、「地域一番店」として地域になくてはならない存在となっている。

フォーマットを活かす人財力

 いくら良い店舗ができたとしても、その店舗を運営するのは「人」である。同社では「人」の教育にも力を注ぎ、「人財」へと変えて行っている。採用段階から、同社の経営理念である「Smile&Sexy」に共感した人の採用を行っている。「自分を磨き、自分を表現する」という、この経営理念は、一人一人の「個」を磨き、成長させ、なりたい自分へ近づけていくことであろう。そうすることで、人は輝き、自信が付き、魅力的な人間となる。その様な経営理念のもとに集った人たちが、サービスを提供していくのだから、店舗も笑顔と元気にあふれて、活気が出てくるであろう。
 その理念に近づけるように、同社では、「明言」と「意思決定」を重んじているという。同社では、この「明言」と「意思決定」は密接な関係にある。明言することで意思決定ができ、意思決定により、行動につながり、やる気につながり、整理ができ、自分の意思ができる。「明言」するためには、自分なりに真剣に考え、その時の自分なりの答えがなければ簡単にすることはできない。要は常に考え、行動することだと言える。
 さらに、同社では「議論」を重んじているという。考え抜いた者同士が自らの考えを述べるだけでなく、迷っている部分まですべてを出し合って議論する文化がある。すべてをさらけ出すことで信頼感も生まれ、導き出す答えの確度は確実に上がってくる。
 先日、店舗でこのような体験をした。制限時間があと少しのタイミングで、頼んでいた料理でまだ出てきていないものがあった。店員さんに確認をすると、「申し訳ございません。すぐに確認いたします。お時間はお気になさらないで結構です。」大概の店舗は「すぐに確認いたします」で終わりであるが、「お時間はお気になさらないで結構です」と添えたところに、ホスピタリティを感じた。私たちのテーブルが制限時間までどれくらいかを把握し、私たちの心配に先回りし、安心とあたたかい気持ちを提供してくれた。その短い時間の中で、意思決定し行動に移している。日頃から考えていなければできないことであろう。この人財力こそ、地域一番店を生み出す根源であると思った。


一覧を見る