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【私のターニングポイント】テラ代表取締役社長 矢﨑雄一郎

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

乗り越えられない壁はないことを東日本大震災で学んだ

乗り越えられない壁はないことを東日本大震災で学んだ

(企業家倶楽部2017年6月号掲載)

 2014年は「再生医療等安全性確保法」「医薬品医療機器等法」が施行され、再生医療・細胞医療の実用化、産業化への大きな転換点となりました。これにより我々は医療支援事業から医薬品事業へと大きく方向転換しました。これまでは医療機関に自費診療の免疫療法サービスを提供してきたのですが、ワクチンをつくることで、より多くの人に提供できる体制に転換したのです。

 ここまでくるのには長い道のりがありましたが、ようやくチャンスが巡ってきた。自費診療の支援であれば、年間1000人程度の癌患者さんにしか対応できませんが、保険認証のワクチンになり、癌治療のガイドラインに載れば、すい臓癌だけで年間3万5000人の方が亡くなる状況ですから、何万人という患者さんの役に立てます。

 ワクチンをつくるテラファーマを立ち上げ、今は全てをそこに集中しています。我々のような小さなベンチャーにとっては、大きな投資と増資が必要になりますので、余分な部分をそぎ落としました。それまでの事業を合理化し、家賃の安いオフィスに移り、保険事業は売却、私自身の報酬も一旦かなり削減しました。

 この大きな意思決定をしたのは、これまでの1万1000症例が良い結果を出しているという自信があったからです。通常薬にするのは、3万分の1の確率という狭き門ですが、我々は約2分の1の確率まできている。というのは既に1万1000の症例があり、実際に延命が期待できる効果がわかっているからです。だからこそ、これは薬になり得ると、大きな決断をしたのです。

 通常薬の開発は1商品200~300億円と言われていますが、我々は30~40億円でできる。それも1万以上の症例の実績があるからです。自分の細胞を使ってオーダーメイドのワクチンをつくる場合、品質の安定性を確立するのが極めて難しく、最初九州大学の先生と一緒に取り組みを始めましたが、医薬品、工業用製品としての品質にするのはなかなか厳しかった。実際に治験をやってくれるドクターを探し、ようやくたどり着いたのが、和歌山県立医科大学です。ここですい臓癌の免疫療法で名高い先生に協力をいただけたのが大きなポイントとなりました。2017年、医師主導治験開始し、2022年に薬事承認申請を目指しています。

自費診療では年間1000人の患者さんにしか貢献できませんが、保険認証のワクチンになれば、すい蔵癌だけでも最大3万5000人の患者さんを助けられる可能性があります。保険診療に適用され、マニュアルに載れば全国のドクターが使うので、我々の療法は一気に広がり、どこの病院でも受けられるようになります。つまり特殊な治療から当たり前の治療になるということです。これがさまざまなチャンスに繋がっていきます。

 本人の細胞を基にオーダーメイドのワクチンをつくるので、副作用が少ない。従って癌とつきあいながら長く生きていくことができます。将来、癌は高血圧と同じような概念になっていくと思います。副作用が少なければ日常生活にそれほど支障なく、仕事も続けられます。

この免疫療法は体の中で癌と戦う免疫細胞だけを増やす治療なので、最終的には予防としても使えます。このワクチンを投与すれば、予防接種のように癌の発症予防になり得るということです。これからは癌が制御できる時代になってくるし、根治だって夢ではありません。そういう時代に貢献していくのが私のライフワークです。

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