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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第30回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

新しいライフキャリア観で若者を動かす

(企業家倶楽部2015年12月号掲載)

変化する現代の若者のキャリア観とは何か

 「今の若い人は、自分たちの経営者が思っているようには熱を入れて仕事をしない。いったいどうなっているのですか」と経営者の講演に行く度に質問をされます。

 ちょっとまわり道にみえるかもしれませんが、「キャリア観の変化」について、今日は私のデータをもとにお伝えいたします。

 最近のキャリア観の様変わりは驚くくらい大きいものですが、実際はその兆候は20年ほど前からはっきりしていました。たとえば「キャリアの成功とは自己イメージ(アイデンティティ)と照らし合わせた基準であり、仕事にフィット感、納得感がある状態であり、世の中の一般的基準による他人より多い収入とか同期よりも早い出世とか名誉ある地位とかあふれるほどの資格とかではない。

 仕事を通じて、自分が生かされていると実感、幸福感を味わえる状態である」(大久保幸夫、2006、「キャリアデザイン入門1」日本経済新聞出版社)

 私も、キャリアを達成するためのパフォーマンス(自己表現)の観点から、20年前にこう書きました。キャリアとは願望の実現型であるということです。

 「パフォーマンス学とは自分の人生における願望を、明確で具体的なイメージに変え、その理想のイメージを演じ切る(パフォームする)ための学問である。そのためには「なりたい自分」(自分はどう生きていきたいのか、どんなアイデンティティを持ちたいのか)を探すことが大切である」『自分をどう表現するか』(佐藤綾子、1995、講談社現代新書)

キャリア追求力が実年齢と関係ない時代

 本誌読者の経営者の皆さんは、若い社員を観て「今の若者には確たるキャリア観、仕事観がない」とよく言います。あまりにも指示待ちで、覚える努力もちゃらんぽらんなので、「本気で仕事をしているのか!」と怒る経営者もいます。

 でも、「彼らに仕事をする気」や「キャリアの夢」が一切ないわけではありません。最近勤務校でのアンケートを取りました。「自分にとってキャリアを持つことはとても大切だと思うか」に対しては80%以上の「イエス」が来ています。

 しかし、「では今そのためには何をしているか」となると、ほとんど具体的努力がない。そしてそのまま就職するわけです。就職してから、たまたま身の回りに素敵な人がいれば、「あの社長のようになりたい」というように常に揺れ動いています。

 発達心理学の立場で若者の成長をキャリア観に結びつけてみました。


●表1を見てください。

 これはキャリアパスの研究の中の私の最近のデータです。ここ2、3年間、さらには先日国会で成立した「改正労働者派遣法」などをみているとこの年代分けですら、今は大幅に変わっていることがわかります。
 
 20代から30 代で舟くだりをしている人もいれば、20代で既に、会社を作ったジョブセンスの村上太一氏やユーグレナの出雲充氏などもいます。さらに40代で早くも「統合期」、「恩返し期」に切り替えたビルゲイツ氏などもいます。
 
 60代で勤めている会社がリストラになったり、定年になった途端どうしていいかわからず、急に舟くだりを始める人もいます。

 そんな多種多様な部下たちに「君がやっていることをやるべきことをやらないと会社がつぶれるぞ」と言いたいところです。

 ところが、「恐怖による動機づけ」は多くの若者にとって長続きしません。「恐ろしいな」「困ったな」と思うことによって若い人々が萎縮し、おびえてしまうだけだからです。慌てて会社を辞める臆病者もいるでしょう。

 若い人々がやりがいをもって新しく能力を発揮してもらうためには先ほどの、ライフキャリアの認識が必要です。「君の願望は何か。それをじっと自分の内側に耳を傾けて発見してごらんなさい」という問いかけです。「何をしているときに時間を忘れてのめりこんでいるか」「どんな時に誇らしく感じるか」などを問うことです。

 そんな具体的なやりとりの中から願望と実態が見えてきます。自分の願望がわかればその願望を実現するために毎日どんな自己表現をしていったらいいかと問いましょう。

 「仲間と楽しくやりたい」という願望がある若者ならば、彼には「話しかけやすい雰囲気を作ること、様々なことに興味を持つこと、表情変化のある明るい表情で人の話を聞こう」と、教えてあげましょう。それによって年長者や先輩から可愛がられます。

 リーダーとして自分がグループのやっていることの全体像が見えるようになった社員には、「統率力」が必要です。場を読んで組織を動かしていく力です。他人の意見を統合しながら、より建設的な意見を出し、前に向かって計画や提案をしていく。彼には「統率力」が必要なのだと助言してあげましょう。そして上手にいかだ下りの時期から自発的に山登りをする時期に向かわせ、最後には「統合期、恩返し期」の気持ちになってもらえば、会社にとっては素晴らしい人間関係の完成になります。

 「コツコツ努力して成功するんだぞ」という言い方、キャリアパスを毎日同じように上昇していくことを進めていくだけでは最近の若者たちの願望とは違うかもしれません。

 経営者の皆さんがもう一度若者たちの指導を頭のどこかに入れておいて言葉がけをしていくことが必要な時代でしょう。

Profile 

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『日経メディカルOnline』、『日経ウーマン』はじめ連載6誌、著書178冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。21年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

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