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【企業家大学講演録】レオス・キャピタルワークス社長 藤野英人 

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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成長企業の法則とは

成長企業の法則とは

(企業家倶楽部2016年12月号掲載)

「企業家大学」2016年度・第39期の第4講義では、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長が講師を務めた。同氏は日本経済の停滞が叫ばれる中、4年連続でファンド大賞を受賞した「ひふみ投信」を運用。30年近い調査・運用経験を生かし、確かな数字に裏打ちされた説得力あるプレゼンで、成長企業の秘密を明かした。

リーマンショックで破綻寸前

 私はレオス・キャピタルワークスが運用する「ひふみ投信」という投資信託(以下投信)のファンドマネージャーを務めています。R&I(格付投資情報センター)によって、優れたファンドとその運用会社であると4年連続で認められ、日本でトップクラスの受賞歴を誇っています。

 TOPIX(東証株価指数)を基準に見てみましょう。これは東証一部に上する内国普通株式全銘柄を対象とする株価指数です。1968年1月4日の時総額を100として、その後の時価総額を指数化しています。16年2月時点でTOPIXが143だったのに対し、ひふみ投信は216と好調です。

 しかし、私たちもこれまでずっと順調だったわけではありません。2003年の創業当初はマーケットも好調。「理想の投信作り」を目標に掲げ、楽天証券創業メンバーである白水美樹を迎え入れました。わずか4年で弊社の時価総額は30億円にまで急伸。当時は私が70%を保有していたので20億円の資産家です。

 鼻高々だった私を待っていたのは、2008年のリーマンショックでした。独立系運用会社の9割が破綻し、弊社も限界でした。時価総額は1000分の1になり、20億円があっという間に無くなりました。残ったのは2000万円の借金のみ。社長を退任し、平社員として電話番をする日々です。もう会社を去ろうと思った時、白水に「理想の投信を作ると約束しましたよね。もう完成したんですか」と問われました。私はハッとして、今はギリギリでも必ず這い上がろうと決意しました。

 不思議なもので、どん底でもがいていると応援してくださる人が集まってきました。日本には良い会社がたくさんあります。企業の大小に関わらず、根っこから元気にしていきたいですね。そのためにも私自身、理想の投信を作るべく奮闘中です。

日経平均に騙されるな

 さて、なぜ日本株は不調である中、弊社の投資先は伸びているのでしょうか。正解は簡単。現在、日本株は不調という説が間違いなのです。現在の日本は景気が悪く、日本株で儲けるのは難しいとお考えの方は多いと思いますが、2002年に上場していた企業のうち、10年間で株価が上昇した企業は全体の何%かご存知でしょうか。実は70%の1705社です。しかも、その1705社に絞って見てみると、株価は平均2.1倍、営業利益は2倍にもなっています。イメージと異なると思いませんか。

成長企業の法則とは

 これほどまでに印象とかけ離れている理由は、上場企業300社の規模別の構成にあります。誰もが知っているような時価総額3000億円を超えている大型株はわずか4%。日本の時価総額上位30社であるTOPIX Core30の銘柄を見ると、JTやキャノン、パナソニック、三菱商事など著名な企業が並んでいます。しかし、その指数はマイナス24%。これがいわゆる「日本株のイメージ」ではないでしょうか。ソフトバンクだけは株価を5倍にして平均を引き上げていますが、同社を除けば約マイナス36%にまで落ちる。一方、同時期のJASDAQ 上場会社は43%増、東証二部では67%増となっております。日本経済の足を引っ張っていたのは大企業だったのです。

 ですから、新聞を見る際には「最高益」「増収」といった言葉に注目してみてください。目立たないかもしれませんが、小さい会社の良いニュースが並んでいます。こういったニュースを見て、なぜその会社が伸びているのか突き止める方が私たちにとってはプラスです。気持ちも明るくなります。

 なぜ大企業は株価が高いイメージがあるのでしょうか。「株価=一株あたりの利益(EPS)× 株価収益率(PER)」という式を紐解いてみれば分かります。一株当たり利益とは、情熱や工夫、頑張りによって上昇します。株価収益率は、人気や金利、為替、市況といった外的要因に影響されます。企業の人気や知名度を重視するだけではいけません。長期的に見れば、株価は業績と連動しているのです。

理念は信じてこそ意義がある

 企業への投資とは、人の可能性への投資です。なぜなら、機械を動かすのも、技術を磨くのも全て人だからです。大事なのは社員が生き生きと働いているかどうか。働く人を率いる社長の考えが重要になります。

 弊社が投資をする会社には条件があります。もちろん、継続的な収益のある企業であることは前提条件ですが、「ビジョンやミッションを明確に持っているか」「オーナーシップを持っているか」といった点を重視しています。

 オーナーシップとは、平たく言えば「自分の会社だという意識があるか」。そういった意識がある社員がいる組織は強い。当事者意識があるため、未来を考え、工夫し、実践するでしょう。そしてそのような社員を育てるには、理念教育が重要です。

 良い理念とは、良い言葉を掲げるだけではいけません。重要なのは、「社長、社員が心からそれを信じている」ことです。例えば、眼鏡の販売を手掛けるJINSを運営するジェイアイエヌ。「世界にメガネを」という理念は、平凡な言葉でしょう。しかし、この理念は社内で話し合いを重ねていた時に社員から出てきた言葉で、そこに意味があります。実際、レオスが投資をした2009年には100円だった株価は、後に6500円まで上昇しました。実に65倍。これほど、全社を通して理念を信じることは大切なのです。

自社サイトに社長の写真はあるか

 皆さんは、自社サイトに社長、役員の写真を掲載されていますか。載せていない会社は要注意です。

「私たちがこの会社を経営しています」と顔を出すことは、透明性や覚悟の表れ。経営者とはいえ、一商人であるからには当たり前です。江戸時代の店の主も、前掛けをして店頭に立ち、お客を呼び込んでいました。千客万来は全ての商売で目指すべきこと。今の時代では企業サイトが呼び込みの役割を果たします。にもかかわらず、社長が顔を出していない企業は、もう少し気を遣った方が良いでしょう。

 実際に、日本の上場会社300社中時価総額が高い200社の成長を見てみましょう。社長・役員ともに写真が載っている会社、社長のみ写真が掲載されている会社、社長も役員も写真を載せていない会社では、株価の伸び率が明らかに異なります。

 また、社長が自伝をプレゼントしてきたら要意。身の丈に合わない豪華な新社屋に入居したら、その時期がピークです。社長室が不必要に豪華である場合も同じこと。こういった事象は全て危険なサインと見ています。

地方創成を担うヤンキーの虎

 今後の日本経済にとって、地域創生は重要な課題。現在、資本効率の改善を試みる大企業の地方撤退が続いています。しかし今、この空白地帯となった地方に成長企業が生まれているのです。私はこれらを地元経済の新たな指導者として、「ヤンキーの虎」と名付けました。

 彼らは、建設業など地場産業を軸にコンビニや介護、中古車販売、飲食など事業を拡大。衰退した地元中小企業を買収し、需要さえあれば何でも手がけます。ヤンキーの虎の強みは、地縁と血縁を活用した地元情報ネットワークです。

 しかし、この動きにも変化が出てくると考えられます。現在は余白部分が広いため、リスクさえ取れば簡単に勢力を拡大できました。しかし、マーケットの縮小は進み、反対に各地の虎は大きくなっていきます。すると虎たちの戦いが始まり、2025年ころに戦国時代へと突入するのではないでしょうか。近代的な経営を行い、より多くの人材を集めた企業だけが生き残ります。

労働嫌いが7割の時代

 では、どのような会社が人材を集めることができるのでしょうか。ブラック企業批判が広がると同時に、生きがいややりがいを求める人が増加しました。一方、少子高齢化による人材不足が今後考えられます。そのため、今働いている人を大切にしなければなりません。

 そこで、新たな観点として、「健康経営」という言葉が誕生しました。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で戦略的に行うことです。従業員の活力や生産性の向上をもたらし、結果的に業績や株価の向上に繋がると期待されています。

 電通の調査では、18~29歳の若者のうち約70%が「働くことが好きではない」と回答しています。これは大きな問題です。これからの企業は働くことが嫌いな人を採用し、育てていかなければなりません。根本的に人のために尽くしたり、働いたりすることは素晴らしいという考えを広げなければ国家の未来に関わります。

アベノミクスは必要な治療

 重い病気にかかった際、「手術をしなければ5年後に確実に死にます。手術を受ければ、10%の確率で回復し、失敗すればやはり5年後に死んでしまいます」と医師に言われたら、あなたはどうしますか。大半の方は手術を受けるかと思います。アベノミクスの施策を例えると、このうな話です。 

日本は個人の預金に900兆円、社内留保で300兆円が眠っていると言われています。この投資をしない「病気」を治す手術がアベノミクス。つまり、日本全体にリスクを取って投資をするよう促しているのです。成功率は低いかもしれません。しかし、このまま何もしなければ日本経済は破綻します。成功する可能性が低くとも、もはや行うしかなかったのです。

 今後、国内外問わず、大きな動きがあるでしょう。2020年には東京オリンピックも開催されます。現在はこれに向けて頑張ろうという雰囲気になってきました。日本人は目標があれば、漠然とですが「何とかなる」と思えるのです。その気持ちが投資に繋がればいいですね。投資の力で日本を元気にしましょう。

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