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【注目企業】おかん代表取締役CEO  沢木恵太

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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生活インフラを通して社会に貢献する

生活インフラを通して社会に貢献する

(企業家倶楽部2016年12月号掲載)

働くヒトのライフスタイルを豊かにする

 オフィスに惣菜を届ける「法人向けぷち社食サービス」の「オフィスおかん」を運営する、その名も株式会社おかん。沢木恵太が2012年に創業し、14年のサービス開始以来、導入企業は400社超と好調だ。

 初期費用は無料。価格は月額3万円(税別)からプランによって異なり、基本的には企業の規模に応じて商品数や納品頻度を変更できる。おかんは専用の冷蔵庫を貸し出し、要望に合わせて惣菜を納品する。

 同社が掲げるのは「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」というミッション。日本国民には勤労の義務がある。勤労には知識や経験、金銭を得られるメリットがあるが、何かを犠牲にしたり、我慢をしたりせねばならないこともしばしばだ。改善しつつあるとはいえ、家事や出産・育児、介護との両立は難しい。

「一生懸命働きたいのなら何かを諦めなければならない。そんな誰もが望まない社会を変えるための仕組みを作りたいと常々考えてきました」と沢木は熱く語る。

23歳の健康診断で再検査だらけ

 沢木は大学卒業後、FCコンサルティング企業に就職。その後ゲーム会社に転職し、教育系ベンチャーの立ち上げにも関わった。20代半ばにして起業し、現在に至る。様々な業種・職種を経験し、駆け抜けてきたように見えるが、そこには一貫したストーリーがある。

 学生の頃より、仕組みを作る仕事に惹かれていた沢木。世界的に成功しているフランチャイズの仕組みを知るため、まずはFCコンサルティングに入社した。そして、「ビジネスの仕組みは見た。次に必要なのはIT技術だ」とソーシャルゲームのプロデューサーに転身。さらには、起業するための経験を得ようと、ベンチャー企業に参画したという次第だ。その経歴に隙はない。

 起業に際しては、「社会貢献できる仕組みを作りたい」と、衣食住の生活インフラにターゲットを絞った。アイデアを閃いたのは、これまで自身が何に困ってきたかを考えていた時。沢木が多忙を極めていた頃は食事をとる暇もなく、買い置きの菓子ばかり食べていたせいか、20代前半にして健康診断の結果が「要再検査」のオンパレードであった。

 一日24時間。日本人の多くは、そのうち3分の1以上を通勤と労働に費やしている。健康を気にしているが、ストレスや運動不足、体型、健康診断の結果に悩む人は少なくない。いくら健康に良い生活を送りたいと願っても、それを可能とする環境が無ければ容易に人は変われないのだ。そこで沢木は、健康の課題を解決できる食の仕組みを作ろうと、健康的な食事を手元へ届けるサービスを思い付いた。
「おかんは惣菜屋ではなく、ソリューション事業」と沢木が語るのも、「社会貢献できる仕組みを、生活インフラを通して作りたい」という想いから始まった企業であることが大きいだろう。

「健康経営」の追い風を受けて

 医療費がかさみ、「健康経営」に注目が集まったことで、「健康企業宣言」が全国で推進されているが、実際にどういった施策を打てばいいのか困っている企業も多い。健康に配慮した食事のサービスを受けられる福利厚生は、企業と社員の双方にとって魅力的だ。しかも、肉じゃがやハンバーグなど一つ100円のお惣菜を、目の前にある冷蔵庫から自分の好きな組み合わせで取り出し、電子レンジで温めるだけという手軽さである。

 オフィスおかんが提供する惣菜は添加物を極力抑え、30日冷蔵保存が可能なエコ包装。全国8カ所で作られる地域色豊かな惣菜は、メニューも豊富で味も良く、オフィスで食べやすくできていると好評だ。電子レンジで温めるごはんも、白米よりも発芽玄米の方が人気だという。

 日本を代表する上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで、東京23区を中心に、オフィスおかんを福利厚生として導入している企業が増えている。そのほとんどが紹介で、特に営業をしていないというから驚きだ。採用活動の際に「オフィスおかん導入」をアピールしている企業も多く、利用者が転職先の職場で「オフィスおかん」の導入を希望するケースもあるという。

「健康を維持するために必要なことは、運動、休養、食事。その中で、働きながらでもできることは食事です」

 沢木の食事に対する想いは深い。社内の管理栄養士、パートナー企業である惣菜メーカーと頻繁に意見交換、試作を繰り返し、ユーザーからの意見や希望も取り入れてメニューを決めている。健康に良い食事というだけでなく、日ごろ交流のない部署間でのコミュニケーション活性化に役立ったというユーザーの声もある。人気メニューの一つ、北陸地方でよく食される大豆を平らにした打豆とひじきの煮物など、知っている人も知らない人も、「これ知ってる?」と思わず話題にしたくなるだろう。

ヘルスケア分野とも協業 

おかんで働く人は非正規社員を含めて25名ほど。生産拠点と物流を持たないので、この人数での事業が可能だ。同社が提供しているのは、ノウハウと技術とオペレーション。当然ながら、企業ごと、事業所ごと、冷蔵庫ごとに人気商品は異なる。それぞれの導入企業とは定期的に連絡を取り、要望などをヒアリングして、個々のニーズに応じた種類の惣菜が納品されるように手配する。

 配信しているスマートフォンアプリからもユーザーからの要望が届く。データを収集・分析し、地方の生産工場や地域のパートナー企業を使って、安定した供給を可能にしている。これにより地域に事業と雇用を生み出している点も、社会貢献性が高いと言えよう。

 おかんでは現在、ヘルスケアサービスのケアプロと提携し、「ケアプロおかん」事業を行っている。これは月1回看護師がオフィスにやってきて簡易健康チェックを行い、結果を元にオフィスおかんの食事の組み合わせを提案。翌月の健康チェックの際に結果を検証するというものだ。また東京・丸の内でも日本駐車場開発の「丸の内ヘルスケアラウンジ」、ウエルネスデータの健康管理アプリ、オフィスおかんの提携による「丸の内ヘルスアップ実証プロジェクト」も実証実験中である。

 健康と労働の問題を抱えているのは日本だけではない。おかんの健康ソリューション事業は全国展開、株式上場、グローバル展開も視野に入れている。通常よそ者が入り込むことのできないオフィス内に、「オフィスおかんの専用冷蔵庫」という販売拠点がある強みを今後どう発展させるのか。健康と労働のギャップがどんどん小さくなる未来は確実にやってきている。

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