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（企業家倶楽部2011年10月号掲載）

　今回は僕のためにあるような“チャレンジャー賞”をいただき、ありがとうございます。「まだまだこれからだぞ」の賞だと思っています。今日はクックパッドと僕の歴史を８つのキーワードにまとめてお話します。

　まず①「大学」。僕は慶應大学藤沢キャンパスの４期生として93年に入学しました。教授全員が企業家のような素晴らしい学校で、「いろいろなことを思いきりやれ」と教えられました。そこで大学時代はエネルギーや教育政策、ソーラーサマーキャンプなどいろいろなことをやりましたが、卒業時、一番くやしかったのが「何をやってもイベントになってしまう」ことでした。本気で社会をよくするために継続的な仕組みを作るには、お金、事業という仕組みを知らなければならない。そう思ったのが起業のきっかけです。

　②「法人」。97年にクックパッドの前身となる有限会社コインを設立しました。日本には人間以外に、法の下で認められた法人格がいることを知ったからです。こうして、いくつかのサービスをスタートしました。

　③「有料」。事業としてスタートした時、有料を決めました。クックパッドにレシピを掲載するのに月５００円をユーザーからもらうわけです。結局は２カ月強で事業計画との乖離が起こり、有料はやめましたが、その思いは今も我々のＤＮＡです。当時、常に自分に問うていたのは、ユーザーから見て５００円の価値があるか？自分ならそれを払うか？友だちにすすめて買ってもらったときの気持ちは？ちゃんと価値を生み出せているかが大事なのです。その後はアルバイトでお金を稼ぎながら、無料で提供を続けました。

　④「子供」。僕は3人の子持ちですが、２０００年に第一子が生まれました。家族、子供と起業は相性がいいですよ。それまでは経営はトントンならいいと思っていましたが、そんな甘いものじゃない。子供のオムツって高くて、１枚27円もするんです。それを買うためには利益の目標を数値化しなければなりません。漠然としていた事業計画が明確になり、クックパッドの前進につながりました。

　⑤「グッドをやらない」。02年頃、「ビジョナリー・カンパニー２　飛躍の法則」という本と出会いました。その書き出しに「良好（Ｇｏｏｄ）は偉大（Ｇｒｅａｔ）の敵である」という言葉があります。これはとても重要で、見落としがちなことです。我々の事業計画もなかなかうまくいきませんでしたが、Ｇｏｏｄなことはやめて自分達にしかできないことに集中しよう。どうやっても料理が楽しみにならないことはやめよう。そう決めたのです。

　⑥「４０００万円」。04年に資金調達をしました。大学の授業で竹中平蔵さんに「人は40代から稼ぐんだから、若いうちから借金するくらいでいい」と教わりました。それにみんな４０００万円のマンションを買っても、ちゃんと借金を返している。だから４０００万円までならどうにかなる、と思ったのです。

　⑦「上場」。２年前に上場を果たしました。上場には議論がありましたが、パブリック・カンパニーになることは決めていました。その大きな目的は社会的信頼。クックパッドは個人のサイトと思われていたくらいでしたが、上場の効果は大でした。以前、個人ユーザーは「私、クックパッド使ってる」とは言わなかったものですが、社会的信頼を得ると、はっきりそう言ってくれるようになったのです。

　⑧「チャレンジャー賞」。僕はごく普通の人間です。試行錯誤しながらやってきましたが、今日は嬉しいチャレンジャー賞をいただきました。僕みたいなヤツが賞をもらえるのは競争力が低いということだから、今がチャンスです。すでにお話したように、僕にあるのは「料理を楽しみにしたい」という思いのみ。今日は起業を目指す若い方も多くお見えだということですが、何かやりたいことがあったら起業で形にすることが手段として一番優れていると思います。先人の知恵から学べるし、多くの人が支持してくれます。我々は徹底的にやり抜きますので、みなさんもどうかお力を貸してください。

P r o f i l e

佐野陽光（さの　あきみつ）
1973 年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。97年10月、クックパッド株式会社の前身となる有限会社コインを設立。98年3月、料理レシピの検索・投稿インターネットサイトである「kitchen@coin」を開始。99年6月、「kitchen@coin」から「クックパッド」へサイト名称を変更。「毎日の料理を楽しみにする」を理念に、クックパッドを日本最大となる料理サイトへと育ててきた。