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【第15回 企業家賞 記念講演録】スーパーホテル会長 山本梁介氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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メガネの歴史を変える

メガネの歴史を変える

(企業家倶楽部2013年10月号掲載)

 スーパーホテルは、宿泊で浮いたお金でビジネスマンがちょっと一杯飲めるくらい、4800円~程度に料金を安く設定したビジネスホテルです。今では北海道の北見から沖縄の石垣島までの全国104店舗に加え、タイのバンコクにも1店舗オープンしています。

 稼働率は全国平均で89%。一番誇れるのは70~72%のリピーター率で、さらに毎年上がっています。一番ベーシックなシングルでも、「小でも大を兼ねる」がコンセプトの大きさのベッドを使用。スーパールームのベッドは幅1.5m×2m。子供さんはファミリー用のロフトベッドで上に寝て、3 名で7980円です。安全で清潔な上にぐっすり休め、実質的・合理的な家族旅行ができます。

 業績はここ10年、リーマン・ショック時も東日本大震災後も増収増益。年間売上高は200億円規模です。ホテル業界は伝統的産業で、ホテル75万室、旅館80万室、合計150~160万室になる成熟市場です。そのどこに挑戦した結果の業績かをお話します。

 私達はホテル事業以前、シングル・マンションを手がけていました。その経験を元に、ホテル業界の“非常識”に挑戦しようと考えたのです。従来のホテルの根本はホスピタリティとマンパワーで満足していました。私達はそこへITを徹底的にすり込んだのです。

 シングル・マンションを手がけてきたので、シングルの生態はわかっていました。シングルは自分の感性と時間で部屋を使います。また私達はローコスト・ハイクオリティな一人部屋を作る建築技術を持っていました。それに加えてIT化に取り組み、ソフトを一から作り上げたのです。それによるノー・キー、ノー・チェックアウトで特許を取り、スーパーホテルの経営に乗り出しました。

 その考え方の一つは、厚かましく「顧客満足度と生産性の二兎を追った」ことです。そのためには投資を惜しみませんでした。そしてノー・キーなどのITシステムにより、各店舗の生産性と、本部と店舗との間の生産性を上げたのです。二つめは「顧客満足度そのもの」です。たとえ初めて来ても常連客のような居心地のよさを感じられるように、顧客情報を一元化しました。たとえば、いつも青森のスーパーホテルを利用している方が東京の日本橋のスーパーホテルへ来ても、「○○さま、いつもの角部屋をお取りいたしました」「いつもの枕をご用意してあります」と言ってもらえれば、顧客満足度が上がります。

 三つめは「従業員のモチベーション」です。各店舗にいただいたおほめの言葉、お叱りの言葉はすべての店舗で共有します。さらに、何か困ったことがあれば、ITシステムの「スーパーウェア」に載せると、ほかの店舗から知恵が得られます。たとえば新潟の店舗にテントウムシが涌いて困ったときは、同じようなことを経験したことのある琵琶湖の店舗の店長からよい方法を教えてもらいました。スーパーホテルでは部屋に電話がなかったり、ベッドに脚がなかったりしますが、これらもすべて現場から生まれた知恵です。それによって生産性や顧客満足度がアップしました。

 スーパーホテルが挑戦したホテル業界の“非常識”の一つに「ベンチャー支配人制度」があります。ホテルでは10年程度の修業が普通ですが、スーパーホテルには研修を受けて夫婦で支配人を務める制度があります。一般的に100室のホテルの運営には8人のスタッフが必要とされますが、私達はマンションを運営していた経験から、二人の管理人でもできるはずだと考えました。お客様に感動を与え、リピーターになってもらうには、「あうん」の呼吸の夫婦は効率がいいのです。

 そして一番大切なものが“志”です。私がスーパーホテルをスタートしたのは54歳のとき。それ以前、24歳から家業の繊維商社で修業し、オイルショックやバブル崩壊を乗り越えてきました。その中でずっと考えてきたのは、何がビジネスマンとしての才能を磨くのかということです。いろいろな人の成功や失敗を見聞きして、納得したのは「それは運のよい人だ」ということでした。

 たとえばピンチのときにいいことを思いついて問題を解決し、力をもらえる人もいます。そういう運のいい人に共通するのは感性と人間力を磨いているということです。そうしたパワーを持つ人は、人への感謝を忘れず、かつ自分から動くことができます。私はそれを“自律型感動人間”と名づけ、人材の目標としています。そこでスーパーホテルでは、自分を磨いて独立を果たす人とともにWIN-WINの関係を築くことを大切にしています。

 最初は素人で、知識も技術もないかもしれません。だから経営をマニュアル化するのです。それがビジネスで成功する戦術です。こうした“志”と、知識や技術の“マニュアル化”、さらに感性と人間力を磨くことで、自然とお客様に感動を与えられるのです。

 またスーパーホテルは、21世紀の省資源・省エネを考え、ぐっすり休め“ロハスなホテル”もコンセプトにしています。これはロハスのヘルシーなライフスタイルによって健康持続型社会を目指すものです。そこで健康のためにCO2の削減に取り組んでいます。01年から省エネ設計を重視し、09年には30%の削減を達成しましたが、削減の幅は小さくなっていきます。そこでメーカーにはできなくてもサービス産業にできることを実現していきます。具体的にはお客様とともにエコ・ヒーティングなどに取り組み、環境省が創設した「エコ・ファースト制度」において、ホテル業界初のエコ・ファースト企業に認定されました。

 健康のためには睡眠も大切です。ホテルに10時間滞在したとして、その7~8割はベッドの周りで過ごすことになります。ぐっすり眠って健康になるために、大阪府立大学・地域連携研究機構健康科学との共同研究により、「ぐっすり研究所」を設立しました。ここでベッドのワイドさや固さ、枕の高さ、柔らかさなどを研究し、好みのものを選べるようにしました。また全国半数の店舗で、本物の天然温泉を導入したり、有機野菜やノンアレルギー・ドレッシング、減農薬米を使った健康朝食も提供したりしています。

 さらに、フロントのさわやかな接客も元気の源であり、感動のために一番大事なこと。そのために接客態度や身だしなみ、クリンネスなどを徹底的に行ないます。感動とは「ここまでやってくれるのか」と思ってもらえること。そのためには自分で考え、行動する自律型感動人間でなければならないのです。

 このようにスーパーホテルは「環(境)・(睡)眠・食」と「元気な人」を中心に、ロハスのコンセプトを深掘りしていきます。東京・八重洲にオープンしたのも環境への負荷が低く、健康を考えるホテルです。21世紀は省エネ・省資源のコンセプトも重要。それを目指して、感謝・感動の輪を広げていきます。

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