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【核心インタビュー】クラダシ社長 関藤竜也 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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「もったいない」を価値に変え、日本のフードロスゼロを目指す

「もったいない」を価値に変え、日本のフードロスゼロを目指す

(企業家倶楽部2021年5月号掲載)

「クラダシ」という会社をご存じだろうか。社会問題となっている日本のフードロス削減のため、社会貢献型プラットフォーム「KURADASHI」を世に送り出し、躍進する会社である。社長の関藤竜也は1.5次流通市場を創り、「もったいない」を価値に変えると意気込む。日本の食品ロスを危惧しながらも、誰も成し得なかった課題に果敢に挑む関藤社長に真意を伺った。
(聞き手: 本誌副編集長三浦千佳子)

問 日本の食品ロスについてお聞かせください。

関藤 毎年612トン廃棄されています。非可食部を入れると2500万トンという途方もない数字です。一人当たりの廃棄量は世界でもワーストです。廃棄コストは食品だけで2兆円もかかっているのです。

問 そこにメスを入れ、事業化するとは凄い勇気が要りましたね。

関藤 ワケあってお蔵入りになったものに、新しい付加価値をつけて世に送り出すのがKURADASHI(以下クラダシ)の仕事です。

■社会課題を放っておけない

問 食品ロスについては誰もがその問題に気づいていても、なかなか行動する人はいなかった。ようやく事業化する会社が出てきたと感謝あるのみです。創業の経緯を教えてください。

関藤 向かう壁が高いからこそ登る価値ありということでしょうか。起業に至るに2つの原体験があります。1つは大学4年のときに体験した1995年1月の阪神淡路大震災です。実家は豊中市で強い揺れを経験しました。すぐバックパックに家にあった支援物資を詰め、40㎞走って被災地に向かいました。現地は悲惨な状況で、自分ひとりではどうにもならない個人の限界や無力感を感じて家に帰りました。

問 素晴らしい行動ですね。それにしてもご両親は引き留めなかったのですか。

関藤 引き留めませんでした。「世の中に役に立つ人間になれ」と言われて育ちましたから。それより世の中に貢献したくとも続けるのが難しいと感じました。そして「社会の役に立つ仕事をしたい」と強く思いました。

 2つ目は総合商社に入り、中国に行ったときです。98年~2000年当時、中国が「世界の工場」と呼ばれ始めた頃で、中国製の製品が大量に作られていました。仕様書と少しでも違うと規格外ということで、大量に廃棄されるのを目の当たりにして、「これは大変な社会問題になるだろう」と強く感じました。この思いが今に繋がっています。社会課題を放っておけないという気持ちが強かったです。

問 環境問題や社会課題に関することは NPO法人が多いのですが、よく事業化されましたね。

関藤 ボランティアでは長続きしません。しっかり事業化しないと。商社を辞めて、コンサルティングの会社を立ち上げながら、何時の時点でのろしを上げるか見極めていました。

問 社会課題に対応するにはタイミングが重要ということですか。

関藤 世の中が環境問題に本気で注目し始め、SDGsが国連で採択される約1年前、2014年7月に会社を設立しました。クラダシのシステムは2015年2月からスタートしています。社会性、環境性、経済性の三位一体で、サステナブルを実現しようということです。メディアがかなり取り上げてくれたので励みになりました。

■1.5次流通市場を創る

問 時代がようやく追いついてきたということですね。こうした事業はある意味静脈的な仕事ですからご苦労も多かったのでは。

関藤 まずは100社の協力会社を集めることから始めました。日本の食品会社は決済条件が難しく苦労しました。通常、お蔵入りとして販路を失った商品の行方は3つ。クローズトマーケットで売るか、ディスカウントルートに流すか、廃棄するかのいずれかです。そこに新しい価値をつけて販売しようというのがクラダシです。プロパーマッケートが一次としたら、メルカリなどのユーザーマーケットが二次。我々クラダシはその間の1.5次流通市場を創ろうと。

問 今クラダシに登録している会社は何社ですか。会員はどのぐらい。

関藤 ほとんどが加工食品メーカーで850社です。会員は20万人になりました。

問 取り扱う商品の賞味期限はどれくらい?

関藤 お客様に届くときに賞味期限が切れていなければオーケーです。

問 メーカーにとっては大助かりですね。日本は「3分の1ルール」などの商慣習に基づく厳しい流通管理があり、まだ食べられるのに廃棄してしまうなど、もったいないことをしていますからね。

関藤 その通りです。食料自給率36%の日本が、食品ロス大国ではいけないと思いながらも誰も立ち上がらなかった。

問 クラダシが起業してくれたことには、皆が感謝していると思います。関藤社長の大きな志と事業については各方面からの受賞歴が物語っています。

関藤 おかげさまで第21回「グリーン購入大賞」農林水産大臣賞、2020年「食品ロス削減推進大賞」消費者庁長官賞、など数多くいただいています。大変励みになります。

■売り上げの3%を支援活動に寄付

問 それだけ世の中が御社の事業に期待しているということでしょう。会員はどんな方が多いのですか。

関藤 一番多いのは子育て世代の方です。40代が25%、50代が22%、30代が22%です。消費者にはわかりやすく、ものによっては95%引きなど、お財布にもエコというところが意識の高い人々に支持されています。クラダシは売り上げの3%を環境保護団体や社会福祉団体などに寄付しています。今は6分野に支援していますが、必ず領収書と活動内容を提出してもらっていますので透明性があります。

問 クラダシから買うとお得だし、同時に支援活動にも参加できるとは凄いシステムですね。

関藤 はい。参加意識に繋がりますし見える化しているのでわかりやすい。すでに累計で約5000万円以上を寄付させていただいています。

問 食品ロスの削減と社会貢献をセットにしているとは素晴らしい。売り上げの3%は大きいですね。御社の本気度がうかがえます。

■三温度帯5万点を扱う

問 取り扱い商品はどのぐらいですか。中でも一番の人気商品は何ですか。

関藤 今、5万点の商品を扱っていますが、一番人気はサラヤのロカボナッツです。コロナ禍で牛肉も売れています。オリンピックの延期や、学校給食が止まったりして商品が滞っていますので。今は冷凍食品も多いです。

問 常温だけでなくチルドも冷凍もと三温度帯を取り扱っているのですね。今やアパレルも大量廃棄が問題になっています。食品以外の業界からもオファーがきそうですね。

関藤 今は食品だけですが、食品会社さんが健康食品や化粧品をやっておられるので、それは取り扱っています。

問 ヘルシーやビューティ分野は単価が高いのでいいですね。ところでクラダシは独自の倉庫を備えているのですか。

関藤 委託ですがクラダシで独自の倉庫をもっています。メーカーさんの手間をできるだけ少なくしようと。メーカーは困りごとの情報提供と、クラダシへの出荷と請求書の発行だけです。商品の出戻りはありません。

■2030年までには食品ロスを半減

問 メーカーにとってはありがたい限りですね。今売り上げと利益はどのぐらいですか。

関藤 公表していませんが昨年対比2.5倍、利益は2期目から黒字化しています。粗利は1.5倍ベースです。

問 来期の目標について教えてください。

関藤 売り上げは200%、仕入れ会社を1.6倍1200社にしたいと思っています。

問 今、関藤社長が注力していることは。

関藤 2030年までに日本の食品ロスを半減させることを目標としています。それには産、官、学の協力が必要です。一緒になって取り組んでいかないと実現できません。

 2040年には地方に消滅可能都市がでてきます。そこで地方を支援しようと、社会貢献型インターンシップ「クラダシチャレンジ」を実施しています。参加学生の旅費は、「KURADASHI地方創生基金」から捻出しています。

問 食品ロスの削減だけでなく、学生インターンを地方に派遣し支援していると。

関藤 高齢化で未収穫の食品ロスが大量に出ているのが現状です。そこをなんとかお手伝いできないかと考えました。種子島の砂糖きびの収穫の手伝いや、ゆずやオリーブの収穫の手伝いなども実施しています。

問 今の若い方は社会貢献意識が高いので参加したい学生も多いと思います。

関藤 大学生だけでなく高校や中学生からも問い合わせがあります。授業も大事ですが、この活動に参加して現地で実を学んで欲しいです。

問 フードバンクを支援するなど、様々な活動を実現していると聞きます。

関藤 日本には全国にフードバンク団体が160、子供食堂はその10倍あります。フードバンクを有効活用するには、安全性、安定性、公平性の3つが担保できないと難しいのです。クラダシフードバンク基金をつくり、さまざまなところと連携、我々がハブとなってマッチングの手伝いをしています。先般は横浜市と提携しました。いいサーキュレーションモデルを作っていきたいと考えています。

■社会課題をビジネスの力で解決

問 クラダシの存在感がますます高まってきますね。株式上場についてはどうですか。

関藤 2023年度を目標にソーシャルIPO第一号を目指しています。社会的信用を高めることが目的です。SDGs を推進するにはきちんとビジネスにしないと回りません。社会課題をビジネスの力で解決していきたいと考えています。2030年には売上1000億円企業にしたいですね。そうすれば3%、30億円を世の中のために使えるので、さまざまなレスキューができます。

問 座右の銘は何ですか。

関藤 「一意専心」です。今の仕事が私の天職だと思っています。

問 今後の夢、抱負をお聞かせください。

関藤 クラダシがあることで世の中のひずみを是正し、ソーシャルグッドカンパニーであり続けたいと考えています。ビジネスモデルの特許を申請するか悩みましたが、申請しないと決めました。社会課題にシールドをかけるのはどうかと思ったからです。

問 意識の高い社員が集まって、クラダシイズムを浸透、チャレンジしていくのでしょうね。これほどまでに関藤社長を突き動かしているものは何ですか。

関藤 博愛でしょうか。クラダシは企業の病院のようなものです。メンバーそれぞれが持つ人の役に立ちたいという想い、「ソーシャルエンジン」を存分に発揮し、社会課題をビジネスの力で解決していきたいと考えています。

PROFILE 関藤竜也(せきとう・たつや)1971年大阪府生まれ。大学卒業後、大手総合商社に入社。食品から鉄鋼、アパレルまでさまざまな業種に関わる。戦略的コンサルティング会社取締役副社長を経て、2014 年株式会社グラウクス(現クラダシ)を設立。食品ロス問題を解決するため、社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」をスタート。事業者、消費者、社会貢献団体の「三方よし」で持続可能なシステムを構築するソーシャルグッドカンパニーとして注目され、行政との連携にも取り組んでいる


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