MAGAZINE マガジン

【編集長インタビュー】エニグモ/須田将啓代表

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

独自のビジネスで世界を変える

(企業家倶楽部2014年4月号掲載)

「生まれたからには世の中に爪痕を残したい」と語る須田将啓代表は、10年前博報堂を退社し同期である田中禎人氏とエニグモを立ち上げた。「やんちゃであれ」という独自の社風でフロンティアを切り拓き、未知のビジネスに挑む。目指すのは世界。エニグモを上場に導いたバイマの魅力と、今後の戦略とは何か。常にユーザーの満足度を第一に考えるエニグモを率いるリーダーが同社設立の経緯と、熱意を語った。(聞き手は本誌編集長 徳永健一)

「謎」の会社が新しい価値を提供する

問 エニグモとは面白い社名ですね。どのような経緯で名づけたのですか。

須田 エニグモと言う名前は謎とか神秘と言う意味のenigma(エニグマ)から取っていて、「謎」と思われるくらい新しいことをやりたい。また、新しいことを始めることで、「変な奴だ、謎な奴だ」と思われても志を持ってやり遂げたいという思いを込めて名づけました。

 目標は今まで無かった価値を生み出して世界をより良くしていくこと。他の会社を真似することや、効率化することより、今までになかった新しいサービスを生み出して、皆の生活をちょっとでも良くしていくようなことを目指している会社です。

 今のところはバイマと言うサービスを通して、海外の日本人には活躍の場を、国内の人には今まで出会えなかったファッションに出会える楽しみを提供しています。

 世の中を変える会社にしたいと考えています。エニグモがあることで少しでも世の中が変わっていき、良い方向に導いていけるような会社にしたいですね。

問 バイマではどのような価値を生み出したと思いますか。

須田 売り手と買い手の両方に楽しさを生み出したことで、それはC2Cで売り手と買い手をうまくマッチングさせることができたからこそ実現できたのだと思います。

 バイマでは成約率を高めるために、ターゲットと商品を絞りました。始めはあらゆる商品を出品することができ、昔だと日本の漁師が獲ったあさりや海外の美術館にしか売っていない手帳などもありましたが、今ではファッションのみで、ターゲットも女性に絞っています。そうしたことで売る側も何を出せばいいかの方向性が分かり、買う側も目的を持って利用するのでサービス全体がまわるようになります。そしてその結果として両者が満足できるサービスが生まれ、バイマ自体も成長してきたのでしょう。

問 ユーザーのメリットとはどのようなところにありますか。

須田 買い手の場合、メリットは3つあると思います。1つ目はとにかく品揃えが豊富なので、今まで買えなかったものや売切れてしまったものなど、自分が欲しいものを買えるというのが最大のメリットだと思います。2つ目は、中間コストがなくバイヤー同士の競争もあって価格が非常に適正であること。3つ目は、自分と合ったバイヤーと出会うことで自分の欲しいモノをバイヤー側から薦めてもらえることです。よくセンスのいい友達と買物に行って、彼が行く店でその人がいいなと思うものを買うと、それなりにオシャレになったりしますよね。自分に合ったものや気に入ったものを紹介してくれる存在としてバイヤーがいて、心地よく商品に出会える。

 そして、売り手となるバイヤーの場合、海外にいる中で日本から頼られていることが楽しいといった感想をいただきます。また、買い手の方と仲良くなれることも利益でしょう。例えば、ロンドンでウィリアム王子の結婚式があったときに、その記念切手を貼って商品を送ってあげたら買い手にとても喜ばれた、というお話を伺っています。その上、買物はストレス発散もできて、店舗からお得意様として扱われて気分が良かったことで病み付きになるなど、バイヤーにとってはお金以外での利益もあると思います。

感謝されることで世の中に爪痕を残す

問 なぜ博報堂を退社して起業しようと考えたのですか。

須田 大学生の頃私は教授になるか、社長になるかを悩んでいました。私は自分が生まれてきたからにはみんなによく感謝されることをして世のに爪痕を残したいと考えていたので、それをテクノロジーかビジネスで達成しようと考えていたからです。研究の成果で世の中を変えられるようなことに人生を掛けたり、ビジネスならソニーのウォークマンみたいに多くの人の生活を変えたり。最近ではウェアラブル端末にワクワクしています。当時私も全く着替えなくてもいい服やテレポーテーションを実現させる機械といったアイデアが頭にありました。

 そうした思いからビジネスとテクノロジーの両方の可能性を残したコンピュータの大学に行って、結果ビジネスの方を選びました。私自身はたとえ山奥でも世界中どこに居てもセンスさえあれば生きていけるという思いがあったので、博報堂に入社しましたが、最終的に起業し当時の同期だった田中と一緒にエニグモを始めました。

問 バイマのサービスを作ったときの苦労はありましたか。

須田 すべきことが膨大にあることでした。そもそも、個人に登録させるようなC2Cのサービスは特に新しく、10年前は会社も人も少なかった。ベンチャーで人もお金もない中で、私たちは企画や交渉などの必要な作業全てに携わり、努力することが大変でした。企画段階からのスタートなので、サービスの改善よりもやらなければならないことが山のようにありました。その努力があっても1、2万円とありに割に合わない売上げに、普通ならどこかで折れてしまうような状況でしたし、当時世の中で同じようなサービスを運営している人間があまり居なかったので、ノウハウがないことにも苦労しました。

 アイデアだけのときは積み木と一緒で、まず理想の形を部屋で組み立てても、一旦それを外に出したら風が吹いたり、人が来てぶつかったり、ボールが飛んで来て崩壊してしまいます。つまり、アイデアを支えながらつぎはぎし、なんとか家を造って、それをさらに大きくしていくのが正しいやり方で、それによって出来上がったのがバイマだなと思います。

問 その努力あって女性ユーザーからの支持も得たのですね。

須田 バイマは当時、私自身がハワイの高級ホテルのバスタオルやイタリアのスーツなどを手に入れるために使おうと思っていたくらいなので、女性ユーザーに人気が出たということは誤算でした。しかし、女性のファッションに対する思いは男性より強く、それが高価な商品が欲しいというニーズに繋がっていたので、結果的にバイマのC2Cのビジネスとマッチし実績にも結びついたのだと思います。

問 そうした成功までの原動力は何でしたか。

須田 大きな要因はついてきてくださるユーザーと、意地だったと思います。私達はもっと楽に儲ける方法もある中で、バイマをなんとか成立させたいという熱い思いでなんとか困難を乗り越えていきました。冷静な自分としては、「実現するには時間がかかるし、これよりもっと他のことに時間を割いたほうがいいんじゃないか」と考える。一方ではバイマという夢にかけてきた思いや、成立した時に世の中へ与える素晴らしさを感じていました。

 そうした冷静と情熱のあいだで揺れながら、それでも最終的には数は少ないけれどリピートしてくれているユーザーがいたことが支えになりました。ユーザーがいるなら価値があるはずで、これを続けていけばどこかで必ず流行するということは自分のなかで確信を持つことができました。

 当時の事業責任者とよく話していたのは、「もうブレイクスルーしたら別世界だ。今は地獄かもしれないけど、一旦浮上すれば、決して下がることは無い。だからそこまでは頑張ろうぜ」ということで、今でも良い思い出になっています。

「良い人」ではなく「良いヤツ」であれ

問 そうした社員の方々はどのようにして採用しているのですか。

須田 エニグモの社風と合っているかどうかを重要視しています。それを判断するために面接の時も多くの人と長く話して会社の本当の姿を知ってもらって、「それでもエニグモに来たいか」ということを大切にしたいと考えています。私自身も最終面接で全員と会うようにしてきました。

 エニグモには一緒に仕事したいと思える人材が集まっています。そのため「彼がそこまで言うなら、採算度外視でやってあげようよ」と思える雰囲気があります。もし誰かが何か提案をしたときに「それって意味ないんじゃないですか」という人がいたら、結果組織の中で新しいものが言いにくくなって、結果的に決定されたことしかできない後ろ向きな雰囲気ができてしまうと思うんです。

 ビジネスにおいてあまり感情を出してはならないというような話がありますが、私はそれとは正反対で、感情のほうが大事だと思っているんです。例えば、もし自分が嫌いな人だったらその人が上手く行っていても素直に受け入れられないものです。つまり、ビジネスにおいては感情のパワーはとても大きいので、採用のときも、「この人と一緒に働きたいか」とか、「この人が大変なミスをした時に許せるかな」ということはいつも心のなかで考えています。

問 カルチャーを表す時、「良いヤツ」という表現をされていましたね。

須田 まず、ユーザー目線に立っている人物です。エニグモの社員同士は時にケンカすることもあります。「これは本当にバイヤーのためになっているのか」とか「バイヤーをないがしろにしているんじゃないか」と。サービスを大切に思うからこそ、議論も活発です。

 あとは、単純にユーザーに喜んでもらうだけではなく、そこからどう利益を得るのかというところまで考えているというのが単なる「いい人」との違いだと思っています。ユーザーの要望を全て受け入れていたら利益も上がらず仕事も回らなくなるかもしれない。だからこそ、ユーザーに喜んでもらうことを再優先にしながらも、満足してお金を出してもらうためにどう工夫するかということを考えることが大切で、それができる人が「良いヤツ」だと思っています。

新しい市場に飛び込むエニグモ流

問 5年後に流通額1000億円とおっしゃってましたが具体的にはどのように推移していくのでしょうか。今後の展望についてお聞かせください。

須田 バイマが今伸びてきていますので、売上げは国内で800億円、海外では数100億円を見込んでいますが、結果が出るまで正確なことは分かりません。しかし1.5倍ずつ成長していけば、目標としては3年後に500億円、5年後に800億円に達すると予想しています。

問 バイマもサービスが充実してきましたね。今注力されている課題は何ですか。

須田 若い人が買えるものがそこまで多くないという問題です。若い女性向けのブランドは沢山あるのですが、比較的値段が高く、20代前半の女の子がいくつも買えるような商品がないのが実情ですので、若い女性でも手の届く小物を拡充して売り出していきたいと考えています。

 さらに、今後は今のメインターゲットの女性だけではなく男性も狙っていきたいと考えていて、今の1割から3割までユーザー数を増やすことが目標です。

問 エニグモの事業展開の特徴は何ですか。

須田 考えるより先に飛び込むことが大事だと思っています。つまり、フロンティアを見つけたら飛び込んで、その中であらゆる工夫をしながら進んでいくことで競争力を身に着けていき、そこでのシェアを取るということです。

 事業を起こすとき、全てが順風満帆に行くわけではなく、様々な課題が出てきます。それを一つひとつ皆で知恵を絞りながら解決していき、その結果が自然と誰もが「バイマに任せたいな」と言ってくれる競争力になっていくのだと考えています。

 今取り組んでいるバイマブックスというサービスも、今後電子書籍の市場は5年で花開き、現在と比べ5倍の市場規模になると言われています。アメリカでは30%が電子書籍だというのに日本ではまだ1~2%と留まっているということは、今後の伸び代が十分にあるということで、本当の意味でのフロンティアだと思います。そこにいいタイミングで飛び込んで、あちこちから話が来るようなポジションを獲得できた状況です。あとは課題をひたすら解決していくだけなので、非常に良い出だしだと思います。

問 バイマブックスも面白いサービスですね。

須田 「世界中のいいものを」というのがバイマのコンセプトです。世界中にある、普段なら出会えない良いものと出会えるようになるのがバイマの魅力だと思っています。それは本も一緒で、ファッションと同じように世界中に良質な本はたくさんあります。日本にも当然あります。しかしそれは普通に生きていても出会うことはできないかもしれない。それをバイマの場合バイヤーが、バイマブックスの場合は翻訳者が仲介してくれる。どちらのサービスも深い部分では同じだと思うので、バイマブックスと名づけました。

問 バイマブックスを始めようと思ったきっかけは。

須田 日々自分たちで考えながら見つけた問題を元に、それを解決できようなサービスを生み出そうというのが始まりです。

 通常、日本で売れた本でも海外での出版に通常1年半かかります。しかし私はそのサイクルはビジネス書には意味がないことだと考えてきました。例えばアベノミクスの本を1年後に訳されても誰も読みません。しかし、タイムリーに1カ月後に出たら皆が食いつくでしょう。つまり、タイムリーなものにニーズがある。そしてアマゾンでも売ってないようなものを売っているので、ここにしかないものを売る強みもあり、勝機はかなり感じています。3年で形になると思うので、売上げ10億円は行きたいですね。

 そしてバイマブックスの場合には、機械翻訳ではなく、人が翻訳するというところに価値があります。例えば、イスラム圏の子育てに関する本などはアラビア文字で読めなかったものが読めるようになります。また、翻訳者をレビューしていくサービスもあります。今まで翻訳者については出版社の中でのブラックボックスで、読者から直接アクセスできませんでしたが、バイマブックスではそうした翻訳者にスポットが当たるようになります。

 同じ本でもこの人に訳してもらったら面白いといった声も生まれると思いますし、ファッションに精通している女の子がファッション関係の翻訳に参加したら、熱がこもった翻訳ができると思います。翻訳者の方も、出版社に依存せずに活動することができるようになるため、プロの方もかなり登録してくれています。3月のオープン時にはまだ翻訳者に向けたページしかありませんが、今後はバイマと同様、バイマブックスでも今までクローズだったものがオープンマーケットになり、良い商品、良い情報に出会うことができるようになります。

バイマで世界に貢献する

問 バイマは今後どのように広がっていくのでしょうか。

須田 まずはバイマもバイマブックスもグローバルにサービスを成長させ、日本よりも海外のユーザーや取扱額を増やしていきたいと考えています。
 実はアメリカでのバイマは今のところ日本とは違う形で、誰でもバイヤーというバイマの世界観とは異なり、厳選されたバイヤーが厳選された商品を売るちょっとした良いブティックという状態ですが、韓国には日本のバイマと同じ仕組みで広めていきたいですね。

問 将来的にどんな会社にしていきたいですか。

須田 会社としては給料も高い会社にしたいと昔から思っていて、そのためには一人当たりの利益水準も高くないといけない。つまり、競争力のある人材に入ってもらって、その人材に手厚く報いるということです。そしてそこから残った利益で価値のあることを新たに生み出していく、ということが自分の目指している会社の姿です。

 そして、今はそろそろ違うことに利益を上手く配分して、成長の種を蒔いて行かねばならないと考えています。圧倒的に稼ぐだけではなく、新しい企業を創っていくことも大切で、稼いでいる会社は人類の進化に貢献すべきだと言うのが自分の信念です。

 例えばグーグルは自動走行車やグーグルグラスなど、人がワクワクするようなことを提供しています。エニグモもグーグルと同様に、地球上の大きな問題に関わるわけではなくても、そうした形で貢献したいと考えています。利益のある会社が研究開発を行い、人類の進化に繋がるようなものを生み出すことで人をワクワクさせるということが私にとって重要だと思います。

 今までのエニグモの延長線上では全く無いことに挑戦したいので、当然アイデアもチームも全くありませんし、もしかしたらドラえもんの道具みたいな荒唐無稽なものかもしれませんが、そうしたものを研究し生み出すことが目標です。今はまだその域にまで達していませんが、将来的にはもっと莫大な利益をだして、その利益で行なう投資によっても人々の生活を楽しくしていきたいと考えています。

プロフィール 

須田将啓(すだ・しょうけい)

1974年茨城県生まれ。慶應義塾大学院理工学研究科を修了後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局に配属され、幅広い領域のクライアントを担当。2004年、エニグモを設立。世界75 カ国のバイヤーからリアルタイムで欲しいものをお取り寄せできる、これまでにない新しいソーシャルショッピングサイト「BUYMA(バイマ)」を運営。2012年7月、東証マザーズ上場。

一覧を見る