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【編集長インタビュー】フリービット代表取締役社長CEO 石田宏樹氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

インターネットこそが人間らしいひらめきを生む

(企業家倶楽部2010年6月号掲載)

「Being The NET Frontier !(インターネットをひろげ社会に貢献する)」の理念を掲げるフリービット。石田宏樹社長は「インターネットはまだ始まったばかり。人間らしいひらめきを生むためにもさらなるイノベーションが必要だ」と熱く語る。インターネット第一世代としてフロンティアを切り開いてきた石田社長にインターネットのさらなる可能性と最新事情を聞く。              (聞き手は本誌編集長 徳永卓三)

インターネットはまだ始まったばかり

問 今インターネット革命は富士山の登山にたとえると何合目まで来ているという認識でしょうか。

石田 まだ始まったばかりだと思います。インターネットはアプリケーションによってどんどん発展していくので頂上が見えません。

 時代はアトム(原子)からビット(コンピュータが扱う情報の最小単位)に進化してきました。これまでのアトムの世界のインフラは道路であるのに対し、現在、そしてこれからのビットの世界のインフラはインターネットです。アトムの時代は、単に人が通るだけの道路が車輪が生まれて自動車が走るようになり、そこから自動車でビジネスをする人が出てきて発展を続けました。それと同じで、インターネットはこれから適切に運用されていけば、まだ私たちが計り知れないほどの可能性を秘めていると思います。

問 道路としてのインターネットは出来つつあると考えていいのでしょうか。

石田 はい。しかし、インターネットではまだ道路(インフラ)自体を意識しなくてはならない時代です。今、実際に道路で車を運転する人は、どのくらいの速度に道路が耐えられるかなど、いちいち考えていません。しかし、例えば携帯電話でインターネットを見る時、「これは速度が遅い」「容量が大きい」などをまだ人間側が認識してインフラを使っているような状況です。ですからまだ本当に始まったばかりだと思います。

問 すると、最終的には人間がインターネットを使いながら「使っている」という意識をしなくなるということでしょうか。

石田 インターネットという言葉自体がもう使われなくなるはずです。今インターネットをやるためにはわざわざプロバイダーに入ったり様々な手続きが必要ですが、インターネット上で何ができるかということだけにもっと注目が集まるでしょう。

 例えば、分かりやすいモデルがアマゾンのキンドル(電子書籍リーダー端末)です。キンドルは全くネットワーク契約などが要らず、買ってきたら、そのまま3G回線を使って電子書籍をダウンロードできる。どこまで読んだかなどの情報は全てサーバーに残り、機器を越えて今度はパソコンで読もうと思えば、しっかり途中から読むことができます。「本を読む」という行為だけに集中できるのです。

時間節約型イノベーションが必要

問 石田さんの頭の中では10~20年後のネット社会はどのようなイメージでしょうか。

石田 フィジカル(物理的)な面と人間の知性の面という二つの切り口があり、それぞれにインターネットが貢献できると思います。フィジカルな面からすると、圧倒的に時間の節約が出来るようになるはずです。イノベーションによって時間の使い方が変わったときに、初めて人間の生活は変わってきます。

 例えば、歴史学者のアルビン・トフラーの「三つの波」説によると、第一革命で農業革命が起こったときに、人間が同じところで同じモノを再生産できるようになったので、移動が必要なくなりました。それによって圧倒的に時間は搾り出され、お祭りなど文化がそれまでとは違う意味の時間消費として生まれてきたのです。産業革命も同じように再生産が可能になって、情報革命もまたそうなるはずです。

 このことが非常に分かりやすいのは、松下電器産業の例だと思っています。松下電器の昔あったナショナルというブランドは時間節約型商品でした。洗濯機や掃除機で主婦の時間を搾り出したわけです。一方パナソニックの商品は、搾り出した時間を音楽などより豊かな生活のために使う。ソニーが伸びた理由も、実は日立や東芝などが一生懸命節約した時間を別のところに使う商品を出したことにあると思います。結局、消費というのは24時間のうち何時間取れるかということですので、やはり時間節約型商品にインターネットがどこまで貢献できるかが一つのポイントだと思います。

 しかし、収益モデルとして稼ぎやすいのは時間消費型の商品やサービスですので、もともとイノベーションの源泉である時間節約型のインターネット事業をやっている人たちは非常に少ないです。例えば、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でゲームを展開するというのは時間消費型のもので、結局人間の時間がどんどん足りなくなって、本当は大切な本を読んだり、「何で人間は生きているのだろう」と考えたり、そういう人間にしか出来ない時間が少なくなってきていると感じます。

問 すると、時間を節約するビジネスでインターネットのイノベーションがもっと起こらなければいけないということですね。

石田 その通りです。テレビから生まれた広告モデルがそのままインターネットに入ってきてしまいましたので、「自分の作ったイノベーションで対価を取る」というそもそもの形が崩れ始めているのです。やはり、時間節約型に対してイノベーションを集中するような企業がもう一度生まれれば、空いた時間をどう使おうかというまた別のイノベーションも出てくるはずです。

問 インターネットによる時間節約の例をいくつか挙げるとすればどのようなものがありますか。

石田 分かりやすいところでいえば、スカイプの出現によってテレビ会議が移動なしでできるようになりました。先日ソフトバンクの孫正義社長が投資されたライブ動画共有サイトUstream(ユーストリーム)にしてもiPhoneから直接放送が出来るようになって、iPhoneひとつあれば中国からでも全社員に対して話しかけることができます。

 今後は、センサーでリアルタイムの情報を捉えられるようになってくるでしょう。例えば、カーナビが提供する道路の混雑状況も今はリアルタイムではありませんが、リアルタイムで見られるようになれば、それだけで渋滞が回避され、様々なコントロールができるようになると思います。気象情報も同じです。リアルタイムの情報を膨大の数のセンサーで捉えられるようになると、「フラミンゴが飛んだら気象が変わる」などといったことの真相も解明できるはずです。

インターネットが ひらめきを生む

問 もう一つの人間の知性という面でインターネットはどのように貢献するのでしょうか。

石田 人間がイノベーションを起こす時に一番大切なものはひらめきです。ですから、ひらめきを生むための膨大なデータベースや情報源としてのインターネットはとても有効だと思います。ただ、社会がもっと人間のひらめきを尊重するような風潮にならなければいけません。フリービットの人事評価システムをつくるとき出井伸之さんに頂いた助言は非常に興味深いものでした。

「評価基準は3つしかない。一般スタッフに対しては上司が間違った時部下は必然的に間違ったことになってしまうため、結果ではなくby アクション(行動)で評価する。本部長クラスになって初めてby リザルト(結果)で評価する。では経営者は何で評価するかというと、byひらめきだ」と。経営者は常に次のビジョンを持たなければいけないので、ひらめきに多くの時間を費やさなくてはいけないと言われたときは、本当にその通りだと思いました。

問 インターネットをどのように使うとひらめきが出てくるのでしょうか。

石田 ウェブはリンクで繋がっていますから、興味のある分野をずっと深く追求することができます。その複合情報が集まって何かきっかけを得た時に、気づきが生まれることはとても多いです。そして気づきを本当の意味で自分のものにするためにもインターネットは有効です。

 例えば、授業を受けたり本を読んだりしたときに8割の人は同じものに気がつきますが、気づいた後にどうするかで差が出てきます。そのときにそれを言語化できるかどうかがとても重要になってくるのです。学校の場合、黒板をそのまま書き写す人と自分の言葉で噛み砕いて書く人の間とでは大きな差になります。そして、最終的に重要なのは言語化したものを関連付けることができるかどうかです。これが今度新しい気づきに回ってくる。非常に人間の成長が早くなるのです。

 実はこのサイクルはまさにブログ(日々更新される日記的なWebサイトの総称)です。何か見たことに気づき、気づいたことを言語化し、関連付けがコメントとしてついてくるのです。それに対してトラックバック(ある他人のブログの記事に自身のブログへのリンクを作成する機能)が来て、自分が関連付けられなくても凄い勢いで関連付けが行われていくのです。その視点から次の学びが出てきます。最近ではツイッターが人気ですが、ツイッターはブログよりもっと短くて億単位でURL(インターネットにおける情報の「住所」)をもつわけですから、とてつもない関連付けが可能です。そういった意味からすると今のインターネットのツールは新しい気づきに出会うのに非常に適していると思います。

問 ツイッターが出ることによってブログは廃るのでしょうか、あるいは一緒に拡大していくのでしょうか。

石田 今後ツイッターとブログはどうなって行くかというと、まず書くのが楽だからツイッターのような短いものが第一ベースになる可能性は大きいでしょう。そして、それをまとめた文章がブログなどで書かれるようになると思います。

 もともとはホームページや雑誌など様々な媒体でものを書いていたのが、もっと気楽に書けるということでブログを多くの人が使うようになりました。しかし、文章を書く力が優れた方というのはなかなかいなくて、ブログの長さでも恥ずかしい、特に他言語で書くときに恥ずかしいという方がいます。その意味で、140文字しか書けないと決めてくれているツイッターは書きやすく、英語をはじめ他言語でも非常にやりやすいのです。

 もう一つブログが画期的だったのは、一つの記事がURLを持つという点です。ページ単位ではなく、記事単位でリンクを張られるので検索されやすい。ツイッターの場合、今度はつぶやき一つに対して一つのURLを持つようになってくるのです。

 また、ツイッターの場合は匿名性の中でも一つのアカウント(利用する際に必要なID)になっているので、周りの人達からのコメントが分かりやすいです。これがツイッターをやっている人たちにとってはわくわくします。以前は楽天の三木谷会長は、私がブログをやっているのを話すと「よくそんなに自分のことを書けるよね」と言っていましたが、今ではツイッターをばりばりやられています。それはやはりレスポンスの面白さということと、責任あるアカウントからコメントが来るという点が大きいと思います。

問 石田社長は「これからはモノ同士が自立的にコミュニケーションして、世の中を変える」ということを言われていますが、これは具体的にはどういうことでしょうか。

石田 人間が介在しないところでモノ同士がコミュニケーションを取り、価値を作り出すと、人間の限界を超えた発展が可能になります。例えば、ピーター・ドラッカーも「結局人口が増えなければ経済成長は難しい」とよく言われていました。おそらくそれは24時間で人間が消費できる量が決められているからだと思います。しかし、知識や知能を持ったコンピューター同士が自動的に何かを検索して対価を決め、価値の交換をやり始めると人口を超えた形の経済発展や機器の発展が可能になります。

 例えば、コンピューターが環境汚染について考えて解決する。コンピューターは自分でずっと考えるのではなく、どこかで公開されているセンサーと連携して、水質の情報や空気の情報を取ってきてそれを分析します。そうなってくると、人間が総当りでやっても絶対出来ないような問題を解決できるはずです。

問 なるほど。すると日本は人口減が経済停滞の大きな理由だと思いますが、それを避けられる可能性も出てくるということですね。

石田 そこが一つのヒントだと思います。ロボットなど機器同士が連携して、人間が寝てる間でも動き続けてくれる。コンピューターは、処理能力は24カ月で倍になりますから、24時間で出来ていたものが12時間でできるようになって、すると後でその12時間でもっと別のことができるようになります。ですから、インターネットで本当に狙わなくてはならないのはこういうところで、メディアならともかく他の産業がウェブの上でクリック率やページビューがどうだとか言っている場合ではありません。人間にしかできないひらめきを生むために人間はインターネットを使わなければいけないのです。

クラウドは中間事業者を排除する

問 クラウドコンピューティングはビジネス界にはどんな影響があるのか、その可能性について石田社長のご見解をお聞きしたいと思います。

石田 クラウドコンピューティングの究極的なメリットは、中間事業者が必要なくなることです。テクノロジーの過渡期には中間事業者が必ず仲介役を果たしていました。

 例えば一般の人が運転免許を持っていなかった時代は、全て専門職の運転手が車を運転していましたが、車側のイノベーションによってマニュアルが要らなくなり、しだいに中間事業者がなくなって、自分で運転できるようになる。テレビ番組を作るにしても、昔は照明さんやカメラマンさん、台本を書く人と全て分業でしたが、今では小型ビデオカメラなどで自分一人で撮影して編集し、ユーチューブ(動画投稿サイト)などで発表できるようになりました。

 クラウドコンピューティングも同じようなことです。それまでコンピューターの信頼性を保証したり、それを設置したりすることは非常に難しかったので中間事業者がいたわけです。しかし、フリービットの場合は、今度データセンターを仮想化しましたので、本当にデータセンターやハードウェアを全く意識せずに、利用可能になってくるのです。こうしてコンピューターリソースを持っている人たちと、企業や個人が直接繋がるような形になっています。

iPhone自体をサーバーに

問 石田社長のお手元にiPhoneがございますが、フリービットのサーバーズマンというアプリケーションを入れると、このiPhone1台1台がサーバーになって、全世界つなげると大変なことが出来るそうですね。

石田 サーバーズマンを入れるとiPhone自身がサーバーになりますので、みんなiPhoneにアクセスできます。例えば、今「あああ」とiPhoneに話しかけます。そこにスタッフの誰かがアクセスすると、この声が聞けるのです。

問 つまり、サーバーズマンがあれば、ユーストリームがなくても自分達が報道局になれるということですか。

石田 そうです。今はまだiPhoneのライセンスがなかなか取れないのでユーストリームのように動画が放送できるようなことはやっていませんが、音声は放送できます。サーバーズマンはiPhoneだけでなく、これから様々な家電に入って行きます。ビデオカメラなど家電製品自体が放送局になるのです。

問 iPhoneのユーザー数は非常に伸びていますが、石田さんがご覧になってiPhoneはやはり革命的な商品でしょうか。

石田 ユーザーが使いやすい、そしてハードでなくて全てソフトに機能を寄せてしまったこと、さらにアップストアというディストリビューション(ソフトウェアの配布パッケージ)まで統一させたこと。この3つがiPhoneのすごいところだと思います。物理的なボタンは一つしかなく、それ以外のものは、全てソフトで論理化できるわけです。今まではボタンはすでに決まっていました。それを超えた感じで丸いボタンを作っても良いし、さすっても良い。ほぼ全てのプログラムがソフトの価値によってつくられているところがすごいところだと思います。

問 グーグルなど色んなところが追随してきてiPhoneのようなものをつくり、ドコモやKDDIでも売るようになるのでしょうか。

石田 iPhoneの場合、メーカー側からすると楽なのは、皆が同じものを持っているということです。例えば、ソニーのPSP(プレイステーション・ポータブル)は全員同じ大きさの画面のハードウェアを持っていますから、プログラムは作りやすい。

 一方、アンドロイドの場合は全てばらばらで同じように動かないのです。ソニーが今度出したアンドロイド端末のXperia にもサーバーズマンはアプリとして紹介されていますが、やはりXperiaはXperiaの画面サイズがあって他のものと違うので、現時点ではつくりにくいところもあります。

問 今後フリービットはどのようにインターネットの発展に貢献していこうとお考えですか。

石田 今まではウェブがインターネットを広げてきました。しかし、膨大な電力を膨大なデータセンターに集めて動かしているウェブはクモの巣のように複雑です。これを我々の持つ技術によって、絹のような滑らかで丁寧なインターネットの世界(Web to SiLK)を作って行きたい思います。

■ p r o f i l e

石田宏樹(いしだ あつき)

1972年佐賀県生まれ。98年3月慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に、有限会社リセットを設立、取締役に就任。同年10月、三菱電機株式会社よりISP立ち上げの依頼を受け、株式会社ドリーム・トレイン・インターネット( DTI)設立に参画、99 年4月には同社最高戦略責任者に就任し、「顧客満足度No.1プロバイダー」に育て上げた。2000 年5月、株式会社フリービット・ドットコム(現フリービット株式会社)を設立。2007年10月、DTI を買収、2008 年9月に完全子会社化した。2007年3月20日東証マザーズ上場。第11回企業家賞受賞。

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