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【私の信条】良品計画前会長 松井忠三

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

計画5%、実行95%

計画5%、実行95%

(企業家倶楽部2016年1・2月合併号掲載)


 私が2001年に社長に就任した際、良品計画は業績悪化にあえいでいました。その根本的な原因は何か。最初のリストラを終えた後、私は深く考えました。辿り着いた答えは、「自分たちが育ったセゾングループの企業文化・社風」です。かつてグループの一員だった良品計画にも、その文化が根付いていました。けれど、業績改善のためには、それを変えなければなりません。「セゾンの常識は当社の非常識」。これは、私が社員の意識を変えるために使った言葉です。

 実際、私も社長になってから、人が育たない社風が染み付いていると痛感しました。かつて、私が作った海外留学の制度を利用してMBAを取った社員がいました。彼は当然、その知識を活かして働きたいわけです。しかし会社に戻って来ると、店舗の課長職に戻ってしまった。これでは向こうで学んだ成果を発揮できません。その結果、海外留学をした人たちは皆辞めていきました。制度だけ作っても、それを活かせる文化や社風が無かったのです。このような事例が数多くありました。

 計画は確かに重要です。しかし、現場で役に立たなければ、実行力の無い会社になってしまう。何とかしようと思った私は、ファッションセンターしまむらの藤原秀次郎社長(当時)とお会いしました。彼の会社では社員が育っていたからです。私は、しまむらと良品計画で何が違うのか不思議でなりませんでした。藤原さんは社員に要求する仕事のレベルが高かったので真似してみましたが、効果は得られません。人が育つ要因はそこにはなかったのです。そうして答えが見つからないまま時が経ち、キヤノン電子の工場を見学した時のことです。一人の社員がある発見をしました。キヤノン電子の設計部門では、たった一冊の業務基準書によって仕事が効率良く回っていたのです。

「人が育つ秘密はこれだ」と私はようやく気が付きました。そこで、我々も業務基準書を作り、それを使って社員を育て始めます。すると、OJT(日常業務を通じた従業員教育)の仕方が変わったのです。社員が業務で困った際、すぐに手を打てるようになりました。マニュアルを見れば、理解出来ていない箇所が明確に分かるからです。そのお陰で、各人は自分でも勉強できるし、上司もその部分を教えれば良い。この取り組みの成果は、明らかな形で現れました。業績の向上です。このような仕組みを作って、ようやく人が育っていると実感できる組織になったのです。

 会長に就任してからも、人材育成委員会の委員として、課長・部長・役員クラスの意識改革に努めました。部下を育てるために何をすべきかを彼らに指示する。ただ、口で言うだけでは、彼らは忙しさを理由に後回しにします。そこで、部下の育成計画を提出してもらうだけでなく、2カ月に1回などの間隔で進捗状況を報告する仕組みにしました。デッドラインを設けたのです。

さらに、550人もの本社の社員が、報告内容をパソコンで見られるようにしました。実行したかどうかは一目瞭然。そうなると、課題に取り組まざるを得ない。こうして、確実に行動する実行力が企業全体に付いてきました。戦略が二流でも実行力が一流の会社は、戦略が一流でも実行力が二流の会社よりも圧倒的に強い。「計画5%、実行95%」が私のモットー。企業で一番大事なのは実行力なのです。

 実行力のある企業にするには、社風や企業文化を変える必要がありました。そのためには仕組みを変えることが重要です。その際は、他社の仕組みを真似するだけでは駄目です。自社に合ったものを採用し、その後も日々改善することでシステムに血を通わせる。それを実行できたからこそ、良品計画はV字回復することができたのです。

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