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【編集長インタビュー】スーパーホテル会長山本梁介

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

「自律型感動人間」を育て地域ナンバーワンを目指す

(企業家倶楽部2012年4月号掲載)

群雄割拠といわれるビジネスホテル業界において急成長を続けるスーパーホテル。「ぐっすり眠れる、LOHASホテル」を旗印に、限りなく安眠にこだわり、健康と環境を重視し、ロハスを追求することでリピーターを拡大してきた。その総指揮を執る山本梁介会長が名付けた「自律型感動人間」。その人材の育成術と、彼らへ注ぐ厳しくも温かいまなざし、そして今後の戦略について、熱く語る。

利用客が喜ぶ事を考え続けリピーターを育てる

問 東日本大震災の影響もあり、景気ももう一つといった状況ですが、ビジネスホテル業界の現状はいかがでか。

山本 震災以降、ビジネスホテルもシティホテルも厳しい状況ですが、スーパーホテルは2011年6月頃から前年並みに戻りました。他のホテルも11 月頃には前年並みになったようです。し19 ・ 企業家倶楽部 2012年4月号かし稼働率は戻っても平均単価は15%ほど低いですね。今、ビジネスホテル業界はチェーンホテルが強くなり、一方、1〜3か所程度の規模のホテルは動員数や集客、サービスレベルや教育の面で厳しいようです。

問 現在のビジネスホテル業界の市場規模はどれくらいですか。

山本 客室数はホテル業界全体で80万室。平均単価はビジネスホテルで6000から7000円、ホテル全体では平均1万2000〜1万3000円といったところでしょうか。

問 ホテル業界は景気の影響をどのように受けるのでしょうか。

山本 シティホテルは宴会や飲食の比重が大きいので、まともに景気の影響を受けます。一方、ビジネスホテル不景気の影響をもろに厳しく受けることはありませんが、営業はかけていかなければなりません。

問 ライバルはどのホテルとお考えですか。

山本 先頃の「週刊現代」の「10年後も絶対に生き残っている会社」というランキングでは1位が帝国ホテルで7点、2位がスーパーホテルで6点。ホテルオークラやホテルニューオータニも2点〜3点でした。ビジネスホテルではライバルを意識するというよりも、人材育成などで他に先駆けて特色を出し、各地域で一番泊まりたい地域顧客満足度ナンバーワンを目指します。

問 一泊4980円という低料金をずっと続けておられます。

山本 そうです。消費税は上がっているので、むしろ安くなったくらいですね。

問 ノーキー、ノーチェックアウトなど完全自動化の一方、対面でのおもてなしはどのような点がリピーターを作る秘訣でしょうか。

山本 身だしなみや接客、清掃、朝食など特にお客様の不満が生まれる部分での不満要因を取り去るということです。客室に置いてあるアンケートを1週おきに集計して社内で一元化し、ランキングにしています。自分の勤めるホテルが何位に位置するかわかれば、反省材料にして改善することができるのです。ワースト20以下のホテルへは本からゴールドチームが赴いて、相談・底上げを図ります。 

 ただし不満を取り去っただけではだめで、満足へつなげなければなりません。そこで顧客が一番何を喜ぶかという感動の座標軸を考えます。するとそれは「自分のためにここまで考え、ここまでやってくれるのか」ということだとわかります。これはマニュアルや集団研修では教えられない各人の感性や人間性の部分。そこを磨く「自律型感動人間」の育成に全精力の半分以上を割いてきました。

問 実際にどのような教育をされていますか。

山本 感性を磨くということは「第六感」を磨くということです。この第六感を常に磨いている人を作ることと、常に仕事に夢を持ってもらうことを大切にしています。仕事で自分自身を磨くことで、個人的な夢をかなえられたら一番いいでしょう。たとえば将来はいいお嫁さんになりたい女性が仕事上で身だしなみを整え、素敵な笑顔を身につけたら、素晴らしい男性とめぐり会えるかもしれません。そんな仕事と夢のウィンウィンが理想的です。

 具体的な人材育成ツールとしては自分の年間の目標や個人としての夢を明確に書く「チャレンジシート」と、毎日の計画をどう自分の夢に近づけているかを書く「ランクアップノート」を活用しています。ただ、これらは上司と部下が徹底的に話し合う「話し込み」のための道具です。そのほかにもちろん利益目標も掲げますし、「成功しつづける」「人間的成長を求めつづける」などの「プロとして必要な13の習慣」も徹底させています。

安眠のためにあらゆる努力を惜しまない

問 「ベンチャー支配人」という制度も特長的です。

山本 ホテル1棟を支配人夫婦に任せて管理してもらう方法です。経営ノウハウを蓄積しながら将来独立する軍資金を得ようという人は、自律型感動人間に近いですよね。そういう人たちに支配人をしてもらうわけです。現在、全102店舗のうち90店舗がベンチャー支配人で、直営は6店舗。建物を買って経営を行なうFCも6店舗あります。

問 ベンチャー支配人と直営の違いは何なのでしょうか。

山本 ベンチャー支配人はFCをするにはお金がないという人に運営を任せるものです。自分で経営を行なうとハイリスク・ハイリターンですが、ベンチャー支配人はミドルリスク・ミドルリターン。ペナルティはありませんが、契約期間の4年が過ぎたら次の人へポジションを渡すことになります。またサラリーマンと違って自由はないし、寝ている時も経営を考えなければなりません。

 具体的には面接で選び、適正テストを行ない、研修を経て運営へ送り出します。このベンチャー支配人にはライセンス制度があります。1〜5階級の5からスタートし、4年間の中で経営者として認められる2〜3階級を取ってほしいと思っています。早い人なら2年ほどですが、この階級になると12〜17万円のインセンティブがつくので軍資金がたまり、経営能力も身につくのです。その後は自分で店をやる人、本部に入る人もいれば、ハイリスク・ハイリターンのプチFCになる人もいます。

問 ところでスーパーホテルの特長といえば、やはり快眠、安眠ですね。

山本 大阪府立大学との共同研究で「ぐっすり研究所」という睡眠の研究所も立ち上げ、室音や照明などの標準を決めて設計・施工しています。客室で一番問題になるのは廊下から入っくる音。そこで扉の周りにはゴムパッキンを貼って防音効果を高めています。これで客室には40デシベル以上の音は入ってこないようになりました。これは図書館レベルの静かさです。

問 枕も好みで選べるようにされています。

山本 固さと高さなどの好みによって7種類から選ぶことができます。これは高い満足度につながりますね。照明も大阪府立大との研究で工夫しました。ロビーはとても明るく、廊下は少し明るく、一方、部屋は少し暗めにしてあります。書き物などをするために明かりがほしい人にはライトを貸し出します。  
 また快眠のために研究開発した“ぐっすりパジャマ”や特別なスリッパもあります。睡眠で大切なのは長さでなく深さです。たとえ短くても深く眠れれば、疲労が取れます。いかに深い眠りを得るかといえば、血の循環をよくすることが必要なのですね。そこで天然鉱石を仕込むことで微弱エネルギーが発生し、それによって血の循環を促すスリッパを開発したのです。

問 驚くほどのこだわりですね。

山本 部屋の内装もシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒドなどが出ないような材料を使っています。たとえば天井は最上級の北海道稚内の珪藻土です。これは部屋の湿度を一定に保ってくれる上、臭いの原因物質を吸ってくれる効果もあります。また壁紙も、天然の草を素材としたケナフクロスを使っています。つまり自然で健康な環境の中で眠れるわけです。

健康とロハスを追求

問 健康といえば、水にもこだわりを持っておられます。

山本 浅草でオープンしたホテルから水に着目し、大阪府立大とのコラボで「健康イオン水」を開発しました。これはH2Oを低分子化させた水で吸収がいい上、免疫力アップや抗酸化の効果があります。その水を部屋で出そうということで、水道にそのシステムを取りつけました。この水なら女性の肌や髪も保湿効果でしっとりするし、男性もうまい水割りが飲める。寝る前にこの水を飲むと血の循環がよくなるので、ぐっすり眠ることもできます。まず浅草1店舗で試し、好評ならばもっと展開していく予定です。

問 不眠症の人もスーパーホテルに泊まったら、よく眠れそうですね。

山本 事実、そうした結果が出ています。臨床実験でも、他のシティホテルよりも良い睡眠が取れるのです。自宅と比べると同じくらいでしょうか。そもそもホテルの部屋のベッドに横になり、電灯を消すと、感覚はベッドに接している背中や首、腰、脚などだけになります。そこでベッドや枕はいい感覚のものにこだわっているわけです。

 また冷蔵庫の音も気になるものですから、インバーター静音式の冷蔵庫を取り入れています。スーパーホテルの部屋はシティホテルよりは小さく、ローコストですが、シティホテルと同じ寝心地を追求しているのです。

問 奈良の「天然温泉スーパーホテルLOHAS・JR奈良駅」など、ロハスも追求しておられます。

山本 こちらは若干料金高めで広めの部屋になっています。それ以外でも、新しい店舗は部屋は広くはありませんが、すべて同じです。かつてのホテルリンクスをロハスに改良しているということです。

問 「日本経営品質賞」も受賞されましたね。

山本 2009年度に受賞しました。これは顧客目線で世界に通じる経営をしている企業に贈られる賞です。約20年で30社が受賞していますが、関西ではパナソニックとスーパーホテルだけです。元はアメリカで生まれた賞で、ホテルとしてはリッツ・カールトンが本国で受賞しています。リッツといえば最高のサービス。それなら当社も挑戦しようと考え、5年かかって受賞することができました。

問 ところで2012年3月期の予想はどのくらいですか。

山本 予想では売上190億円くらい、経常利益は15から16億円ほどです。

問 上場はいかがお考えですか。

山本 売上が50から60億円の頃、証券会社からよく電話が来ましたね(笑)。いろいろ考えてはいますが、当社は無借金。上場への社内体制をきちんとし、公認会計士の監査を受けながら考えています。

問 海外進出についてはいかがでしょうか。

山本 いずれは、と考えていますが、あわててはいません。今は韓国を中心とした観光客の日本観光に大きな希望を持っており、東京、大阪、博多など大空港がある国内各地に店舗を増やしていきます。東京八重洲の新店舗も2月着工です。330室ほどで料金は1万円以上になるでしょう。

 当社のシステムは外国人好みでもありますが、逆に新興国ではこのビジネスモデルはあまりヒットしません。たとえ人件費が高くても、激戦区のほうが真価を発揮するのです。だからあわてて海外進出することはありません。また社内教育の問題もあります。当社はいわゆる偏差値の高い人よりも、心のあったかい人を集めてやっている会社です。最近は中国人や韓国人の新卒者もいますよ。つまり海外でもビジネスモデルのみで勝負することはできないのです。

組織も社員も幸せに

問 大空港のある土地への出店を目指すとのことですが、今後の国内の出店計画を教えてください。

山本 今までは関西が中心でしたが、これからは東日本、首都圏が中心になります。現在は全102店舗ですが、当面の計画では1年で10店増やしていき、約1年で直営120店、FC80店が目標です。ただし量よりもじっくりと、地域ナンバーワンを取っていきますよ。またサポートセンターも力をけてきたので、よりFC展開もしていきます。今後はFC中心でプラス、ベンチャー支配人かFC支配人になる形になっていくでしょう。

問 山本会長の夢は何でしょうか。

山本 今までなかったホテルを作り上げることですね。今のロハスというコンセプトのホテルで、健康と環境を大事に挑戦していきます。

問 ということは温泉も重要になりますね。

山本 私自身、小さい頃から温泉が好きなのですが、温泉に入るとよく眠れますよね。八重洲の新店舗には炭酸泉の温泉を入れます。炭酸泉は血の循環をよくしてくれますが、熱くすると炭酸が抜けてしまうという弱点があります。そこで水に炭酸を溶けこませ、天然と人工のいいとこ取りを実現しました。

問 山本会長はじつに好奇心旺盛とうかがっています。

山本 そうですね。好奇心のおかげでレストランでもディスコでも新しいところに出かけるのが好きで、どこへ行っても一番最年長なのに、最前列で見ています(笑)。

問 ところで山本会長は「運のいい人とは感性があり、人間性がある人」ともおっしゃっていますね。

山本 私は従業員自身にも人生の成功者になってほしいと考えています。成功した人、失敗した人、いろいろな人に話を聞いていて気づいたのですが、運のいい人とは究極的にはやはり先ほどお話した第六感の感性や、人間性という潜在能力を持っている人なのです。組織が幸せになるためには、社員に運のいい人になってもらい、幸せになってもらわなくてはなりません。そのためもり、「自律型感動人間」ということを人材育成の根本にしているわけです。これからも社員も組織も、共に幸せに発展していきたいと願っています。

P r o f i l e
山本 梁介(やまもと・りょうすけ) 1942 年大阪府生まれ。64 年慶応義塾大学経済学部卒業後、蝶理に入社。67年に家業である繊維商社に入社。1996 年福岡にスーパーホテル1号店を開業し、1997年より現職。

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