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【緑の地平vol.37】 三橋規宏 千葉商科大学名誉教授

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

米の温暖化対策、大幅後退懸念 ~新大統領の登場で~

(企業家倶楽部2017年8月号掲載)

 農業再生の切り札として期待

 農業再生の切り札として「ソーラーシェアリング」が注目されている。ソーラーシェアリングとは、太陽光(ソーラー)を発電と農業の両方で分け合う(シェアする)新しい営農システムのことだ。筆者も最近この言葉を知り、世の中には隠れた知恵者がいるものだと感心するとともにそのアイデアに敬意を表したい。

 具体的には、耕作地の地上約3mの位置に藤棚のような架台を設置して、地上の農作物に太陽光が当たるように隙間をあけながら太陽光パネルを設置する。これによって、農家はこれまで通り農業を営みながら太陽光発電によっても利益が得られる「ウイン・ウイン」の農業経営が可能になる。

 ソーラーシェアリングは、街の発明家、CHO技術研究所の長島彬所長が長年かけて実験、実証し、「世界のエネルギーと食糧事情を抜本的に変えることができる夢のある技術」として、2004年に特許出願し、05年に取得した特許技術を公開したため、無償で誰もが使用できる。

 これまで、農地での太陽光発電は耕作放棄地などを利用するケースがほとんどだった。太陽光パネルが地上を覆ってしまうので同時に農業を営むことはできない。ソーラーシェアリングはこの壁を突き破るアイデアだ。普通の農家がこれまで通り農業をしながら、その農地をソーラー発電にも利用できるので、土地の生産性が大幅に向上する。

農業2対発電1の割合で太陽光をシェア

 まず、地上約3mの空中にパイプで支えた構造物にソーラーパネルを設置する。太陽光を「農業」と「発電」2対1の割合でシェアできるように間隔を空けてパネルを貼付ける。植物は一定の光があれば育ち、それを超える量の光は光合成につながらない。これ以上光が当たっても光合成につながらない光の量を「光飽和点」という。ソーラーシェアリングは植物の光飽和点を利用して考案された技術である。農作物の光飽和点は種類によって異なる。例えばトマトやサトイモ、スイカなどのように光飽和点が高い種類があるが、ミツバ、レタスなどのように相対的に低いものもありまちまちだ。

 地上約3m地点にソーラーパネルを設置すると、農地にパネルの陰がでる。パネルを設置しなかった場合の敷地面積には100%太陽光が当たる。一方パネルを設置した場合はパネルの陰になる部分には光が当たらない。敷地面積のうち光の当たらない面積の割合を遮光率という。農作物の種類によって異なるが、おおむね遮光率が30%以下であれば、農作物の生長には影響がでないことがこれまでの実験で実証されている。

 パネルは地上約3mの高さに設置されているので、その下の農地は通常の農地と同様にトラクターやコンバインも利用できるので農作業に支障がない。

 一方、太陽光発電用のソーラーパネルの価格は国内外の企業間競争によって急速に低下している。温暖化対策として太陽光発電が登場した1990年代初め頃には、出力1kw(キロワット)のパネル価格は約370万円もした。2000年頃には約80万円、さらに15年頃には約30万円台、最近では30万円を切るものも登場している。この間、パネルの品質は大幅に向上している。

固定価格買取制度の活用

 政府は太陽光発電など再生可能エネルギーの普及を図るため、2012T)を導入している。この制度は再生可能エネルギー(電気)を生産コストよりも割高な価格で電力会社が購入することを義務づけている。たとえば、16年度の場合、10kwh(時)未満の1kwhの買い取り価格は31円、買い取り期間は20年だ。最初の10年間で減価償却を終え、それ以後は利益になる。

 ただし乗り越えなくてはならないいくつかの課題もある。

 一つは農水省のソーラーシェアリング導入に関する指針である。指針によると、ソーラーシェアリングを設置するための架台の柱部分は農地の転用と見なされることだ。3年ごとに継続審査を受けてその都度、農地の一時転用の許可を得なければならない。

 継続審査の目玉は、平均的反収の割合である。ソーラーシェアリングを設置することで本業の農作物の収穫量が大幅に減少してしまっては困る。そこで農水省は平均反収の20%減以内に止まらない場合には許可を取り消す、と定めている。この20%ルールが厳しいかどうかは設置場所や日当り具合、農地の大きさや形状、さらに農産物の種類などによって事情はかなり違ってくるが、これまでの実験結果からいえば %ルール規制はそれほど高い障害にはならないそうだ。

 ソーラーシェアリングの推進者の一人、城南信用金庫の相談役吉原毅氏は、ソーラーシェアリングを導入すれば、「一石七鳥」のメリットが得られると指摘する。(1)農業収入に加えた売電収入で農家の経営が安定する、(2)海外との農産物の価格競争を戦える、(3)若者が都会から農村に帰ってきて、後継者問題が解決される、(4)豊かな自然環境の中で子育てができる、(5)少子高齢化対策にも有効、(6)都会から流入した若者文化と農村の伝統が融合して新たな文化が創造できる、(7)地域分散型の経済構造への転換も期待できる、という。

身の丈にあった技術の開発が急務

 もっとも、まだ発展途上の技術であるため、架台の組み合わせ、ソーラーシェアリングに適応するソーラーパネルの開発、台風や地震に対する安全性の確保などの技術分野の課題も残っている。課題克服のためには産・官・学・地域の密接な協力と研究、実験が必要だが、すでにいくつかの地域で取り組みが始められている。ソーラーシェアリングは平均的農家が自分の所有する農地を使って身の丈にあった小規模の太陽光発電を設置、運営するために提案されている。すでに数年前から取り組んでいる農家も出ている。

 ソーラーシェアリングの技術は中国や東南アジア、インドさらにアフリカなどの農地でも十分活用できる。農業を続けながら原発や化石燃料に依存せず、太陽光というクリーンで再生可能エネルギーを活用する新しい時代へ向け前進する起爆剤の役割を果たす可能性を秘めている。

 4月3日、千葉県匝瑳(そうさ)市で世界初の「メガソーラーシェアリング」プロジェクトのオープンセレモニー(開所式)が行われた。東京ドームに匹敵する敷地に設置したメガソーラーシェアリング施設は地権者、農業法人、地元の発電会社が協力して運営する。再生可能エネルギーの普及に熱心な城南信用金庫が事業資金3億円の約8割を出資した。オープンセレモニーには再エネ派に転じた小泉純一郎氏、細川護煕氏、菅直人氏の3人の元首相も参加し、笑顔で会場を盛り上げた。

 日本生まれの草の根技術、ソーラーシェアリングの普及・発展を期待したい。

プロフィール 

三橋規宏 (みつはし ただひろ)

経済・環境ジャーナリスト/千葉商科大学名誉教授

1964 年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010 年4月から同大学大学院客員教授。名誉教授。専門は環境経済学、環境経営論。主な著書に「ローカーボングロウス」(編著、海象社)、「ゼミナール日本経済入門25 版」(日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「環境経済入門第4 版」(日経文庫)など多数。中央環境審議会臨時委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など兼任。
     

                

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