MAGAZINE マガジン

【編集長インタビュー】ティア 代表取締役社長 冨安徳久

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

故人に感謝を捧げる場をつくりたい

故人に感謝を捧げる場をつくりたい

(企業家倶楽部2011年4月号掲載)

創業以来、名古屋発の葬儀ベンチャー企業として成長し続けるティア。社員一人ひとりの企業理念の共有、追求がティアの急成長を支えている。葬儀ビジネスを自らの天命という冨安徳久社長は「葬儀は故人の生きた証です。人生最後のシーンを描き出す厳粛な儀式で、ご遺族に感謝されるのが私の生き甲斐。ティアを日本で一番『ありがとう』といわれる葬儀社にしたい」と熱い思いを語る。(聞き手は本誌編集長 徳永卓三)

この仕事に導いてくれた祖母のことば

問「葬儀ビジネスは自分の天職を超えて天命だ」と言われていますね。この仕事に惚れこんだきっかけをお聞かせ下さい。

冨安 私がこの仕事に出会えたのは、祖母がいたからです。祖母は、私が小さい頃から、「人の為に生きなさい。それが自分の生活の糧になればそんなに幸せなことはない」と、繰り返し言っていました。その言葉が私の中に浸透していたから、この仕事に就くことが出来たのだと思います。ご遺族のために一生懸命やって、その方たちに感謝していただけるなんて、こんなに素晴らしいビジネスは他にありません。人の為に生きることが、自分の喜びになるのです。まさに祖母の言っていた生き方が出来る仕事です。

問 おばあさんから教わったことは何でしょうか。

冨安 常に笑顔でいることです。当社の会館がある地域の方と接する時、笑顔でいるだけで、周囲の方たちの態度が変わってきます。その時に、私は祖母の教えてくれた笑顔の効力を実感しました。祖母や両親は、自らが模範になって私に大切な事を教えてくれました。私はそれを「静かなる躾」と呼んでいます。

問 静かなる躾で印象に残っていることはありますか。

冨安 例えば、靴を揃える習慣です。私は子供の頃に、祖母や両親から「靴を揃えなさい」と言われたことはありません。でも祖母や両親が、私が脱ぎ散らかした靴を片付けるので、いつも玄関はきれいでした。そうすると、私も靴を揃えるようになりました。きれいな状態が当たり前だったから、自分でも自然にそうするようになっていたのでしょう。そういう風に、祖母と両親がしていることが、私にとっても当たり前のことになっていました。他にも両親が毎日働いているのを見ていたから、自分が今、毎日働いていてもそれほど苦にならないのです。両親はいつも笑顔で、苦しい顔なんかあんまり見たことがありませんでした。だから私もいつも笑顔で元気にいられます。
 
感謝の気持ちで人の為に生きる

問 ただ人生においては常に笑顔でいるのも難しいものです。冨安さんが心がけていることはありますか。

冨安 感謝の気持ちがあれば、笑顔になれます。相手を思いやるには、根底には感謝がなくてはいけないと思うのです。その感謝とは親への感謝です。それを言うと、感謝に値しないひどい親を持った子供もいると言う方もいらっしゃるかもしれません。私が言いたいのは、仮に親ではなかったとしても、今自分が生きていられるということは、誰かが育ててくれたということなのです。そのことを忘れて、感謝の気持ちを失ってしまってはいけません。

問 現代は様々な事件が起きますが、家庭や学校教育で「感謝の心を持つこと」や「人の為に生きること」を教える必要があるのでしょうね。

冨安 その通りです。学校は今、何のために生きているのか、何のためにこういう行動を起こしたのか、ということを全く教えていません。記憶力ばかり重視しています。例えば歴史の授業で学校の先生が、「坂本龍馬が自分の命をかけてまで何をしようとしたのか」と熱く語ったら、自然と脳裏に刻まれます。それを聞いた中から「自分はこんな風にのうのうと生きていてはいけない」と一念発起する子供たちが出てくると思います。我々に与えられた命は次の世代の命にとって、人として何かかっこよく生きるための模範とならなければいけないのです。

問 魅力的な大人が入れば、子供たちも希望をもてますね。

冨安 過激かもしれないが、「自殺する人は感謝が足りない」と思います。今まで多くの自殺された方を見送ってきて、その遺族と向き合ってきました。追いやられた自分を責めて死ぬのは、周りに対する感謝が足りないと思います。周りの家族に感謝の思いを持てば簡単には死ねません。この世に人として生を受けて生きることは誰かのために行動を起こし、役立つということです。それが人生です。

問 冨安さんに以前お会いした時、「感謝は実力を倍化する打ち出の小槌なり」と言っていたのが印象に残っています。

冨安 人生もビジネスも心の根底に感謝を持っていなかったら、誰かの為に何かをすると言う行動になれません。生まれたときから全ての面倒を見て、与えてくれたのは親です。だから親孝行という形で感謝の気持ちを返すこと。そしてご縁で出会いお世話になった方たちにも感謝の気持ちを伝えることが大切です。これが生きるということだと私は考えています。

問 葬儀ビジネスの現場でも同じかもしれませんね。

冨安 その通りです。感謝の気持ちをなくしてしまったら、このビジネスは絶対成功しないと思います。以前、担当した葬儀で、ご遺族が遺産相続でもめたことがありました。その時に、私は自分の葬儀の仕事に対する想いをご遺族に語ったのです。すると、それまで揉めていた方も納得してくださり、無事にお葬式を済ませることが出来ました。その時、私は葬儀社の仕事は、ただ儀式に則って組み立てることではなく、遺族が故人への感謝を思い起こす最高の場を作り上げることだと確信していました。

 そして、自分が感謝の気持ちを持っていれば、今度は出会った人たちに感謝を与える側になっていけるということもわかりました。それが、最終的に仕事に対する責任感や義務になっていくし、この会社の存在理由にもなっています。だから、このビジネスには感謝の気持ちが必要だと思うのです。
 
葬儀は故人の生きた証

問 葬儀という儀式についてどのように思われますか。

冨安 葬儀は故人の生きた証そのもので、とても大切な儀式だと思っています。葬儀という儀式があるからこそ、身近な人達も心の整理ができ、故人との離別を心に刻むことができるのです。

問 葬儀の仕事のどんな部分に魅力を感じるのでしょうか。

冨安 この仕事には、人間が無条件に欲する4つの願いが叶えられています。「愛されたい、褒められたい、役にたちたい、認められたい」という願いです。この4つの願いが揃っているから、私はこの仕事にのめり込むことができました。

問 冨安さんは死というものをどのようにお考えですか。

冨安 人間には、必ず死が訪れます。だから怖いものではありません。私は日々、死というものを見ていますが、死をしっかりととらえている人ほど生を充実させられる人だと感じています。人生はとても限られた時間です。人生のゴール、つまり「死」が明日なのか、1年先なのか、10年、20年先なのか、それは誰にもわかりません。だからこそ、「今」を必死に精一杯生きたいと私は思います。死こそがその人の遺言です。その人の死に方によって、残された者に言葉ではない何かを残すのでしょう。

問 人は、死後どのようになるとお考えですか。

冨安 「人は10万回生まれ変わる」という話を聞いたことがあります。ある人が一度生まれ変われば、前に成長した部分からもう一度始められます。自分自身の成長を促していなかった人は、生まれ変わってもまた低い段階から始めなければなりません。ですから、死というものは終わりではなく次のステージへの始まりだと考えています。

ティアイズム

問 創業以来、一貫して業績を伸ばしています。ティアが顧客の支持を得ている理由は何でしょうか。

冨安 私たちは、お客様に心から「ありがとう」と言ってもらうために最大限の努力をさせていただきます。ティアでは、本気で最愛の人をお送りする気持ちをティアイズムと呼んでいます。常にその気持ちを大切にすることで、感動を呼ぶ何かを伝えることができるのです。

問 ティアイズムを葬儀ビジネスの現場でどのように具現化しているのでしょうか。

冨安 第1に、感動のサービスを提供するため、本気になって心から故人のことを考えます。儀式をただ提供するだけであれば他の葬儀社と変わりません。故人の思いを本気で受け止め反映させたいのです。社員には「その方の人生の重さをみんなで一緒に感じよう」と声をかけます。遺族の方たちとの打ち合わせのなかで、故人の愛した物や、好きな音楽はなかったかなどと話し合うようにしています。

 第2に、故人のための厳粛な儀式にするため、どのような葬儀をすべきかを社員全員で考えます。私は、葬儀に集まっていただいた方々に、故人の何十年という人生を思い出してもらうのが葬儀のあり方だと思っています。その方の生前の姿を思い浮かべるような葬儀にしたい。例えば、故人のご趣味が釣りであれば、愛用していた釣り竿を貸していただけないかとご家族の方にお願いします。そして、その釣り竿を祭壇の横やロビーに飾らせて欲しいと頼みます。美空ひばりさんが好きだった方なら、ひばりさんの歌を流してあげたいと考えます。私たちは、その方の思いや、人生最後のシーンを描きだしたいのです。それがティアのプロデュースであり、ティアイズムなのです。
  
一流を目指す

問 冨安さんは「葬儀ビジネスで究極のサービスを提供しよう」と言っておられますね。

冨安 私はサービス業者として一流を目指しているから、プライベートでも頭の中は常にサービスのことを考えています。例えば、レストランやホテルに行けば、そこで行われているサービスが自然に気になります。一流といわれるホテルやレストランは参考にするべき、最高のサービスを提供しています。普段の生活にもサービスが溢れているのですから、そういうことに気付けなければ、一流にはなれません。 
 そう言うと、重荷に感じる社員もいると思いますが、完璧なサービスをしろと言うわけではないのです。本当に一流になれるかどうかは別にしても、それを目指して努力し、お客様に喜んでもらうことを第一に考えようということです。お客様に喜んでもらって、当社を利用してもらって、それが売り上げや利益になる。それが最終的に給料として自分に還元されるのですから。給料を増やす最善の手段は、一流を目指すことです。

問 一流の人材を育てるために、どのような人材教育をしていますか。

冨安 ティアアカデミーという教育機関をつくり、私が直接、人材育成に努めています。人材育成に欠かせないのは、仕事に誇りを持っている、優秀な経営陣や上司だと思います。研修期間に学んできたことを、現場で上司がしていなければ意味がありません。人を育てるためには、上司が仕事に対するやりがいや情熱を伝え、自らが部下の模範になって仕事に当たらなければいけません。特に会社のトップに立つ経営陣が熱い思いを語れるかどうかが、非常に重要であると思います。もしティアの会館の近くに、大手のライバル企業が会館を建てたとしても、ティアがお客様からの信頼を得ていれば、負けません。だから人材育成はビジネスをするうえで、非常に重要なのです。
  
人を育てる会社をつくる

問 冨安さんの人生の目標は何でしょうか。

冨安 この葬儀ビジネスを通して、遺族が、大切な人と過ごすその最後の瞬間を、素晴らしいものにすることです。そして、「ありがとう」と言っていただけること。その目標を達成するために、一日一日を全力で生きているのです。一日24時間という与えられた時間は同じなのに、人はなぜ輝き方が違うのでしょうか。それは死を意識しているかどうか、命の時間を大事にしているかどうかに尽きます。明日の命があるなんて思ってはいけません。今日が全てだと思って生きること。1年365分の1で今日を捉えてはいけないのです。今日1日が全て、それが365回あるのが1年なのです。

問 冨安さんが「葬儀ビジネスは我が天命」とおっしゃる意味がよくわかります。

冨安 私は10代の頃から葬儀業界に入り、不慮の事故や、無差別殺傷事件などに巻き込まれて、不幸にも亡くなられてしまった方の遺族とお話をしてきました。どうしようもない怒りや、悲しみを抱えている遺族のところに出向いて、葬儀の話を進めていくのが本当に辛かった。そういった経験のなかで、人生は限られているという事を実感し、その限られた時間をどう使うかで、人生が大きく変わるということを気付かせてもらいました。私はこの仕事に惚れ込んで、プロとして徹底的にお客様の喜ぶことを現場で実践してきました。サラリーマン時代に培ったその信念は、独立して200人以上を率いる社長の立場になった今でも全く変わりません。それを今、スタッフにも伝えています。私の使命はスタッフに企業理念とビジョンを深く浸透させることです。それを怠ったらもう最初から事業の拡大を夢見てはいけないと思っています。

問 今後10年間の計画をお聞かせください。

冨安 我々は、これからの10年をセカンドステージと呼んでいます。10年以内に、直営店舗とフランチャイズを合わせ、200店舗展開を目標としています。今後は首都圏進出も視野に入れています。東京、名古屋、大阪は直営店舗で固め、政令指定都市を中心にフランチャイズを考えています。ブランド戦略に力を入れ、この仕事の社会性を上げていきたいですね。

問 ティアは最終的にどのような企業を目指しますか。

冨安 我々は「日本で一番ありがとうと言われる葬儀社」を目指しています。21世紀は、心のサービスの時代、心からお客様を思うサービスの時代です。その気持ちを、全社員が共有しなくてはいけないでしょう。この仕事にかけている想いを、私は社員に徹底的に語っています。それを聞いて同じ想いを持ってくれた社員が、今度は自分の部下たちに語っていくわけです。ビジネスの醍醐味はそこにあると、つくづく感じます。人を育てることが、経営者としての一番の生きがい、やりがいだと思います。松下幸之助さんは、「あなたの会社は何をやっている会社ですか?」と聞かれ、「人をつくっている会社でございます。ついでに電化製品もつくっています」と言いました。私もそれと同じ気持ちです。「ティアは何をやっている会社ですか?」と聞かれたら、「人の為に生きることの出来る人を育てている会社です。そのために、葬儀ビジネスをやらせていただいております」と、心からそうやって伝えたいと思っています。

p r o f i l e 

冨安徳久(とみやす・のりひさ)

1960 年、愛知県生まれ。18 歳の春、知人から紹介されたアルバイトで葬儀業界に入る。大手葬儀社で葬儀の施行や会館マネジメントに携わるが、閉鎖的な業界の改革を目指し、97年7月、株式会社ティアを設立。翌98年、名古屋市中川区に1 号店をオープン。その後、中部圏を中心に出店し、規模を拡大。2006年6月、名古屋証券取引所セントレックスに上場。08 年9月、名古屋証券取引所市場第二部へ上場市場を変更。不透明な葬儀業界に一石を投じ、安心感、信頼感のある葬儀社を目指している。

一覧を見る