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【編集長インタビュー】Paltac 代表取締役会長三木田國夫

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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流通業の無駄を省き消費者ひいては社会に貢献したい

流通業の無駄を省き消費者ひいては社会に貢献したい

(企業家倶楽部2010年12月号掲載)

メーカー、小売店主導から消費者主導に移った現代の消費社会。販売競争が激化する中で、メーカー、小売店、卸の役割も時々刻々と変化する。化粧品・日用品、一般用医薬品卸の最大手であるPaltacの三木田國夫会長は「もう自社だけの利益を考える時代は終わった。流通業界全体で無駄を省かなければならない」と説く。入社時の営業マン時代、大型物流センター建設の決断、部分最適から全体最適へ向けての業界近代化などについて、率直な意見を聞いた。    

(聞き手は本誌編集長 徳永卓三)

中間流通業を極める

問 御社は110余年の歴史を持ち、今や化粧品・日用品、一般用医薬品卸業界のトップ企業となりました。この30年を振り返ると、卸業の役割も変わってきたのでしょうね。

三木田 高度経済成長期以降、日本 企業は自社が伸びればそれでいいという発想が当たり前でした。メーカーは新製品ラッシュを繰り返し、小売はいかに安く仕入れるかに重点を置き、欠品回避のために発注回数を増やしました。両者のニーズに応えようとした卸売企業は在庫もコストも抱えました。

 しかし、これからは消費者が市場を先導する時代です。消費者の動向を把握するための充分な市場情報とタイムリーな製品情報を手に入れることが出来る立場、それが我々卸業なのです。私たちは中間流通業として、「適時さ・的確さ・安価さ」を極め、消費者、そして社会に貢献したいと考えています。全国15カ所のRDC(大規模ハイテク物流センター)と自社開発の最新システムを駆使し、業界の枠を越えたネットワークを活かしてこれを実現させます。

相手の立場になって考える

問 御社は戦後間もなくオーナー一族のいない会社になりました。三木田さんは社長時代、どういう心構えで経営されてきましたか。

三木田 我々は戦後から「チームで会社をやっていこう」という思いでした。

「問屋は大きくなったら潰れる」と言われますが、とにかく「事業継続」が私の役割でした。いわゆる支配人ですね。先代の社長からも「会社を、お店を預かっている気持ちで経営してほしい」と言われました。だから今の社長にも「支配人のつもりでやれ」と言っています。経営はひとりではなく複数の人間で協力して行うものです。営業も物流もシステムも全部チームにし、チームで成果を上げるような形です。

 私はいつも入社式で、会社の生い立ち、歴史、考え方を話します。当社の考え方として「ものを売るだけの人はいらない」があります。我々はサービス業です。例えば化粧品であれば、消費者にさらに美しくなってもらうために口紅があるのです。そして「相手の立場になって物事を考えること」を基本姿勢として、メーカーと話をする時はメーカーの立場に、小売であれば小売の立場に立ちます。例えば、当社の営業スタッフは一人ひとりがマーチャンダイザーです。メーカーからの商品情報や市場情報、店舗ごとの立地や客層などさまざまなデータを基に、消費者に購入していただくための最適な売り場を提案しています。取引先の満足が当社の売上高になり、利益となります。それが当社の伝統です。古い言葉で「陸海空で行け」。営業だけで商売したってあかん。物流やシステムなどもあわせてお役立ちできる機能を総合的に発揮してお取引先に貢献しなければいけない。お取引先の繁栄なくして当社は成り立たない。当社だけが利益を上げるようなことはしないとご理解いただきたいですね。

問 組織運営は、どんな方針でしょうか。

三木田 当社では権限より責任が先行します。「ある目的を遂行するためならどんな権限を行使してもかまわない」ではないのです。12年前のRDCの設備投資の時、私は副社長でしたが、社内で反対が強い中、投資の必要性を説きました。当時の社長の「そこまで言うならやれ。その代わり責任は君が取らないかん」の一言で決断されました。結果的に生産性が上がり、「安心して任せられる」とメーカーや小売からの依頼が増えました。当社に任せれば、「検品をしなくていい」「納品精度が高い」「品切れは無い」と大成功し、そこで矢継ぎ早に九州地方、東京、四国地方、中国地方と広がっていったのです。10年間で約800億円投資しましたが、この投資が当社の大きな転機になりました。

コンビニのビジネスモデルを参考に

問 社長就任以来、30社以上の会社の合併にも成功されましたね。

三木田 1998年の新和との合併が大きな転機になりました。「新生Paltac」として横浜地区の有力卸3社(ドメス、スミック、折目)との統合をはじめ、各地の有力卸との合併とRDC建設に邁進しました。また、メディセオホールディングス(現メディパルホールディングス)との統合、コバショウとの合併など、最近では業種を超えた統合にチャレンジしてまいりました。

問 その際モデルにした企業はありましたか。

三木田 コンビニエンスストアのビジネスモデルです。コンビニはフランチャイズビジネスを展開していますので、店舗にはそれぞれオーナーがいます。その各店舗に最適な商品を届けることが、本社の大きな機能です。つまり本社は純粋な小売業というより卸売の機能に近いのです。コンビニは各店舗に合った商品を届ける力に優れています。他にも、店舗運営の仕方や商品の選び方、陳列、納品、発注の仕組み、先端的なシステムなどが参考になります。ブランド名も統一されています。我々も数々の企業と合併後、組織や仕事の仕組みを統一してきました。さらに、ブランド価値をひとつに絞り高めるため、昨年4月には社名をアルファベット表記のPaltacに変更しました。

問 M&Aではコスト管理も重要です。ご注意された点はありますか。

三木田 思い切った投資や派手なことをしていると思われるかも知れませんが、きちんと計算して、「身の丈」は理解しているつもりです。例えば、本社にはお金をかけません。東京から来た方はびっくりされます。「120億円も利益を出しているのに何でこんな商店街の中に居るんだ」と。本社よりRDCの方がトイレも食堂も綺麗で設備もいいです。本社を綺麗にして利益が出るのであれば明日にでもビルを買いまっせ(笑)。本社を綺麗にしても余計な負担が増えるだけなのです。

もっと信頼を得るための再上場

問 三木田さんが入社された当時は小さな卸会社だったそうですね。

三木田 私が入社して約10年間は、大手メーカーのヒット商品をほとんどと言っていいほど扱えませんでした。各都道府県にはそれぞれ大手の問屋が既にあったためです。当社も神戸や京都など各地に営業所がありましたが、力はなかった。私は当時営業職で、「新米の直販部隊は売らんでいい」とまで言われる始末でした。

 このままではいけないと、老舗の国内メーカーではなく、海外メーカーや新しいメーカーを探しました。例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソンやかみそりのジレット(現P&G)などです。その時、我々はメーカーの商品をいかに売るかを一生懸命考えました。メーカーや小売に対して何よりお役立ちできるという喜びがあったのです。大手メーカーの商品を全国的に扱えなかったことが、返って今の「小売業のお役に立ちたい、店頭販促を一緒にやりましょう」というスタンスができたのではないかと思います。そういった思いが多くのメーカーに伝わり、エステー化学(現エステー)さんなどが我々に目を付けてくれました。

問 当時、恵まれなかったことが今の発展に繋がったのですね。当時で印象に残っていることはありますか。

三木田 私に一度(島流しのような)人事異動があった時のことです。私が営業担当をしていた大手小売業のイズミヤの常務だった方が「三木田君を外すのであれば取引を考え直す」とおっしゃってくれたのです。後で「なぜそんなことをおっしゃったのですか」と尋ねたら、その方は「君が辞めると思ったから。それはもったいないから」と答えられました。これほどありがたいことは無いですね。営業マン冥利に尽きます。

問 将来は売上高1兆円、経常利益200億円という目標を掲げられていますね。

三木田 そのために、まず2011年3月期から2013年3月期までの「3カ年計画」を立てました。目的は、サプライチェーン全体の効率化を通じ取引先の営業利益をあげることです。そのためには小売店やメーカーからの協力も必要です。小売店とメーカーの皆様が培った情報と我々のシステムを組み合わせ、次世代型の流通システムを作りたいと思っています。ただ現状は当社に全てのデータが集まってくる状況ではありません。小売店やメーカーの皆様も「卸売業者に全ての情報を提供するのは不安だ」という心配があるのだと思います。我々は信頼してもらわなくてはいけません。そこで今年3月に東証、大証一部に再上場したのも信用、信頼を高め、様々な方にPaltacを知っていただくためです。

 我々は商品をメーカーから安く仕入れて小売に高く売っているわけではありません。独自のシステムの開発など、自社の努力で今までやって来ましたが、これからはメーカー、小売、卸売が一体となって一緒に流通の無駄をなくす必要があります。

全体最適を実現する

問 流通業界は俗に「暗黒大陸」と言われます。流通において三木田さんが一番無駄だとお考えなのはどのようなことですか。

三木田 一番の問題点ははっきりしています。価格決定に、メーカー、小売、卸売がかなりの時間をかけてしまっていることです。江戸時代は卸売が力を持っていました。そして30年前の流通革命により、消費者に一番近い小売が価格決定権を持つようになっています。

 日本は、メーカー・卸売・小売の各段階でコスト構造がオープンではないため、どうしても価格決定に時間がかかります。各流通過程のコストや無駄をオープンにすれば、どうやって消費者に販売するか、どういう販促や陳列をやったらいいかにエネルギーを費やせます。価格決定で時間を費やすよりも、顧客を第一に考えた販売戦略に時間を使えるのです。例えば、メーカー、小売、卸売が協力して需要予測をして、メーカーの購買・生産計画に生かすことができれば、当然流通全体での無駄が減ります。そうすればコストが下がり、商品価格も抑えられる。これは小売店にとってもメリットが出てきます。最終的には、消費者に還元できるのです。

問 納品日も曜日によって、ズレが大きく、コスト負担も大きいそうですね。

三木田 今どの業界もチェーンストアの5割以上が月曜日に商品を発注、火曜日に納品します。これは週末の土日に商品が売れるからです。小売の立場からすると、月曜日に発注して火曜日に大量に持って来てもらいたいと思います。

 また月曜日の次の出荷ピークは木曜日に来ます。すると、それ以外の日は作業が少なく、M字型の波が起こるわけです。特定の曜日に注文が集中すれば、ピーク時にあわせて、商品を出荷するための人や車などを多く用意しなければならない。

 しかし、そのマネジメントは大変です。例えば、パートさんなど、「月曜日だけ大量に雇い、水曜日は来なくてもいい」という雇い方はなかなかできません。アルバイトを雇うにしても、「月曜日だけ来てください」と週一で働いてもらう訳にはいかないのです。この波を平準化すれば、人件費などのコストが削減できます。

 そこで当社が取引先に提唱するのが「全体最適」です。例えば、品揃えや陳列数量などを工夫することで、小売業者ごとに発注日の平準化や、発注回数を減らしてもらうことが可能になります。これは小売業にとっても荷受作業や品出し作業にかかるコストが削減でき、結果として「Win・Win」の取引関係につながります。

問 流通業は将来、どうなっていくとお考えですか。

三木田 「全体最適」を構築するチャンスではないかと思っています。メーカー、小売、卸売がシームレスにつながり、重複した業務など無駄を省く。そのために当社があるのです。卸売機能がないほうが合理的であれば、当社の存在価値はありません。我々は流通業の中核を担うという意識でやっています。

問 小売業界にはどのように働きかけていきますか。

三木田 日本にはたくさんの小売企業があります。これが10年のうちに2つか3つに集約されるということは日本の特性からするとまずないでしょう。その中で流通を合理的にやる全体最適を目指すことで、小売業はまだまだ発展できると思います。

 例えば、経済産業省は今、流通BMS(ビジネスメッセージスタンダード)を提唱しています。流通BMSとは経済産業省の「流通サプライチェーン全体最適化事業」に端を発し、日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会をはじめとする業界団体が検討、実証実験を重ねて作成された、流通業界における電子データ共通交換システムのガイドラインです。私はこれをやるべきだと思います。むしろやらざるを得ないでしょう。BMSを採用すれば、メーカー、小売、卸売が瞬時にインターネットで情報を共有出来ます。当社では現在これをお取引先と協力しながら推進しています。このように現代は流通の無駄を省く時代なのです。

問 海外への事業展開はお考えですか。

三木田 最終的には中国が目標です。具体的にはまだ決まっていません。中国ではほとんどの企業が失敗しているからです。我々の取引先であるメーカーの中でも成功しているのはごくわずかです。慌てずにゆっくり考えていきたいと思います。

p r o f i l e 

三木田國夫(みきた・くにお)

1943 年10 月23 日生まれ。66 年、近畿大学商経学部商学科を卒業後、大粧(現Paltac)に入社。企画室長、常務、副社長などを経て、98 年社長に就任。RDC建設と業界再編成を推進、同社を年商7000億円の化粧品・日用品、一般用医薬品の最大手卸会社に育てた。2010年6月、代表取締役会長に就任。

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