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【核心インタビュー】GMOインターネット 会長兼社長グループ代表 熊谷正寿 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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ナンバーワン戦略に執着 10兆円企業を目指す

ナンバーワン戦略に執着 10兆円企業を目指す

(企業家倶楽部2016年10月号掲載)

「すべての人にインターネット」を掲げ、インターネットのインフラづくりに邁進、売上高1263億円(2015年12月期)、経常利益148億円(同)をたたき出すGMOインターネット。グループ89 社を束ねる総帥、熊谷正寿代表は徹底したナンバーワン戦略を貫き、ネット社会の基盤づくりに励む。そしてこの6月にはあおぞら銀行と組んでネット銀行に参入すると発表した。圧倒的な強さで日本のインターネット業界に君臨する同社の秘密を熊谷代表に聞いた。 聞き手:本誌主筆 徳永卓三 副編集長 三浦貴保

問 業績が絶好調ですね。インターネットインフラ、ネット広告・メディア、ネット証券、モバイルエンターテインメントと4つの事業分野で、一番業績に貢献しているのはどの分野ですか。

熊谷 2016年12月期第2四半期は過去最高の売上げと最高益になりましたが、緊張感を持って臨んでいます。業績に貢献しているのはネットインフラと証券の分野。この2大エンジンが好調です。FXは取扱高世界一で1カ月100~150兆円くらいの決済をしています。ネットインフラもお客様の数、マーケットシェアはほとんどが1位です。

問 長年、ナンバーワン戦略を追求してこられたのが、社内に浸透しているということですね。

熊谷 一番良いプロダクトを作ることに注力、結果としてナンバーワンになったと思います。売上げやシェアは後からついてきます。

問 熊谷会長が4つの中で、一番力を入れたい分野はどこですか。

熊谷 既存の事業は幹部が成長していますので、私はグループ全体でのシナジーを考えることと、新分野を考えています。

あおぞら銀行と組んでネット銀行に参入

問 この6月、あおぞら銀行と組んでネット銀行に参入すると発表しました。その狙いは。

熊谷 昔から銀行業をやりたいと思っていましたが、2007年に400億円の損失を出し、一旦諦めました。損失を埋めるためにeバンクの株を売りましたが、それを三木谷さんが買って今の楽天銀行になりました。悔しかったですね。2年前からまた銀行をやりたいという思いが沸いてきました。祖父が銀行をやっていましたので、銀行は家業ではないかと。

問 あおぞら銀行と組んだのはなぜですか。

熊谷 ネット銀行をやりたいと考え、当社の危機を助けてくれたあおぞらさんにご挨拶に行ったら、ウチもぜひやりたいと。そこで一緒にやろうということになりました。あおぞら銀行とあおぞら信託銀行、免許を2つお持ちで、あおぞら信託銀行と合弁会社を作りました。

問 念願のネット銀行ですが、本格スタートはいつ頃になりますか。

熊谷 2018年の3月です。このネット銀行では金融全般を手掛けたい。

問 金融に参入するうえで不足していることや課題はありますか。

熊谷 金融はプロフェッショナルの世界ですから、足りないと言えば全部足りないのですが、経営に終わりはないので、ポジティブな不満を持って臨みたいと考えています。

問 今ネット銀行で先行しているのはどこですか。そことどう戦いますか。

熊谷 住信SBI銀行と楽天銀行だと思います。この分野でナンバーワンになるために個人にも法人のお客様にも最も便利な銀行を目指します。自社のクラウドや新しいテクノロジーを活用して、低価格で高機能な技術とサービスを提供し、お客様に還元したい。スピードが重要となりますので、インターネット事業に精通している人材が集まっていることは強みでしょう。

自前のテクノロジーが強み

問 インターネット事業を開始して20年、蓄積したノウハウは大きいですね。

熊谷 われわれが一番古い会社になりました。ビットバレーといわれ、さまざまなネット会社が立ち上がりましたが、何社も残っていません。残っているのはサイバーエージェント、DeNAなど数社です。

問 この20年の御社の成長はすごいですね。

熊谷 あっという間でした。でも今は20年前よりもっとワクワクしています。ネットの登場が産業革命であることは、疑う余地もありません。過去の産業革命は平均55年続いていますが、わが社がインターネット事業を開始した95年を起点とすると、あと35年は革命が続きます。

問 この革命をどのように進化させますか。

熊谷 95年当時はヒトもお金もありませんでしたが、今や5000人近い社員と何百億円の資金と何百万のお客様がいますから、できることが多くてワクワクしています。

問 御社の強みはどこにありますか。

熊谷 自前のテクノロジーです。2000名を超えるモノ創りのエンジニアやクリエイターが宝物です。今、全社員の42%ですが、これを50%に増やす予定です。そして全てのプロダクトは内製化しています。一切外注は認めていません。うちは自分たちで作って自分たちで売り、サポートするという会社です。だからPDCAのサイクルが早い。顧客基盤、スピード経営の企業体質も強みです。ネットで勝ち続けるにはスピードが重要です。

ローマ帝国方式で仲間づくり

問 グループ企業をまとめていくのは大変かと。

熊谷 今89社ありますが、まとめるなんてとんでもない。祈っているだけです。

問 まとめるために実施していることはありますか。

熊谷 20年前からずっと共有している「スピリットベンチャー宣言」があります。毎週月曜日と、3カ月に一回全社員が集まる時に唱和します。3000人くらい集まりますが、残りは同時中継で共有します。何千人も集まって読むのは壮観ですよ。宣言内容はネットでも公開していますが、徹底することは難しい。

問 全員で唱和するというのは今の時代意外な気がします。何かヒントになるものがあったのですか。

熊谷 歴史上長く続いた成功事例を見習おうと。最も長く続いているのは宗教です。私はクリスチャンですが、宗教には5つの共通点があります。同じ場所に集まる。同じものを読み、歌う。同じ物を身につける。同じポーズをとる。聖典がある。全ての宗教に共通しています。また、長く続いた象徴的なものとしては、ローマ帝国があります。多くの国はM&Aをすると、相手を奴隷のように扱いますが、ローマ帝国は広げた領地では、相手もローマ人として扱った。

問 そのまま生かしたということですね。

熊谷 そこは同じ考え方で、資本提携した会社とは上下関係を作りません、対等です。買収と言う言葉は使いません。仲間作りです。子会社ではなくグループ会社です。ローマ帝国方式で実施しています。要は、長く続いたところの良いところを学び、それを活かしています。私はみんながフェアに自由闊達に活躍できるように仕組みを作っているだけです。

海外戦略を加速  

問 海外戦略はどうですか。

熊谷 海外は16カ国43拠点で782人います。FXとインフラ系のサービス、卸と直販を本格化させます。「.shop 」という「.com」に代わる新しいドメインを9月から本格販売します。「Z.com」という日本と同じインフラのプロダクトを直販で販売しています。

問 今一番調子が良いのはどこの国ですか。

熊谷 まだ全部が立ち上げたばかりですので、海外全体でも年間売上約1300億円のたった3%程度です。私は今53歳ですが、50代のうちに海外の売上げ比率を5割までもっていきたい。売上1兆円になった時に国内、海外共に5000億円・5000億円をイメージしています。

問 売上1兆円はいつくらいに達成予定ですか。

熊谷 2023年、私が60歳までにもっていこうと思っています。55カ年計画をつくっていますが、それは売上10兆円なので、今はまだ100分の1です。

問 この10兆円というのはいつ達成の計画ですか。

熊谷 2051年、私が88歳のときですね。

問 まずは1兆円への道筋を教えてください。

熊谷 もちろん計画は作ってあります。国内は今のまま、ネットインフラは圧倒的ナンバーワンを、あとは金融の分野をしっかり創っていく。海外はインフラ、金融共にいまの卸と直販で拡大していきます。

問 御社のライバルはおりますか。

熊谷 個々の商材ではおりますが、総合グループとしてはおりません。海外にもあんまりない。ドメインを取ろうと思ったら、わが社が国内90数%を押さえています。ドメインの顧客数は557万件になります。

問 こうしたお客様がネット金融にも関わってくるということですね。

熊谷 当社を認知されていますから、結果的には活用する形になる。うまく組み合わせたサービスを開発していきます。

問 ナンバーワン戦略を実現するための社員教育はどのようにやっていますか。

熊谷 私が教育するなんておこがましい。みんなを大事にして感謝して祈るのが僕のスタイルです。数限りない福利厚生とイベントなど、みんなが楽しく笑顔で働けるような環境づくりに力を入れています。

問 その極意を教えて下さい。

熊谷 自分が働きたいような環境を作るということです。人生のかなりの時間をこのオフィスに割くわけですから。マッサージルーム、昼寝の推奨。食堂は24時間営業、しかも無料で提供。託児所もあります。またコンシェルジェデスクを設置し、靴の修理、クリーニング、会食の手配、旅の手配までやってくれます。

問 いたれりつくせりですね。プライベートでも使えるのですか。

熊谷 もちろんです。貴重な頭脳がそのために外出しては往復の時間が無駄。こうした福利厚生は非常に好評です。

問 社員の方々は幸せですね。53歳の今の夢は。

熊谷 1998年に55カ年計画を作ってから何も変わっておりません。この計画を粛々と実現していくだけです。

P R O F I L E 熊谷正寿(くまがい・まさとし)

1963年長野県生まれ。東証一部上場企業グループのGMOインターネットを率いる。「すべての人にインターネット」を合言葉に、WEBインフラ・EC事業、インターネットメディア事業、インターネット証券事業、ソーシャル・スマートフォン関連事業を展開。04年「第6 回企業家賞」受賞。

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