MAGAZINE マガジン

【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第37回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

「持っている人」の3つの特徴

「持っている人」の3つの特徴

(企業家倶楽部2017年1・2月合併号掲載)

 フィギュアスケート世界絶対王者の羽生選手の言葉を聞いていると、いつもその飽くなき探求心に脱帽させられます。2016年も終わりとなるNHK杯で優勝しても、「まだ自分の全力を出し切っていない。自分はまだ伸びる。オリンピックに向けた経験を積んでいくことが何より大事だ」と言うのですから、驚くほかありません。やっぱり普通の人ではない。自分を信じるオプティミズムと先天的才能と無制限の努力という三つの力を「持っている人」なのだと舌を巻きます。すぐれた経営者も、このようなスポーツ界の絶対王者である羽生選手と同じ特徴を持っていることがわかります。彼らはとにかく三つの原則を「持っている」のです。

 しかもその三つの力を内包しているだけでなく、常に口に出して表現しているのが特徴です。たとえば最近本誌の表紙を飾った、幼児活動研究会社長の山下孝一さんとベステラ社長の吉野佳秀さんはどうでしょうか。お二人の暦年齢を聞いたら本当にびっくりしますが、若者と同じような熱意を常に口にしておられます。彼らの若いときの苦労は、筆舌尽くしがたいものがあったのに、まだ「現在進行形」で情熱が口から飛び出すようです。同じように、ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんも、未だに前を向いて新しいフィールドで努力しておられます。

 若い経営者たちも、その点はまったく同じです。たとえばユーグレナの出雲充社長がそうです。ミドリムシについて話し出したら止まらないのです。企業家大賞の授賞式でも、普段はどちらかというと静かな話し方をする人が、「ミドリムシはそんな環境では住めません。死んでしまいます」と、ミドリムシへの愛情をあまりにも熱心に語ったので、聞いていたエイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長兼社長が「君がそんなに熱心に『ミドリムシ、ミドリムシ』と言うから、どうしても聴き手はそれが生きている虫だと思ってしまうよ。まさか植物とは思えない」と発言したくらいです。

 なぜ止まらないのか。それは自分の仕事への燃えたぎるような熱意があり、そして今現在も努力を一切やめていないからでしょう。彼らの表現のしかたをパフォーマンス学の視点からリストアップすると、以下の三つのポイントになるでしょう。

1.オプティミストであること

2.燃え上がる情熱が話し方に出ていること

3.努力をやめないこと

1.オプティミストとペシミスト

 何かをやるときに、「これをやらないと困るから」とか「ダメになるから」と言って頑張る人がいます。それはそれで危機意識に基づく動機けであって、切羽詰まっているのでなかなか迫力があります。たとえば大学受験で「勉強しないと落ちるぞ」と思って猛勉強する類です。これは心理学的には「恐怖に基づく動機付け」の分類に入るものです。

 一方、「これをやったら自分は必ず勝利する。困難があっても乗り越えられる」と考えられるタイプを、楽観主義的傾向の強い「楽観主義者(オプティミスト)」と呼びます。前向きで明るい人々です。これについては、楽観的傾向と悲観的傾向ともに心理テストで計ることができます。読者諸氏は驚くかもしれませんが、大学生で熱心に長時間集中して勉強できる学生は、「楽観的傾向」が強いという研究報告があります。成功するトップは、間違いなく全員「オプティミスト(楽観主義者)」です。

 ここで大事なのは、「楽観主義(オプティミズム)」と単なる能天気とは違うということです。能天気な人のことを「楽天家」と呼びますが、何の努力もしなくてもいつか自分は成功すると言っているのは単なる白昼夢(デイドリーム)で、これは正確な心理学分類ではオプティミストとは違います。

 楽天家は危機がくることを予測していないので、危機がくると一気にポシャンと潰れます。楽観主義者は危機がきてもそれを乗り切る能力が自分にあることを信じている人です。だから、例えば山下さんも、ジェイアイエヌの田中仁社長も、リブセンスの村上太一社長も、潰れそうな時があっても這い上がってきたのでしょう。

 オプティミストの反対に位置するのは「ペシミスト」ですが、ペシミストは悲観主義者なので、「他の人たちは運が良くてうまくいっている、それに比べると自分はまわりの理解が足りないから、努力しているのにうまくいかない」などと、いけしゃあしゃあと、不幸な状況に自分が今いる事の原因を、環境や運のせいにします。これが典型的なペシミストです。周りの人に原因を押し付けているので、自分自身が改善しません。つまり「持っていない」ことの証明を自らしてしまっているわけです。自分に自信がある人は全員オプティミストです。

2.燃え上がるような情熱

 トランプさんの演説を前列で聞いている人たちは「唾が自分の方に飛んでくるのではないか」と全員思ったことでしょう。大声を出したときに、喉仏が見えるほどの大口を開けています。「自分が話したい、発言権を奪いたい」という情熱が強すぎるために、対抗者であるクリントン氏が喋り出すと、彼はいてもたってもいられずに、クリントン氏の後でうろちょろとステージ上を動き回ってしまいました。「喋りたい」という情熱が、自分の体を動かしてしまうわけです。

 ある意味困ったものですが、「なんとかして自分に発言権を取り戻して、自分のビジョンを発言したい」と燃え上がる情熱が身体を動かしてしまうのでしょう。なぜなら、自分が誇りたい何かをもっているから「しゃべりたい!」のです。

3.努力をやめない

 努力をやめない人の典型は、エジソンでした。女中が「ランチの時間が来たら、ストーブの上のヤカンの中に卵を入れて茹で卵にしてください」と言って出て行ったのに、エジソンは夢中で発明をしていて、実際にヤカンで茹でたのは、自分の懐中時計でした。努力することが彼にとっては快感であり、努力をやめるのはとても難しいことだったのでしょう。

 ジャパネットの髙田前社長から、佐世保のご自宅でじっくりお話を聞いたことがあります。小さなラジオやカメラを売っている会社から世界規模のジャパネットホールディングスが誕生したのは、努力をやめないという猛烈な作業を40年も続けてきた結果だとよくわかりました。実際にご子息に社長を譲っても、まだ彼は新しい会社を立ち上げて努力を続けておられます。ふるさと佐世保のPRにも積極的に登場し、努力を止める気配がない。「持っている人」としては、努力をやめることは自分自身の人生の損失だと思っている感があります。

 自分自身が「持っている人」であることがきっとトップになる条件で、「持っている」からトップになったのか、トップだから「持っている」のか、そこは鶏と卵の関係だと思われますが、今年は自分がパフォーマンス心理学の情熱と楽観主義と努力を「持っている人」であることを証明する一年にしたいと、皆様とともに私も思います。

Profile 

佐藤綾子

日本大学芸術学部教授。博士(パフォーマンス心理学)。日本におけるパフォーマンス学の創始者であり第一人者。自己表現を意味する「パフォーマンス」の登録商標知的財産権所持者。首相経験者など多くの国会議員や経営トップ、医師の自己表現研修での科学的エビデンスと手法は常に最高の定評あり。上智大学(院)、ニューヨーク大学(院 )卒。『日経メディカルOnline』、『日経ウーマン』はじめ連載6誌、著書178冊。「あさイチ」(NHK)他、多数出演中。21年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰、常設セミナーの体験入学は随時受付中。詳細:http://spis.co.jp/seminar/佐藤綾子さんへのご質問はinfo@kigyoka.comまで

一覧を見る