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【核心インタビュー】エムアウト社長 田口 弘 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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ALAで世界中の人々を健康に

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(企業家倶楽部2014年1・2月合併号掲載)

スタートアップファクトリーを作り上げる

問 御社のビジネスモデルを教えて下さい。

田口 私たちエムアウトは日本型の新しいベンチャーを目指しています。ベンチャーはアメリカで発達したものですが、日本ではまだ活発とは言えないでしょう。それはアメリカ人の個人プレーを好む傾向が、集団で一つのものを作り上げることに長けている日本人に馴染まないからかもしれません。天才的な感覚を持った人物、日本で言うソフトバンクの孫社長や楽天の三木谷社長ならば、ビジネスモデルの方向が間違っていない限り成功するのがアメリカです。しかしそのような人物は数が少なく、育成することもできません。

 アメリカのように一人の天才社長が立ち上げるのではなく、チームを組んでビジネスモデルの研究、開発や事業の育成を行う。起業のプロセスだけを繰り返し担当する新規事業立ち上げ工場、それが私たちの目指すスタートアップファクトリーです。

問 アメリカにもスタートアップファクトリーと呼ばれるものがありますが違いは何ですか。

田口 アメリカでは既に起業のアイディアを持った人を集めて選択し、育成しているだけです。私たちは事業をファクトリー、つまり会社内で作り上げ育成しています。ですから私たちこそが真の意味でのスタートアップファクトリーなのです。

問 今までに社長を務めたのはどんな方ですか。

田口 社長を務めた人は起業のプロと言って良いと思いますが、特別な人というよりは失敗などの経験が豊かな人です。スーパーマンが立ち上げるようなアメリカ型の起業に限界を感じ、組織でなら成功できるかもしれないと考える人は社長に向いているように思います。

プロダクトアウトからマーケットアウトへ

問 ファクトリーでは具体的にはどのようなことをするのですか。

田口 私たちは多くの失敗を重ねながら新規事業構築のノウハウを蓄積させています。ビジネスモデル構築のための会議では、事業のアイデアを出すのではなく成功の条件を研究していますが、成功には様々な要素が関係しており、全てを解明することは不可能です。しかし、成功する確率は徐々に上がっています。

問 成功する条件とはどんなものですか。

田口 私たちが重視しているのは「マーケットアウト」という考え方です。一般的には商品を決定したあとにマーケットに売り込むプロダクトアウトの手法が用いられていますが、それでは消費者のニーズに応えられません。私たちが提唱するマーケットアウトとは、最初にマーケットを特定してそのニーズに基づいた商品を提供する手法です。

問 具体的にはこれまでにどのような事業を立ち上げたのですか。

田口 これまでには5つの事業を株式売却やバイアウトでエグジット(投資資金の回収)をしてきました。そのうちの一つであるキッズベースキャンプは、民間学童保育の先駆けなのですが、子供の自立を支援する多彩なプログラムで従来の学童保育とは一線を画すサービスを提供しています。サービス開始から2年後の2008年に東急電鉄への株式売却にてエグジットを実現しました。キッズベースキャンプは単独では規模のメリットが出にくいビジネスモデルなので、私たちには拡大させることができませんでした。しかし鉄道会社には沿線価値を向上させるニーズがあるので現在の店舗数は売却時の倍にまで拡大しています。

問 現在取り組まれている事業にはどんなものがありますか。

田口 私たちにとって商品とも言うべき子会社は現在3つあります。まず宝石の“Re”サービス(リユース、リサイクル、リフォーム、リペア)を提供するアイデクトです。百貨店やショッピングセンターに15店舗展開しており、延べ8万人以上のお客様に利用していただいています。これからIPOするのかM&Aか調査をしている段階です。

 二つ目は、システム開発やWEB制作などITサービスの業者を紹介する発注ナビを運営しているユーザラスです。サイトを作りたい企業の発注者が最適なシステム会社を選定できるよう支援するサービスで、約400のシステム会社が掲載されており、ユーザー数は約3万5000人です。

 三つ目は、2013年9月にサービスを開始したばかりのエンジニア専門の人材紹介サービスpaiza(パイザ)を展開するギノです。エンジニアのプログラミングスキルを試験によってランク分けし、求人する企業に紹介しています。従来の人材紹介サービスは求人をする企業中心でしたが、求職者が中心で個人が企業を選ぶような構造に変えようとしています。さらにはエンジニアの育成産業であるという意識を持って取り組んでいます。

大企業とベンチャーの住み分け

問 最近は多くの大企業で社内ベンチャーが作られていますね。

田口 最近、大企業であっても新しいものを作らなくてはいけない、という気運が出てきたと感じています。しかし既に成功したビジネスと蓄積したノウハウを持つ大企業で、今の体制を否定するようなことを始めるのは簡単ではありません。社内ベンチャーのような小さい事業を作るのには時間がかかりますが、体制には影響を与えないことがほとんどです。

 大企業は社内で新しいことを始めるのではなく、積極的にベンチャーを支援して事業が軌道に乗ったところで買収するなりしてさらに発展させれば良いのではないかと思います。私たちスタートアップファクトリーが0から1を担当し、大企業が1から10に、さらには10を100にするような分業体制を作り上げたいと思います。ベンチャーと大企業の住み分けを確立するためにも、新規事業をファクトリー、つまりチームで作る日本独自のベンチャーの形が定着し、私たちと同じように新規事業開発を専門に行う人が増えたら良いと思います。

新規事業の受注生産

問 これから挑戦したいことはありますか。

田口 たくさんあるのですが、特に教育の分野でマーケットアウトの事業ができないかと考えています。現在の教育制度は学校で教育してもその先で就職できなかったりしますが、卒業後のことは誰も考えてくれていません。確実に就職できる教育、世の中に不足している人を育成する教育こそがマーケットのニーズに基づいた教育、マーケットアウトの教育だと思います。

問 社長の目標は何ですか。

田口 私が最初にスタートアップファクトリーを構想してから約10年が経ちましたが、まだ最初の構想の30パーセントを達成したような段階です。しかし事業構築のノウハウは蓄積されており、去年の活動が陳腐化したと感じることがあるほど着実に前進しています。ビジネスモデルについて研究すればするほど新しい事業を作ることは難しいことが分かり、内心とんでもないものを始めてしまったという気もしていますが、なんとしてもスタートアップファクトリーという新しい日本のベンチャーの仕組みを成功させたいです。次から次へと新しいものを作り出し、大企業の新規事業を受注生産するような体制を整えることが私の究極の夢です。

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