会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
「ハーバル フレッシュ ソープ (ホワイト)」(洗顔石けん)
(企業家倶楽部2010年6月号掲載)
ハーバルフレッシュソープ( ホワイト) ボックスグループ(埼玉県・さいたま)
昨年8月から発売を開始し、累計5万個を販売した業界初の生石けん「ハーバル フレッシュ ソープ( ホワイト)」(90グラム、3995円)。製造元のボックスグループ(埼玉県さいたま市)は、台湾やタイの健康法を取り入れたリラクゼーションサロン、ルアンルアンを首都圏に10 店舗展開している。高級感漂う容器と17 種類のタイハーブエキスを配合し保湿力に特化した商品開発でヒットを飛ばしている。
これまでの洗顔石けんにはなかったバターのようにやわらかいテクスチャー(質感・手触り)をコンセプトに商品開発が進められ誕生した洗顔石けん「ハーバルフレッシュソープ (ホワイト)」。人気女優が愛用のコスメとして紹介すると、テレビ・雑誌で多く取り上げられ、2009年8月からの発売開始にもかかわらず累計5万個を販売した。白く上品な陶器の器に高級なチーク材の蓋とスパチュラ(化粧へら)のパッケージからは一見、これが洗顔石けんだとは分からない。
ボックスグループ松田芳久社長は、加工が簡単で安いコストで製造できるプラスチックではなく、高級感を出すため陶器の容器に最後までこだわり続けた。日本のメーカーに見積りを依頼すると売価が1万5000円でなければ利益が出ないほど高かった。そこで、タイの5つの工場にサンプルを頼むと1万個作って5000個捨てる程歩留まりが悪かった。中央に穴を開ける独特なデザインは焼き上がると2割縮む陶器では難しいとされた。現在では改良が加えられ、月間5万?10万個製造可能になっている。苦労の甲斐あって機能的で美しいデザインが評価され2009年度のグッドデザイン賞を受賞した。
出張先タイで黒い石けんと出合う
松田社長はリラクゼーションサロンの店舗で使うため、本物の家具を作りたいとあしげくタイに出張を繰り返していた。予定していた仕事が早く片付き、いつもなら帰りの飛行機を変更し、すぐに帰国するところだが、その日はたまたま満席でチケットが取れずに丸々1日時間が空いてしまう。20回ほど出張してきたが、帰りの便を変更できないことなど初めてだったが、仕方がないのでタイ・チェンマイの街を散策することにした。偶然通りかかった旅行代理店の店先に真っ黒な石けんが売られていたのが松田社長の目に止まった。
「黒く光る石けんになぜか惹き付けられた。輝いて見えた」とその時の印象を語る。これを日本に持って行ったら売れるだろうとひらめいた松田社長は、その場で店に飛び込み「これを売らせて欲しい!」と願い出た。「この黒い石けんは何ですか」と訊ねるとタイの奥地、ミャンマーの国境付近に黒い泥が採れる場所があると教えてくれた。タイのプークロン、イスラエルの湖死海、それと火山灰が世界の3大泥と言われており、その1つであるプークロンに連れて行ってもらえることになった。すっかり黒い泥の虜になっていた松田社長は、幸運にも日本での販売権を押さえる事ができた。
しかし、日本の化粧品の許可申請はフランスと並び世界一厳しいことで有名である。販売許可を取るためには全ての成分分析を行い、パッケージに表示しなければならない。法律上、使ってはいけない成分が1つでも入っていると販売は出来ない。そこで、製造元に日本の薬事法を説明し、全ての成分表を提出してほしいと頼んだが、理解が得られなかった。彼らにしてみれば、全ての成分表を出すということは企業秘密のレシピが盗まれてしまう。そう受け取られてしまったのだ。「なぜ、あなたは成分を知りたいのか。教えたら同じものを作れてしまうだろう」と信じてくれない。商習慣、文化の違いと言えば仕方がない。「あなた方の商品を日本で売ることができたら、お互いにとって幸せなことといくら説明しても埒が開かなかった」と松田社長は今でも残念そうに話す。
今までにない生石けんで勝負する
日本の薬事法を何度も説明しても分かってもらえないので、「それならば自分たちで作ったらいいじゃないか」と考えるようになった。メーカーの了解を得られなければ何も出来ないようではビジネスにならない。これまでにいくつもの事業を立ち上げて来た松田社長は簡単には諦めない粘り強さが信条だ。黒い石けんの分析から、黒い泥の正体が何なのか突き止めた。それはモンモリロナイトという「フゥー」と息を吹きかければ舞ってしまうように非常に細かい粒子の泥であった。古くは、ヨーロッパのワイン作りの過程でこのモンモリロナイトが使われていた。足で潰した葡萄を樽に入れ、一緒にモンモリロナイトを入れるとマイナスイオンの力で葡萄の絞り粕やゴミなどの不純物を吸着する。そして樽の底に沈殿し綺麗なワインが出来る。人体に全くの無害で広く使われてきた。この細かい粒子を石けんに混ぜると、同じように毛穴の汚れを吸着し、肌の汚れを綺麗に落としてくれる働きがある。新商品開発はタイでの偶然の休暇がひとつのきっかけにスタートしたのだ。
サンプルのためタイで買ってきた黒い石けんをモニターの人たちに使ってもらうと、風呂場で使っていると水分を含み溶けかけて、好きな形に変えられるくらいに柔らかくなっていたという声があった。
「これだ。今回は生石けんで行こう!」、これまでの石けんは固形と液体のものはあるが、生チョコのように柔らかい形状はまだなかった。生石けんという言葉も高級感があり、目新しい。新しい商品を発売するなら、他と違うことを売りにしなければ生き残れない。
「生石けんをヘラですくって取るようにしたら、他の石けんと差別化ができるだろう」、松田社長のイメージは膨らんでいった。
本場タイのハーブレシピ
業界初の生石けんを掲げる以上は、テクスチャーを徹底的に追究した。目指すは冷蔵庫からバターを出して30分経ったなめらかさ。また、タイはハーブの本場で知られる。そこで、薬草を使ったタイ伝統医学サムンプライに基づく17種類のハーブレシピをランシット大学スラポート医学部長に監修してもらい配合した。さらに、タイ中央部・ロッブリー産の多孔質なホワイトクレイ(白い土)が毛穴の汚れを吸着し洗顔効果を高めている。開発期間2年をかけ、肌に潤い、ハリ、ツヤを与える保湿成分を全体の3分の1まで占める贅沢な生石けんが完成した。
「香りと泡立ちがよく、保湿効果が高い。お陰で化粧のノリもいい」(30代女性)
「石けん業界では、累計3000万個販売した『茶のしずく』という大ヒット商品があるので、年間100万個は必ず達成したい」と松田さんは意気込む。アパレルのユニクロのように商品を企画・製造・販売と一貫してできるSPA(製造小売り)は、お客の声を直接聞くことができ、新商品を開発するチャンスがある。今後も化粧水、美容液と化粧品のラインアップを増やしていく方針だ。「新製品第1号にはあえてホワイトを付けました。一度は断念した黒い石けんも再度挑戦してみたい」と松田社長の夢は終わらない。