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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第42回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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しくじり政治家に学ぶリーダーの引き際

しくじり政治家に学ぶリーダーの引き際

(企業家倶楽部2017年12月号掲載)

1.どこで引くかそれが問題だ

 団塊の世代が一斉に高齢期に突入し、二代目、三代目の活躍が目立っています。

 本誌周知の、ジャパネットたかたの髙田明氏(現在、A and Live代表)は本当に引き際が見事でした。ご子息の旭人氏に社長を譲ると決めたら、いっさい口を出さずにご自身は別の活動をしておられます。

 一方、引き際がまったく無様なリーダーもたくさんいます。代表的なのが、7月29日の民進党の蓮舫氏の引き際だったでしょう。

 都議選で大敗北をした理由は、民進党のまとまりのなさと、蓮舫さん自身のリーダーシップにあるのですが、その辞め方の表現が最大にお粗末でした。

 都議選の敗北に対して「責任をとって辞任します」と先に辞任表明したのは野田幹事長です。7月25日のことでした。その時点で蓮舫さんは「私は小選挙区で鞍替えして出る」という表明でした。

 ところが、たった4日後の7月29日に、民進党党首を降りると記者会見したのです。私はその会見の分析を二つのテレビ局から依頼されて画像を見て、本当に呆れ返りました。顔の表情、動作はまるでタレント並みに派手に動き、最後は笑顔まで出ましたが、言っている言葉が「これがリーダーの言葉か」と耳を疑いました。

 民進党の今後について問われると「次の執行部に託したい」、何かほかの質問には「それは次の執行部がやってくれるでしょう」という言い方で、すでに自分が代表から外れたからあとはもう関係ないと言わんばかりです。肩の荷が下りたのでしょう。笑顔は実に爽やかで、右手をパッと記者団に広げて「質問をどうぞ」と言ったりもしていました。

 泥沼の中に咲く花、ハスの花が蓮舫だと本人がいつか説明していましたが泥沼から抜け出て安堵したという本心が見え隠れしていたのです。

 都議選の前であったらだいぶ結果が違ったのにと多くの人が思ったことでしょう。

2.そもそも自分はどこに適性があるのか

 ビジネスでも政治でも、もともとの適性が肝心です。

 蓮舫氏の場合、平成16年7月民主党から第20回参議院選に出馬して当選しました。当時、流行っていたマニフェストという言葉を文字って「ママフェスト」という造語を作って、子育て経験もあり、少子化対策を訴えていたので、うまく時流に乗った派手な登場だったのです。

 そのあと平成21年に予算削減のための仕分けの作業が始まりました。テレビドラマの必殺仕掛人をまねて「仕分け人」ということばが流行。そこでも政治家としては、ずぶの素人のようでした。

 当時、多くの科学者がその研究に闘志をかたむけていたスーパーコンピューター(スパコン)の研究開発に関して「世界一になる理由はあるんですか。2位じゃダメなんでしょうか」という意味不明な発言をしたのです。もちろん、これに命をかけてきたノーベル賞級の研究者たちが黙っているわけがありません。「1位を目指すから2位になれるのであって、最初から2位じゃダメなのかという研究を目指してはいない」と大変な逆襲でした。

 日本のように国土が狭いところで世界に評価してもらおうとしたら、科学分野は大きな知的財産であると同時にドル箱です。そこで「2位でもいいでしょう」とは何事か。素人の私が聞いていても、あまりにも幼稚で話にならないと感じました。

 そのあとです。平成22年「VOGUE NIPPON」11月号の156~161ページを開けた私は「これは誰?」と目を疑いました。国会議事堂を背景に、アルマーニの高級スーツを着た彼女が写っていたのです。頼まれてモデルをやったので、これに対しては謝礼が出ていないと彼女は記者会見で言いました。

 しかし、当日着た洋服は彼女へのプレゼントとなったようです。どこの世界に国費で運営されている国会議事堂をステージとして、ファッション雑誌のモデル替わりをやる人がいるでしょうか。公私混同とか判断の甘さが日本中に知れ渡りました。

3.パブリックな場ではロジカルに語る

 客観的に物事をとらえて、聞き手に分かるようロジカルに話せるか。これは私の38年間にわたるビジネスリーダー研修でも常に第一にしていることです。

 国会のやりとりでロジカルプレゼンができない政治家は、本当に困ります。北朝鮮のミサイル問題で日本中が戦々恐々とし気持ちを引き締めていることは確かです。しかしいくらなんでも、森友学園の国有地払下げ問題について、安倍首相に「なぜこんなに国民の関心が高いとお考えでしょうか」と質問し、逆に安倍首相から「具体的に批判してください」と反撃を受けました。

 すると「北朝鮮がミサイルを飛ばそうとして国民の生命が脅かされている時に、大阪の私立学校が優先される政治の論理がさっぱりわからない」と発言したのです。これこそ論理的でないというしかないでしょう。ミサイルと大阪の私立学校のどっちが優先かという議論は、誰かに対して犬と猫はどっちが好きかと聞いているようなもので、非常に主観的であり、感情的であり、論理的組み立てになっていないのです。

 どちらが大事かと比べるならば、もう少し次元の同じものを比べないと本人の議論の力が低いことを露呈するだけになります。

4.組織の順列キープを

 誰に続いて引き際を決めるか、リーダーの引き際は実に難しいものがあります。これまで、サントリーの創業者の鳥井信治郎氏、松下幸之助氏、先ほど触れたジャパネットたかたの髙田明氏、小泉純一郎氏など、引き際が本当に見事な経営者リーダーは何人もいました。そして、その人たちは辞めてからも引き際の立派さゆえに、多くの人の心をとらえています。

 ところが、引き際を間違えると「結局あの人はリーダーの器ではなかったのだ」ということに遡って判断されます。蓮舫さんがその例です。都議選の責任をとって野田幹事長が辞めると言ってから、子供で言えばたった四つ寝ただけなのに29日に自分も辞任すると表明したのです。

 トップに人望があり、そのトップが辞めたらその人についている多くの部下たちが辞めるというのはよくある話です。殿様が切腹したら臣下も切腹したという江戸時代の例もありますから。

 ところが彼女は逆をやったのです。幹事長が辞めたら自分も辞めた。これは全くリーダーの行動ではないでしょう。この行動が次の前原氏の活動に影響を与えないことを祈るばかりですが、前原党首自体もすでにスタート人事で大きく躓いています。引き際が立派でないと、次の人もリレーのバトンが受け継ぎにくいということでしょうか。

 事業をスタートするのは大変です。けれど閉じるのもまた大変。閉じずに素晴らしい上り坂の勢いをもって、次のリーダーに手渡すことができること。蓮舫さんは私たちにそれをよく考えることの大切さを教えてくれたようです。

Profile

佐藤綾子(さとう・あやこ)

「日経トップリーダーonline」はじめ連載4本、著書186冊。「あさイチ」(NHK)、「ビートたけしのTV タックル」( テレビ朝日) 他、多数出演中。24年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、入学は随時受付中。

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