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【野坂英吾の経営道場】下 /トレジャー・ファクトリー社長野坂英吾

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

時代を捉え進化し続ける企業へ

(企業家倶楽部2018年12月号掲載)

ゼロから総合リユースショップを立ち上げ、東証一部上場まで果たしたトレジャー・ファクトリー野坂英吾社長が、自身の経営術について明かす『野坂英吾の経営道場』。初回は「再現性と継続性」、前回は「成長企業のマネジメント」をテーマに語ってもらった。最終回となる今回は、「次世代の育成」に焦点を当てる。社員がやりがいを感じつつ成長出来る環境作りや、若い企業家へ向けたメッセージを伺った。

 
問題の本質を捉えたルール設定を

 会社を経営していると、様々な問題に出くわします。日々の生活に置き換えるとしたら、家の鍵をよく忘れる人がいるとしましょう。多くの人は「鍵をよく忘れる」という事実にフォーカスしがちですが、ここで重要なのは「なぜよく忘れるのか」という理由まで深掘りすることです。鍵を置く場所が毎日違うことが原因なのであれば、置き場所を決めなければなりません。鍵を忘れないような仕組みを作り、ルーティン作業にすることで同じミスを防ぐのです。

 家の鍵であれば、10回、20回忘れようと生きていけますが、経営においては基本的なミスが頻発することは死活問題です。大勢の社員を導いていくためには、今持っている企業としての能力をいかに発揮出来るかということに注力する必要があるのです。

 ただし、全てマニュアル化すれば良いというわけではありません。全ての物の置き場所を厳密に決めてしまうとルールに縛られすぎてしまい、新たな使い方を創造する提案も出なくなってしまいます。ここは外せないというポイントを見極め、そのポイントはしっかりとルールを確立し、それ以外の部分では自由度を残して新しいアイデアを生み出せる余地を持たせた方が良いと思っています。

 自由にアイデアを出せる余地を持たせることは、社員が能動的に発想できる環境を作ることに繋がります。こうすることで、より実態に即した環境整備に繋がっていきます。1から10まで全て決まっていると判断に迷うことはありませんが、工夫できる余地が限られてしまい、社員がやり甲斐を感じられなくなってしまいます。基礎的な部分は固めつつ、工夫・改善のアイデアが出る環境づくりのバランスを見極めて、仕組み化することが大切です。
 
一人ひとりが意思決定者の意識を持って行動する

 会社で何か検討する際、「社長や上長の意見はどうか」という視点で物事を考えてしまう社員もいるかと思います。そのような考え方では、検討対象の全体像やポイントを自分なりに仮説を立てた考えからは乖離しており、本当の意味での顧客視点とは言えません。求められる行動は、「自らが意思決定する立場だった場合の最良の選択」を導き出すことです。

 社長や上長の判断を真似しているだけでは、イレギュラーなケースやスピーディーに物事を進めなければいけない場面で対応しきれなくなってしまいます。主体的に考え、意思決定するための準備や行動ができる人材を育成することが大切だと思います。

 自身が最終的な意思決定をする立場の場合も、いつも直接答えを示すことが適切とは限りません。全てを自分自身で決めてしまうのではなく、その社員の力量に応じた事案を選定し、意思決定のプロセスをトレーニングすることで部下の能力を引き出すことも重要ではないかと思います。

 例えば、会社の社内システムを外部で導入することを検討する際、検討対象を選定し、自社の譲れない点を踏まえ、それぞれの長所と短所を洗い出して、どの選択が最良なのかを判断する場面があったとします。その際には、社内の提案者にどのような理由でどのプランが自社で導入する上で適しているのかの考えをまとめた上で提案してもらうことが重要であると思います。

 意思決定する際に注意すべき点としては、「少なくとも、これさえやっていれば良い」「一度成功したから次もこれを選ぶ」と考えてしまうことです。仮説をいくつも設定することや、環境変化によって打つべき方策が異なることを意識しておくことが大切です。事案の重要度合いを判断し、一部権限委譲していくことで、提言できる人材を育てることが企業としての厚みに繋がっていきます。
 

新事業は想定外の連続

 新しい事業を始める際は、目指す姿を見据えることが重要です。いつまでに何を実現するのかという目標を明確に描き、ブレずに道筋を立てていくことで目指す姿までのプロセスが見えてくるのです。しかし、初めての取り組みゆえ100 %の段取りというのは難しいことです。可能な限りシミュレーションを重ねますが、想定外のことは山のように起こってきます。

 当社でも2年前の2016年から、初の海外出店ということでタイ・バンコクに店舗を構えましたが、試行錯誤の連続です。風土や文化、売れ筋商品や、働くことに対する価値観など、国が違えば現地の人と日本人での「当たり前」が異なります。日本で出来ているのだから、タイでも通用すると思うのは大きな間違いです。

 売れるものが違えば利益率も変わってきます。一年中暑いタイでは、半袖の服が基本です。衣料品はコートやジャケットなどのアウターを売らないと単価は上がりませんが、タイでは半袖の服を中心としながら衣料品の売上げを最大化する取り組みが求められます。また、衣料品に求めるブランドへの価値や品質も日本とは異なります。消費者の購買動向を細かく分析しながら、その国でのビジネスモデルを見出すのです。

 更にいえば、リユースに対する感覚も国民によって異なります。リユースで洋服を買うという習慣や意識は、タイではまだ確立出来ていませんので、そういった文化を作っていかなければなりません。

 日本は、これから人口減少社会の中でビジネスをしていくことが想定されます。ですから、打つ手が限られてから動き出すのではなく、今のうちからトライアンドエラーを繰り返しながらも新たな市場を切り拓いていくことが求められます。現在は国内のマーケットも伸ばせる余地がありますが、常に先を見通し、海外でもビジネスを確立、拡大していくことが大切なのです。
 
出来ることの変化が新たなアイデアを生む

 今やAIの進化やブロックチェーンの発達などの技術革新によって、様々な“世の中の当たり前”が変わって来ています。私自身も海外展開や新規事業を通して、今までの事業環境の前提として考えていたことや、企業経営をしていくなかで当たり前と思っていたことが大きく変化してきています。環境の変化によって、企業の可能性や、出来ることの幅も大きく広がってきたことを感じています。

 これから事業を始める起業家の皆さんに伝えたいのは、自らが取り組むべき経営課題を見つけ、それを成り立たせるだけでなく、常に頭の片隅には、人々の生活を豊かにすることや、企業活動が円滑に行われることに貢献するという大義を持ち、永続的な成長、発展を続けていけるよう、ブレずに経営していってほしいということです。

 色々と話しましたが、私たちも次世代の経営者から学ぶことが多くあります。時代の変化の中にいるのは、我々も同じです。

「自分たちのビジネスは完成しているので現状維持で良い」ということは決してなく、時代に合わせて常に変化していかなければなりません。絶えず変化をし続け、世の中に必要とされる会社を引き続き目指していきたいと思います。

P r o f i l e

野坂英吾(のさか・えいご)

1972年神奈川県生まれ。中学2 年生の時に起業を志し95 年トレジャー・ファクトリーを創業。現在、総合リユースショップ「トレジャーファクトリー」、洋服・服飾雑貨を扱うUSEDセレクトショップ「トレファクスタイル」、古着のアウトレット「ユーズレット」、スポーツ・アウトドア用品のリユースショップ「トレファクスポーツ」を展開。07 年12月東証マザーズに上場。14年12 月東証一部に指定替え。15 年第17 回企業家賞受賞。

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