会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2018年4月号掲載)
「日本の宝になるのに、なんでやめるんだ」‐ソニーが06年に旧型AIBO(アイボ)の生産を中止し、ロボット部門を解散した時、多くのマニアは悔し涙にくれた。筆者もその1人だった。がっかりした理由は唯ひとつ。”犬型ロボット”の未来を断ち切ってしまったからだ。
それから12年。ソニーは「失いかけた資産」にようやく気付いたのだろう。「感動や好奇心を刺激するのがソニーのミッション」と平井社長(当時)は言い放った。よくぞ言ってくれた。
かつての犬型AIBOより丸みを帯び、賢くなって帰ってきた。全身が電子部品の塊という。AI(人工知能)を駆使して、飼い主に好かれる「動き」を自ら見つける。呼びかければ返事はするし、判断が難しい時は鳴き方も仕草も変わる。子供の見守りや独居高齢者の認知症にも対応する。価格は約20万円で「本物の子犬」を買うのとほぼ同じだ。
こうした機能に、ファン層として付け加えたいのは「番犬」の役割だ。これはたぶん可能だろう。怪しい訪問者(押し売り)などが来れば、「おじいちゃん、ダメだよ」と袖口を引っ張って合図する。ちょっと改善すれば「オレオレ詐欺」の相談役にもなる。
実は旧型AIBOが生産中止になる前に「AIBOの頭脳にスマホ並みの情報やニュースを放り込んで、高齢者のために金融取引を指南する」という構想を練ったことがある。新型AIBOなら、そんな機能も夢ではない。
日本の高齢化は急速に進んでいる。そんな中で、犬型ロボットは相棒として頼りになるし、かわいいし、死ぬこともない。ペット・ロボットは確実に普及するに違いない。
ただロボット業界の主戦場は明らかに「ヒト型ロボット」だ。ヒト型ロボットの動きは昔に比べ細やかだし、喋りも日本語と英語のバイリンガルだったりする。
トヨタは17年末に手に乗る小さな会話ロボット「キロボミニ」を発売した。相談事や暇つぶしの会話に付き合ってくれる友人だ。コンセプトはAIBOに近いが、これはヒト型だ。
ヒト型の事例は枚挙にいとまがない。ソフトバンクの「ペッパー」、ホンダの「アシモ」、シャープの「ロボホン」、富士ソフトの「パルロ」、アイネスの「ロボ」、ユニファの「みーぼ」‐などだ。人工知能が搭載され、会話のうまいロボットが多い。ホンダのアシモなどは高度な二足走行が可能だ。
一般的には犬型のようなペット・ロボットは高齢者に人気がある。ペット型なら飼い主に逆らうことはないだろうが、ヒト型だと人間の言うことを聞かない場合はどうしよう、と心理的プレッシャーを感じるかもしれない。
ヒト型ロボットが「感情」を持つ可能性があれば、うれしいどころか不安が先に立つ。どんなに小さなロボットでも映画に出てくるようなパワーを持つ「悪いロボット」に変身する恐れはないのか。
東京工大の森名誉教授によると、人間に近いヒト型ロボットは親しみは増すが、ある時点で人間が不気味と感じる「谷」が出現するという。
その「不気味の谷」を大真面目に議論する機運が生まれている。17年11月、スイスで開かれた国連の専門家会議で、あるNPO法人が、こう訴えた。AIの進化に対して「殺人ロボット」を規制するため、何らかの行動が必要だ、と。
AIを駆使した将棋ロボットや囲碁ロボットは世界の名人級を打ち負かす実力を身に付け始めている。ただし、この「機械ロボット」たちには「感情」はないと棋士たちは言う。となればしばらく心配はなさそうだ。
やはりヒト型よりは犬型のペット・ロボットの方がいい。ペットなら「敵」になるどころかソニーが名付けた「相棒」となる。つまり仲間だ。でも犬型ロボットに噛みつかれたらどうする?ややこしい話はまたの機会にしよう。
和田昌親 日本経済新聞社客員 東京外国語大学卒、1971年日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。
Profile 和田昌親(わだ・まさみ)
東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。