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【トップの発信力】佐藤綾子のパフォーマンス心理学第43回

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

企業家倶楽部アーカイブ

男の「友情」の活かし方

(企業家倶楽部2018年1・2月合併号掲載)

1.本物の男の友情には リスペクトがある

 昔から女性に比べて、男性の友情は結束が固いものだと日本では言い習わされてきました。確かに友情について書いた小説家は性別で見れば男性の方がたくさんいます。とくに「友情」という本を書いた明治の文豪夏目漱石は、実際に素晴らしい心の友を持っていた事でも知られています。

 漱石は実業家で政治家の中村是公(なかむらよしこと)と大学予備門(後の一高)時代、部屋が同室で高さの低い小窓を前に、二人が肩と肩をくっつけるほど窮屈な姿で机を並べていたことが知られています。

 是公は周囲では「ぜこうさん」と呼ばれ、のちに満州鉄道(満鉄)の総裁になったことでも有名でした。

 彼らはこの青春時代から、最後、漱石が亡くなるまでずっと固い友情で結ばれ、漱石の死亡後も季節になると必ず次男の伸六が『父、漱石とその周辺』で書いたように死ぬまで「お前、お前」と呼び捨てで付き合っていたと言われています。

 こういう親しさとともに、今も生き生きと経済界でよく語り継がれているエピソードではサントリーの鳥井信治郎氏と松下幸之助氏の友情が有名でしょう。

 まだ駆け出しだった松下幸之助氏が事業を起こした時も失敗した時も助言したり、資金を工面してあげたのが鳥井信治郎氏であり、最後まで二人は交友を続けていました。生涯続く男の友情(女も同じ)は、お互いの人格や仕事をリスペクトしてのことです。

 このような男の友情は真に心からお互いが愛情や尊敬、畏敬などで結ばれている間柄です。

 一方、そんな形でなくてもなんとなく馬が合うという男の友情があります。さらにこれと別に、友情をしっかりと演出する場合があります。

2.Donald & Shinzo

 安倍晋三首相がトランプ大統領の当選前も当選後もホワイトハウスやゴルフ場で親しく語り合っている写真を多くの日本人が目にしていることでしょう。二人はお互いを「Donald」「Shinzo」とファーストネームで呼びます。これが真の尊敬や畏敬や愛情で結ばれているかどうかは本人以外知る由もありませんが、馬が合うことは確かです。

 その一番面白い例が、2017年11月5日埼玉県川越市の霞が関カントリークラブのゴルフの場面でした。

 普通ならば18ホールですが、この日は9ホールにして、いつもカートばかりのトランプ氏が珍しく9ホール全部足で歩きました。その時のスタートでハッと目を引いたものがあります。二人がお揃いでかぶっていた白いキャップです。このキャップの画像をよく拡大して見ると、そこには「DONALD & SHINZO MAKE ALLIANCE EVEN GREATER」と刺繍が施されていました。名前は既に糸で縫い込まれていたのです。

 そこへさらに二人は太い黒のマジックでお互いの名前をサインしてから、ラウンドを開始しました。

 ここで言う「alliance(同盟)」はアメリカと日本の同盟でもあり、二人の友情の同盟でもあります。この文言を用意して待ち構えていた安倍首相の心配りは憎いものがあります。

 そしてこんな調子でスタートしたラウンドは、なにか良いことがあればもっとニコニコするという結果になって現れます。

 実際、二人揃ってパーをとったホールではトランプ大統領も拳骨を突き上げ、安倍首相も拳骨を突き上げて、両方でその拳骨をタッチしました。満面の笑みです。

 終わってすぐトランプ大統領がツイッターに書いた言葉は「とても素晴らしい時間だった」ということ。翌日、インタビューを受けた時も「We like each other(私たちはお互いが大好きだ)」と言っているのです。

 このにこやかな顔と、お互いの名前をサインした帽子と、ラウンド中の大きなはしゃぎにも近いような動作は日本ばかりではなく、電波に乗って世界中に発信されました。あの二人がなかなかいい感じで友情を持っているというメッセージになったでしょう。これは「同盟は強固だぞ」と周知させました。

3.リーダーのセイリエンス効果

 トップが友情で結ばれていれば、争い事やその他政治的に難しい話でも二人の結束が好影響を与えることがいくらでもあり得ます。

 揃いのキャップとともにトランプ大統領が「晋三と一緒にいたら楽しいんだ」というメッセージは世界に対して安倍晋三首相の存在をもアピールしたことになりました。

 さらにごくごく最近、北朝鮮が何があってもやめられない止められないというわけで繰り返すミサイル実験の問題についても、トランプ大統領は安倍晋三首相に電話をして、「晋三、君がここにいないのは残念だ」と二人で話し合いをしたいというニュアンスの電話を入れています。この電話中の姿と言葉も、電波に乗って世界中に発信されました。

 なにか一丁ことがあった時に「ああ、あの人がここにいたら」と思うのは本当に友情のある相手に対してです。でも実際にそう思っていてもいなくても「あなたがここにいないのは残念だ」と言われたり、揃いのキャップをかぶって揃いのジェスチャーでゴルフをしたら、やはり両者は外見上の見せかけだけではなく本当にだんだん親しくなってきます。

「好きだ」「好感をもっている」という心情で会う時間が何回もあればあるほど、二人の間にはプラスの化学反応が起きていくわけです。

 私のパフォーマンス心理学ではこれを「セイリエンス効果」と呼びます。「セイリエンス」は地図上の岬や小さな半島、突出部分です。つまり、常に目に見えていると仲良くなるという効果です。

 セイリエンス仲間は、何か片方がやりたいと言った時に、もう片方が反対したりせずに「そうですね」と賛同してくれる確率が上がります。

 男の友情は時には途中で決裂したり、嫉妬心が働いて知らない間に片方が相手を裏切っていたりと危険なこともたくさんありますが、真の友情であれ、通り一遍の友情であれ、トップの友情がある方が両者の絡む仕事がうまくいくには違いありません。良い化学反応が起きるからです。

 ビジネスリーダーは、自分の仕事で成功しようと思った時、あなたや私の仕事の相手として人格やイメージも良く、リスペクトされていて自分にふさわしい人は誰なのかと常に考え、その人との友情を持つ、あるいは友情を持っているということを発信していくことは常に大切だと思われます。

 訳は色々ありますが、江戸時代の柳生家家訓にいわく、

   小才は縁に出会って縁に気付かず、

   中才は縁に気付いて縁を生かせず、

   大才は袖すり合うも縁にする。

 今年のトップの課題にしませんか。

「類は友を呼ぶ」は有名なことわざです。同じような価値観や立場の人が仲良くなることです。もっと厳密に言えば昔から「馬は馬づれ牛は牛づれ」と言います。良き友を得たいと思っても人は自分のレベルの人としか付き合えない、というわけです。友情にはそういう厳しい条件があることは承知するとしても、やはり優れた人に会ったらまずは「ご縁」を創りましょう。

Profile

佐藤綾子(さとう・あやこ)

「日経トップリーダーonline」はじめ連載4本、著書186冊。「あさイチ」(NHK)、「ビートたけしのTV タックル」( テレビ朝日) 他、多数出演中。24年の歴史をもつ自己表現力養成専門の「佐藤綾子のパフォーマンス学講座 」主宰、入学は随時受付中。

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