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【編集長インタビュー】リブセンス 村上太一社長

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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社員が実力を出せる職場環境を作りたい

社員が実力を出せる職場環境を作りたい

(企業家倶楽部2013年6月号掲載)

「趣味は特になく、仕事が唯一の趣味」と自他共に認める仕事の虫だという村上太一社長。友人3人と起業したリブセンスを、創業から7年で売上高22億6400万円、経常利益11億1300万円という高収益の会社に育て上げた。注目の最年少東証1部上場社長に、創業のきっかけ、企業理念、将来の夢について聞いた。 ( 聞き手は本誌編集長 徳永健一)

ビジネスコンテストで優勝

問 大学在学中の19歳のときに起業したそうですね。創業のきっかけは何だったのですか。

村上 小学生のころから将来は社長になりたいと強く思っていました。直接のきっかけは高校3年生のときに出会った友人です。当時彼は株式投資の経験があり、ビジネスに詳しかった。そこで私は彼に「大学に入ったら一緒に会社をやらないか」と持ちかけました。すると彼は「ああ、やろう」と答えてくれました。これがリブセンス創業のきっかけです。

問 学生時代で一番印象に残っている出来事は何ですか。

村上 高校の文化祭で副委員長をやった経験は大きかったです。合計1万5千人ぐらいが来る文化祭で、仕事が大量にありました。様々なプロジェクトの進み具合を見ながら、スタッフのマネジメントをすることは大変でしたね。どうすれば人は自分に付いてきてくれるのか、どうすれば人は文句を言うようになるのか、ということを知る良い機会だったと思います。

 スタッフが苦戦しているとその作業を引き受けて、一晩で終わらせると一目置かれるようになりました。まず自分がやってみせるということを意識していました。

問 早稲田大学に入学し、ビジネスコンテストに応募したそうですね。

村上 はい。優勝特典がオフィスの1年間無償貸与ということだったので、先生に自分の熱意をアピールしました。もちろんビジネスモデルも必死で考えました。ビジネスの基本は「世の中の不便をなくすこと」だと思い、身のまわりの不便なことを探して見つかったのがアルバイト探しでした。私がアルバイトを探そうと思ったとき、飲食店やコンビニの前には募集のポスターがたくさん貼ってあるのに、ネット上には求人が全然なかったのです。これは何故だと思って調べると、原因は求人の掲載料にあるということがわかりました。そこで、この不便さをなくせるようなビジネスモデルを考え、プレゼンした結果、ビジネスコンテストで優勝を勝ち取ることができました。

問 ご両親は起業を応援してくれましたか。

村上 応援してくれました。自慢の両親で、母は「自由に好きなことを学べ」という教育方針で、あまり束縛するタイプではありませんでした。父は仕事に一生懸命な人で、家に帰ってくるのが夜中の3時になることも日常茶飯事でした。平日はほとんど会いませんでしたが、休日には一緒にキャッチボールや工作をしてくれました。最近の父は私とビジネスの話をしたがっていて、私がテレビ番組に出演したときは「今日のインタビューはなかなかだったな」とコメントをくれます。

自分の頭で考えることが重要

問 経営する上で心掛けていることは何ですか。

村上 当社は「多様性」を大切にしています。行動指針はあえて作りませんでした。もちろん「発想」や「徹底」という価値観を共有するのが前提ですが、行動指針はあえて制限していません。それは個性を大切にする組織の方が、結果的に強い組織になると思うからです。多様性の中で個々人が実力をしっかり発揮できるような場を作っていきたいです。

問 一人ひとりの当事者意識が大切なのですね。

村上 重要なのは本で読んだテクニックではなくて、自分の頭で考える事です。確かに本を読むことは大切なのですが、規模や時代によっても正解は違いますよね。完全にマッチするアドバイスもなければ、一つの言葉で表せるものもないと思います。「この人が言っているから」ということではなくて、結局は自分で考え続けることが大切です。

問 現在の課題は何でしょうか。

村上 昔は事業をいかに立ち上げるかということでしたが、今は立ち上げる人材をどれだけ生み出せるかということですね。優秀な人が集まって、お互いに事業立ち上げのノウハウを提供し、どんどん事業ができていくような環境を作りたいです。あとは、考えが甘いところだと思います。他の先輩経営者に比べると、精神的な未熟さを感じてしまいます。

 私が尊敬している経営者の方はみな、目線が自分や組織ではなく「社会全体」です。私も以前よりは社会全体を見ることができるようにはなってきましたが、先輩経営者に比べたら私はまだまだです。

問 ビジネスは価格の設定がとても重要だと思うのですが、価格はどのように決めているのですか。

村上 安ければ安いほどよいと思っていたので、今までは価格は圧倒的に安いラインで設定していました。でも一方で、お客様にサービスを広めるにあたって、広告宣伝費やシステムの開発費が必要になってきます。今までの価格設定は少し安すぎたということで、昨年から若干値上げしましたが変わらずに支持頂いています。

 規模を大きくするに当たって、広告宣伝費を調達できるぐらいの価格に設定する必要があるのかなと考えています。私の場合「お客様にとっていいものを」と考えすぎてしまうので、とにかく安くしてしまいがちです。しかし適切な価格をもらわなければ、事業規模が小さく収まってしまい、結果的にお客様のニーズに応えることができなくなってしまうのです。

問 売上に対しての利益率が高いというのがリブセンスの特徴ですが、この理由はどこにあるのでしょうか。

村上 ジョブセンスというブランドの知名度が上がったことが大きいと思います。「ジョブセンス」と検索して入ってきてくれるユーザーが着々と伸びているのは、ジョブセンスがひとつのアルバイト情報サイトとして認知されていることを表していると思います。ユーザー側からどんどん来るようなしくみができているので、広告宣伝費が低くても集客・マネタイズできているというのが大きな理由です。

 あとは、お祝い金を提供した方がリピーターとして戻ってきてくれていることも理由の一つかと思います。

逆境をポジティブに考える

問 学生サークルのような雰囲気から、社内の意識が変わったのはいつ頃からですか。

村上 学内のインキュベーションセンターから高田馬場へ、オフィスを移転したときですね。オフィスが変わって気が引き締まりました。夜にポテトチップスを食べながら仕事をしたり、イスで仮眠を取りながら作業をしたりすることがなくなりました。それまでサークルのような感じでやってきたのが「会社になったな」と実感しました。

問 逆境やスランプのときはどうしていますか。

村上 これが転機になってうまくいったときのことをイメージします。苦しかったとしても「この苦しさをどうやってバネにしようか」と考えています。そういう意味では私はポジティブ思考かもしれないですね。世の中、死なない限りはどうにかなると思っています。確かにへこむときもありますが、あまり落ち込むタイプではないようです。

 そういえば、最近のことです。私は空気が読めないのではなくて、あえて読まないようにしているのですが、スタッフに「村上さんって空気読めないですよね」と言われてしまいました。そのときは少し落ち込みました(笑)

問 自分の性格を分析するとどう思いますか。どんなタイプの経営者でしょうか。

村上 私はどちらかといえば慎重派だと思います。やはり企業家はそれぞれ特徴があると思います。一つの方向を決めて突き進む人や論理的な思考を重ねてものごとを慎重に進める人など。私は自分の中で「これはいける」という確信が7割ぐらいに達しないと、新規事業には乗り出さないですね。新規事業を立ち上げるときは、仮説だけで入っていって、途中から数値要素が入ってくるという感じです。

問 物事を始める前にスケジュールを綿密に立てたり、「段取り魔」であるとお聞きしました。

村上 私の性格で、仕事の進み具合が気になってしまうんですね。どうしても確認の頻度が多くなってしまいがちです。たとえば一ヵ月後が納期の仕事があったら、3日おきに進捗状況を聞いていくというような調子です。ただ細かく聞きすぎるとスタッフの当事者意識が薄れてしまうので、なるべく抑えるようにはしています。

全員が実力を発揮できる場をつくる

問 現在、村上社長はどのような役割を果たしているのでしょうか。

村上 私の時間の大半は、取材やIR(投資家への広報活動)、1対1での責任者とのミーティングに割いています。一週間ごとに「最近どう?」と悩みを聞いていますね。私自身が事業を動かすということはかなり減ってきています。自走してもらいつつ、そのスピードをより上げていくためのアドバイスをしています。

問 経営者としてのバランス感覚はどこで身につけたのですか。

村上 創業時はあまりなかったと思います。最近になって、自分さえ頑張れば成果が出るわけではないということがわかりました。そういう意味では、少し大人になってきたのかもしれません。大切なのは、自分以外の人が実力を出せる環境を作れるかどうかということです。

問 自分一人の努力だけでは会社は成長しませんよね。

村上 はい。でも注意しなければいけないのが、逃げの意味での「現場任せ」になってはいけないということです。すなわち、初めから自分がいなくても回るような体制を作ろうとしてはいけない、ということです。初めから自分がいなくてもよいという状況は、単に自分がいる意味がないだけです。そうではなくて「自分がいなくてはダメ」というステージを作ってから「自分がいなくても回る」というステージに移行していくことが大切だと考えています。

問 その他に気をつけていることはありますか。

村上 避けなければいけないのが、ベクトルがお客様ではなく社内へ向いてしまうこと。ある社員に「何がやりたい?」と聞いて、「社内の調整役になりたい」などの答えが返ってきたら、これは危険なシグナルだと思います。ベクトルはいつも外に向いていないといけません。

問 そういった「人を見分ける感覚」はどのように養ったのですか。

村上 私はまだ26歳とはいえ起業してから7年間に渡って、経営者をやっているので、その経験からだと思います。もちろん人事担当は社内のことを考えたほうがいいと思うのですが、事業の責任者が社内に向きすぎるのは良くないと思います。

問 村上社長が最近関心を持っていることは何かありますか。

村上 AKBは一つの生態系だと思います。AKB成功の裏には4つのキーワードが隠されていると考えています。まず、競争と見える化。順位が明確にわかり、競争を起こす。そして、確変(大当たりの意味)と拡大。じゃんけん選抜が確変に当たります。じゃんけん選抜というのは会社でいえば、若い社員が重要な仕事を任されるようなものです。これは組織においては「挑戦」だと思います。やはり組織には新規事業という挑戦が必要なのです。最後に拡大です。意識的に規模を拡大することで、組織の自走を促すことができるようになります。「会いにいける」というシステムはこれらの4つを実現するための手段の一つであり、重要なのはAKBが一つの「生態系」に成長したことだと思います。

自分の価値観を明確にする

問 リブセンスのスタッフはどんな人たちが働いていますか。

村上 個性豊かなスタッフが集まっています。非常にアクティブな者もいれば、プログラマーで「パソコンばかりやっています」という者もいます。でも全員に共通しているのは「すばらしい人徳を持っている」というところですね。当社のスタッフはみな、地道に努力をすることが習慣となっている人ばかりです。

問 創業経営者の方は休みなしで働くハードワーカーが多いですが、働き方についてはどう考えますか。

村上 私も昔は「寝ずに仕事しよう」という考え方でしたが、最近は徐々に変わってきました。長い時間働くことよりも、仕事の集中を高めることを重視しています。ハードワークばかりの組織では、長く続かないからです。私の場合は仕事が趣味なので土日も働くことがあるだけで、これを社員に押しつけようと思ったことはありません。最近、他の企業に訪れたときに驚いたことがあります。その企業では社長室がスモークガラスで覆われていました。理由をたずねると、「社長が残っているのがわかると帰りづらいからだ」と言われました。リブセンスの場合、私が残っていても社員はお構いなしに帰ってしまいますね。意識したことはないのですが、他の企業を見ると当社の企業文化に気付くことがありますね。

問 今でも村上社長が面接を行っているそうですが、社員の採用面接ではどのようなところを見ていますか。

村上 奇をてらったことで済ませていないか、テクニックに走り過ぎていないか、といったところをみています。事業責任者の採用面接では、あるケースに対する改善点をその場で言ってもらいます。

 たとえば「もしあなたがタクシー会社を経営するとしたらどうしますか」などです。これが非常におもしろいのです。これが食品会社であれば「質を上げる」という答えも通用するのですが、タクシー会社であれば「質を上げる」という答えが必ずしも通用するとは限りません。今のところ一番良かったのは「すべての乗車履歴をデータに入力して、タクシーを走らせるルートを最適化するシステムを作ります」という答えですね。運転手も稼げる仕組みなので運転手が集まりやすいというアイデアでした。

問 村上社長のように若くして起業する人が増えてくると、日本はもっとおもしろくなると思うのですが、ぜひそのような若者へメッセージをお願いします。

村上 起業する人が結果的に増えるのはうれしいですが、起業を積極的に勧めようとは思いません。なぜなら一番大切なのは「自分は何がやりたいのか」ということだからです。自分がやりたいことを明確にして、それを達成する手段として「起業」があるのです。だから若い方へ向けて言いたいのは自分の価値観を明確にしようということですね。

問 自分の価値観を明確にするには、普段からどのようなことをすればよいですか?

村上 とにかく感覚を言葉にすることです。自分が積極的にとった選択について、なぜその選択をしたのか、という理由をすべて言葉にしてみるのです。たとえば「楽しい」と感じたら「なぜ楽しいと感じたのか」ということを考えてみてください。感情をひとつひとつ言葉にしていくと、自分の大事にしたい価値観や軸が見えてくると思います。これを早い段階でやることに越したことはないです。

会社が一番の作品

問 村上社長にとっての「幸せ」とはなんですか。

村上 まさにリブセンスの経営理念である「幸せから生まれる幸せ」です。人を幸せにすることが私の幸せです。これが私のいちばん大切にしている価値観です。

問 最後に、将来の夢について聞かせてください。

村上 誰もが使うような、なくなると困るような、そんなサービスを作ろう、というのが大前提です。サービスの質を高めることももちろん重要ですが、書籍「ビジョナリーカンパニー」にあった、会社自体が一番の作品であるという考え方に共感します。

 最近では、サービスが生まれ続ける会社ができるかという、経営者的な思想が強くなってきました。どういう風土を作って、どういう会社を残せるか。基本的なことですが、地道にやり続けることが重要だと思います。



p r o f i l e

村上太一(むらかみ・たいち)

1986 年生まれ。2005年、早稲田大学政治経済学部に入学後、ビジネスプランコンテストで優勝。2006 年に大学1年生でリブセンスを起業。2009年に大学を卒業すると、2011年12月、史上最年少となる25 歳1ヶ月で東証マザーズに上場。2012年10月には東証一部上場。

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