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【地球再発見】vol.15 日本経済新聞社客員 和田昌親

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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えっ、70 歳定年制?

(企業家倶楽部2018年8月号掲載)

 

「アラ古希」という言葉を作った人がいる。OLや若者の間で使われる「アラサー」(30前後)から始まり、「アラフォー」(40前後)となり、それが高じてアラ還を通り越してアラ古希になったらしい。古希はちなみに70歳を意味する。

 すべては少子高齢化が背景にある。日本は世界平均の2倍のスピードで高齢化が進んでいると言われる。もちろん高齢化は生まれてくる子供が少ないからであって、人口減と同時進行だ。

 そういえば、最近は小さな子供を3、4人連れている夫婦がめっきり少なくなったと思う。主流は1~2人。これでは人口は増えない。

 日本の人口が1億2800万人をピークに減り始めたのは2010年からだが、いわゆる「生産年齢」(15~64歳)の人口減はその前から始まっている。

 政府などのデータによると、90年代前半の「生産年齢」人口は8700万人。それが2016年には総人口の6割程度の7600万人まで減少した。四半世紀の間におよそ1000万人の働き手がいなくなった計算になる。

 さあどうする。日本は難題を抱え込んだ。これからも人間の労働力に頼る経済が続くとすると、一体だれが働くの?

 数の上では労働人口に含まれる「新卒」(大卒、短大卒、専門学校卒)は期待の星だ。リーマンショックに代表される「氷河期」の逆で、ここ数年は大卒の就職率は95%以上に高止まりしている。

 それでも働き手は足りないから、企業の側はいろいろ策を練る。長い間の60歳定年をやめて、65歳まで延長し、場合によってはアラ古希の70歳まで、という“ジジイ企業”も出てくるかもしれない。

 上場企業を対象にした2017年の調査では、65歳に定年延長した会社は全体の約15%にとどまるが、今後の予定を聞くと高齢者雇用に積極的な企業が目立つ。定年延長する企業は着実に増えそうだ。

 とりわけ、技術を売り物にしている中小企業の場合、歳をとったからといって、熟練工を簡単に退職させるわけにはいかない。若手人材では職人流の高度技術に対応できないので、65歳であろうがアラ古希であろうが、働いてもらうケースもあるようだ。

 高齢者雇用の次は外国人雇用だ。すでに看護や介護の分野で東南アジアから助っ人がたくさん来ているが、「医療関係の日本語ができないとダメ」などと言わず、もっと楽に労働ビザを取れるように政府が知恵を出さないといけない。

 それでも人材確保が間に合わなければ、あとは機械に人間の代わりをしてもらうしかない。メガバンクが大幅な人員削減と店舗網縮小を発表しているのも、そのひとつ。顧客と接するいわゆる「窓口業務」の仕事が激減しているので、人の代わりを機械にさせる「セルフ型」を広げる狙いだ。

 スーパーのレジの自動支払い、ドローンを使った宅配サービスなどもそうだ。人の手を介さず機械に任せる事例は急速に広がっていく。

 でも、ちょっと待ってほしい。アラ古希の高齢者から見れば定年延長と言っても、企業に都合の良い「再雇用」になりやすく、給料も抑えられる心配がある。仕事内容も自由がきかないことが多く、手離しでは喜べない。

 ドイツの例を見聞きしたことがあるが、日本とは大きな違いがある。何人かの知り合いのドイツ人はこぞって「早くリタイアしたい」と言う。それが自然な老後の過ごし方だという。

 税金がもともと高いので、現役時代に国家に納めた分を年金で返してもらう感覚で、ゆったりと生活するのだそうだ。

 どうやら定年延長では少子高齢化問題は片付かない。元気な人は働いたらいいが、そうでない人も多い。やはり欧州先進国のように、人生に「余裕」が欲しい。「アラ古希」などとおだてられ、かつての部下にこき使われるのは御免こうむる。

Profile 和田昌親(わだ・まさみ)

東京外国語大学卒、日本経済新聞社入社、サンパウロ、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。

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