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【核心インタビュー】ダイニングイノベーション 会長 西山知義 氏

会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。

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外食産業の旗手として日本食を世界へ広める

外食産業の旗手として日本食を世界へ広める

(企業家倶楽部2016年6月号掲載)

一人焼き肉専門店をはじめ、国内のみならず海外にも新たなコンセプトのレストランを次々と展開しているダイニングイノベーション。率いる西山知義会長は、かつて「牛角」を急拡大させた手腕を生かし、外食産業に新風を巻き起こす。「日本の食文化を世界に」というミッションを掲げ、果敢にチャレンジする西山会長に真意を伺った。(聞き手:本誌副編集長 三浦貴保)


個食化に応じた「焼肉ライク」

問 最近一人焼き肉専門店「焼肉ライク」が人気ですが、長年「牛角」を展開してきた西山会長がこの業態を始めようと思われたきっかけは何ですか。

西山 個食化に対応するためです。少子高齢化や独身世帯の増加で個食化が進んでいるにもかかわらず、これまで個食に対応する焼き肉業態がありませんでした。そこで、一人で焼き肉を食べられる店が必要だと考えました。

 従来の焼き肉店ではお客様の滞在時間が長く、1日あたりの客数が減ってしまうため、客単価を高く設定せざるを得ませんでした。これに比べて一人焼き肉であれば、お客様の滞在時間が短く、来店客数を増やせるため、客単価を安く抑えられます。

問 一人当たりの滞在時間は、具体的にはどれほどでしょうか。

西山 「焼肉ライク」は平均25分。これは一般的な焼き肉店の4分の1の滞在時間です。

問 今までは一人で焼き肉店に入るのは少し勇気が要りましたが、御社の業態なら女性でも一人で気軽に利用しやすいですね。

西山 実際に2~3割は女性客です。他のお客様と目が合わないようにするなど、店舗設計にもこだわりました。客単価は現在1400円。牛丼などファーストフードの客単価は平均500円なので、同じ程度の滞在時間に対して約3倍の客単価が取れている計算です。

問 1500円以内でかなりの満足感を得ることができますね。ラーメンの「幸楽苑」と提携するとお聞きしました。

西山 その通りです。幸楽苑さんは狭いエリアに店舗が集中しているので、一部を「焼肉ライク」にすることで、焼き肉とラーメン両方で売上げを伸ばせます。弊社も立地開発の手間を省くことができますから、双方にとって有益な提携となりました。

問 幸楽苑は住宅地にも多く出店しているので、より幅広い層に一人焼き肉スタイルが広がりそうです。

苦渋の決断から新たな挑戦へ

問 西山会長が「牛角」を運営していたレックスホールディングスを譲渡された時はとても驚きましたが、当時の心境はいかがでしたか。

西山 様々な事業に手を広げすぎたという反省が大きかったですね。コンビニやスーパーなど、外食以外のあまり得意ではない領域に進出した結果、会社を売却せざるを得なくなってしまい、自分の甘さを痛感しました。事業をファンドに売却し、外食業に専念している間は、経営管理や優先順位の付け方などを学ぶ良い機会でした。

問 そのような出来事があっても再び外食事業に挑戦しようと思われたのは、やはり得意な分野だからですか。

西山 そうですね。得意ですし、何よりも外食業界が好きなんです。「経営者として勉強したことを生かして、もう一度外食事業にチャレンジしたい」と心機一転、この会社を創りました。

週末に家族で出かけたくなる店

問 現在御社では焼き肉以外にも様々な外食業態を展開されていますが、実際の運営も御社が行っているのですか。

西山 100%子会社をいくつか作っており、運営はそちらに任せています。弊社は経営管理やフランチャイズのサポートといった統括をしており、各子会社に主体性を持ってもらっている形です。

問 すでに200店舗以上ありますね。しゃぶしゃぶや焼き肉はかなり業態開発が進んでいるようですが、今後さらに伸ばしていこうとされている業態は何ですか。

西山 「やきとり家 すみれ」がもうすぐ100店を超え、海外にも2店舗ありますので、さらに広げていきたいですね。イタリアンの「VANSAN」も現在25店あります。

問 「VANSAN」は他のイタリアンとどのように違うのでしょうか。

西山 高級イタリアンとサイゼリヤの中間を目指しました。ワインを飲みながら前菜、肉料理、パスタやピザ、最後にデザートを食べても、客単価は平均3200円です。「高級イタリアンより安く、90分ほど家族でゆっくり過ごせる店があれば良いな」という想いを実現する形でオープンしました。今後は私鉄沿線の各駅に出店していきたいと考えています。

問 業態開発の際にはどのようなことに注目していますか。

西山 基本的には、私が週末に家族で行きたい店を作っています。家族で色々な料理を楽しんで、ある程度の時間を過ごせる店ですね。それに加え、展開できる業界かどうかに注目しています。マーケットの大きさと既存の競争相手を見て、ニーズに沿えていないところを狙うのです。


単品中心の蕎麦屋に革命

問 具体的にお客様のニーズに沿えていない業態を教えてください。

西山 蕎麦屋には開発の余地があると思います。一般的に、蕎麦屋に入っても単品しか頼みませんよね。その結果、せっかく家族で蕎麦屋を訪れても、あまりゆっくりできないのでつまらない。

 そんな想いから、「じねんじょ庵」という蕎麦ダイニングを創りました。ここでは蕎麦に合う「野菜巻き串」を始めとする前菜やおつまみが楽しめます。さらに、自然薯を使ったお好み焼きやオムレツのような、女性が好きな「とろろメニュー」も充実しています。メインの蕎麦はシェアできるように大きな板に並べ、10種類の付けダレを用意しているので、皆で楽しめる蕎麦屋が実現できました。


問 今までにない蕎麦屋ですね。イタリアンや蕎麦といった、ある程度競争相手がいる中で、差別化を図るメニュー開発などのアイデアはどのように生まれるのですか。

西山 外食する時は常にメニューをチェックし、ファイルしています。例えば、新業態のメニューを考える上で、たんぱく質が主役の業態であれば、それに合う炭水化物を探すという具合です。

 さらに、インスタ映えするメニューや、雑誌で取り上げられている繁盛店をクローズアップし、「女性が何に反応しているのか」「なぜ繁盛しているのか」を自分の中で明確にするように心掛けています。

問 常に流行にアンテナを張っているのですね。具体的には、女性は何に反応しているのでしょうか。

西山 チーズ、イモ、アボカドなど、少しずつ色々な味が楽しめる食材が人気ですね。業態開発する際は、必ず女性が好きなものと流行りの要素を取り入れるようにしています。

 以前「やきとり家 すみれ」でチーズタッカルビをメニューに取り入れたところ、全店の売上げが3%ほど上がりました。デザート開発にも私自ら着手し、横浜発祥の「生プリン」を売り出すなど、やはり流行と女性受けの良い商品を常に意識しています。

人口増の東南アジアが狙い目

問 海外でも出店を広げていますが、どのように展開しているのでしょうか。

西山 ほとんどの店舗はフランチャイズです。元々牛角を拡大する際、日本を7つのエリアに分けて、ブランドや店舗運営ノウハウを含む権利を販売していました。これと同じように、現在アジアにおいては権利を売っているので、土台さえできてしまえば店舗展開が素早く進められるというわけです。シンガポールに弊社の支社があり、そこからアジアの店舗を全て管理しているので、距離的にも統括は難しくありません。

問 パートナーはどのように選ばれているのでしょうか。

西山 現在のシンガポール支社の社長は、アジアで200店舗以上展開している外食チェーンから引き抜いてきました。なぜなら、肉に精通していて、出店すべきモールや国ごとのフランチャイジーも知っているからです。その社長が弊社の焼き肉店やしゃぶしゃぶ店の権利を売っています。日本ではエリアごと、世界では国ごとにパートナーを探すことが重要です。

問 良いパートナーに巡り合うのは大変だと思いますが、実際に海外展開をした経験豊富な方の力を得たことで、アジアは土台が整ってきたわけですね。今後はどの国が伸びるとお考えですか。

西山 現在インドネシアではしゃぶしゃぶと焼き肉の業態で既に50店舗を構えており、一番伸びています。さらにカンボジア、ベトナム、マレーシアにも出店したばかりですし、これからフィリピンも伸びていくと考えています。人口比から見ても、インドネシアとフィリピンは狙い目ですね。

ニューヨークにも進出

問 アジア以外の海外事業での展開はいかがでしょうか。

西山 アメリカやヨーロッパにおいては、単価をアジアよりも高く設定して、「日本食」と銘打って広げています。アメリカでは、弊社が海外展開の権利を買った「つるとんたん」のうどんが流行っています。現在ニューヨークに2店舗展開しているところです。

問 ニューヨークでの手ごたえはいかがですか。

西山 開店当初は主にアジア系アメリカ人のお客様が多かったのですが、次第に白人の方へもマーケットが広がっている印象です。先ほど、「メニューを充実させて皆が楽しめる蕎麦屋を作った」とお話ししましたが、その戦略は海外でも活用できます。ニューヨークの「つるとんたん」ではうどんだけでなく、寿司や前菜も用意し、様々な日本料理を食べられるようにしました。

 例えば日本でも、「ベトナム料理屋」には行きますが、「フォー専門店」にはあまり行きませんよね。それと同じように、海外の方も「日本料理屋」には来ても「うどん屋」と言うとピンと来ない。ですから、あくまでうどんを中心とした「日本料理屋」として展開しています。

全力投球せねば成功できない

問 海外でのブランディングをする上でも、日本ではどうかと置き換えると分かりやすいですね。ポイントを教えてください。

西山 ブランディングとしては、ニューヨークから流行らせることも重要です。日本において、海外ブランドはまず表参道か銀座に進出します。感度の高い人たちの間で話題になり、徐々にブランドを広げていく戦略です。同様に、アメリカで何かを流行らせたければニューヨークの感度の良い人たちに受け入れられなければなりません。

 そして、アメリカに進出するなら最初から本気で儲けるつもりで果敢にチャレンジせねばならない。「試しに2~3店舗出してみてから」といった考えではなく、100店舗出す勢いで取り組まねば成功しないでしょう。

問 最初から全力投球せねば、成功は望めないということですね。ところでヨーロッパはいかがでしょうか。

西山 ヨーロッパでは焼き肉が人気です。現在ロンドンに2店舗あり、もうすぐ3店舗目がオープン予定です。今後はパリやバルセロナに進出していきたいですね。ヨーロッパは日本食への理解が進んでいるので、うどんの業態も流行るのではないかと考えています。

問 今や寿司やラーメンは海外でも定着していますが、御社が新たに日本食の魅力を世界に発信していくわけですね。

外食産業で時価総額1兆円を目指す

問 外食事業を長年手掛けている西山会長にとって、外食業界の魅力は何でしょうか。

西山 お客様の笑顔を増やせることに尽きます。そのために毎日の管理、週1回のモニタリングを行い、QSC(クオリティー、サービス、クレンリネス)を高める努力は欠かせません。

問 今後、西山会長がどんな新しい業態を開発されるのか楽しみです。最後に目標をお聞かせください。

西山 世界中に自分の店が広がっていくのが見たいですね。1つのブランドに集中して、日本で全国展開をした方が、効率的で利益率も高まるでしょう。しかし、私が成し遂げたいのは、世界の外食企業ベスト10に入り、外食産業で日本初の時価総額1兆円を超えることです。残りの限られた人生を懸けて、この2つの夢に向かって行きたいと思います。

 


P R O F I L E

西山知義(にしやま・ともよし)

1966年東京生まれ。「炭火焼肉酒家 牛角」などを展開するレインズインターナショナルの創業者。2013 年ダイニングイノベーションを設立。「感動創造」「すべてはお客様の笑顔のために」を企業理念に掲げ、焼肉、しゃぶしゃぶ、焼鳥、うどん、そばなどの日本食に「今までにない新しい価値」「革新的な体験」を加えた新業態を生み出し、国内外に200 店舗を展開中(2019 年3月時点)。2018 年「焼肉ライク」をオープン。1号店の新橋店は月商1600 万円の人気店となり、外食アワード2018を受賞。

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