会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2020年8月号掲載)
1.今オンラインの強力な使い手になろう
コロナが長引いて、セミナーや上司と部下の1on1(1対1の対話)まで全部オンラインになっています。そんな中で笑い話のようなことが起きました。
在宅勤務中の部下の仕事が進んでいるかが気になる上司は、昼と午後3時の両方にオンラインメッセージで「君、どこまで進んでいるの?」。部下はこの上司の心配を察知して、本当は夕方から徹夜で頑張れば大丈夫だと思っても、昼の12時と3時にはちゃんとパソコンの前にいて「ここまで進んでいます」と言うことにした。
成果が上がればよいと思っている部下と、在宅でちゃんとやっているだろうかと思う上司。オンラインアドバイスをする前にすでにここで食い違いがあるのです。
私のZOOMセミナーで、オンラインコミュニケーションで困っていることを聞きました。
問題点は左記です。
1 言葉の意味が伝わりにくい
2 声が聞こえにくい
3 表情が見えにくい
4 長時間だと集中力が切れる
5 掛け合いにタイムラグがある
6 聞き手の環境によってノイズが入る
7 全身が見えない(キネシクス)
8 オンフォーカスの人しか見えない
9 パワポが見えにくい
10 オンラインだと余計不安になる
11 時間感覚がうまくつかめない(一分間でどれくらい話せるかとか、余計不安になる)
12 フィードバックが少ない(目の前の相手がうなづいたり、身を乗り出したりしてくれないと話し手が不安になってしまう)
2.佐藤綾子版VCとNVCのオンとオフライン比較
この40年間「非言語表現の人間関係づくり」を心理学博士のタイトルにもして、ずっと日本人の自己表現のデータを積み上げてきた私の「オンライン」と「オフライン」の言葉の使い方と非言語の使い方を一覧表で見てください。対面しているときでも、とぐろを巻いた話し方はビジネスでは禁物です。短文がベター。一文一義です。これがオンラインだとますますそうです。長々しいのは、相手の集中力が続かない。
もう一つは暗示的な言葉は避けなければならないことです。日本の政治家はここが下手です。「家にいるのが望ましい」。オフラインならそんなことを言って威厳を持たせていればいいのですが、オンラインで言うのならば「ステイホーム」のほうがはるかに楽です。
非言語はどうでしょうか。ここは完全にオンラインは不利です。オンラインでは「味覚」「嗅覚」「触覚」が使えない。使えるのは「視覚」と「聴覚」だけ。ではそこに集中して強力な伝え方を工夫しなければならないのです。そこで大事なのは非言語の重視です。
3.非言語表現の3つの威力
言葉以外の表現「声の出し方や顔の表情」「身体の動作」「見つめ方」などを非言語表現(ノンバーバルコミュニケーション)と呼びます。この非言語には大きな特徴があります。図でみてください。「速さ」「正確さ」「持続性」これらを統合した瞬間瞬間の姿をオンラインでは聞き手が見ているわけです。その時にぱっと見て1秒間に1万1千要素もの情報が目から入ることは以前の連載でお伝えしたとおり、「速さ(quickness)」は抜群です。「正確さ(accuracy)」においてはどうでしょうか。言葉では適当に嘘をついても顔の表情を見れば気持ちが正確にわかります。「持続性(sustainability)」においては非言語は驚くべき持続性をもっています。最初にぱっと見て駄目な相手だと思った人は半年後に会ってもやはり駄目な人だと思うのでしょう。最初のイメージがずっとつきまとうからです。これは私の別の実験で実証ずみです。
ではオンラインでどう伝えるかを具体的な言葉と表情などでまとめてみましょう。
1 言語と非言語→言葉だけでなく声を忘れないようにしてください。
2 論理性→一文一義。
3 性格の良さ→表情で表します。
4 自信→「数字のエビデンス」「固有名詞」そして「声のパワー」で表現します。
5 楽観主義はポジティブな気持ちと言い換えればいいでしょう→エビデンスを持っているということが表情に表れるように。そしてパワポでもエビデンスを出しましょう。
4.自分の身体で何ができるか
オンラインで自分の意見をアウトプットするときには、一番重要なのは目です。今、マスクをして街の中を歩いている人にも同じことが言えます。口元が見えないので、つい口の周りはいい加減になる。しかし、「アイコンタクト(見つめる長さ、目力、方向性)」がしっかりある人は今オンラインでしっかりトレーニングしていけばアフターコロナでも使えます。
「キネシクス(身体動作)」についても同じです。足や腰が見えないのでオンラインはバストアップが勝負。腕と手の動きがどう見えるか。練習が必要です。「ヘッドムーブメント(首の動き、うなづきや首を傾げたり、首の向き)」は今練習しておくとオフラインで対面のコミュニケーションになったときに非常に役に立ちます。
皆さんの成功をお祈りしながら、私は今日もオンラインで自己表現研修を続けています。対面で勉強できるようになったら、ぜひ読者の皆さんも会場に来てください。
Profile
佐藤綾子(さとう・あやこ)
博士(パフォーマンス心理学)。日大芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究第一人者。累計4万人のビジネスマン、首相経験者など国会議員のスピーチ指導で定評。「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰。『部下のやる気に火をつける33の方法』(日経BP社)など単行本194冊、累計323万部。