会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2021年3月号掲載)
戦後日本の復興は「アメリカ化」であった。
政治スタイル、安全保障、経済運営、文化・生活に至るまで、皆アメリカのマネをした。
アメリカ映画は単純に面白いし、1971年に銀座にオープンしたマクドナルドのハンバーガー店には人だかりが出来た。そして多くの若者は留学先にアメリカを選んだ。「アメリカの流儀」が日本古来の文化を消し去る勢いだった。
そんなアメリカとの「密」な付き合いも「終わりの始まり」かもしれない。引き金を引いたのはトランプ前大統領だ。
ホワイトハウスを劇場にして大統領を演じたトランプ氏は稀にみる策士だった。人を洗脳する宗教団体の教祖に近い。彼の人心掌握の術はこうだ。
1)まずマスメディアを「フェイク」(ウソ)と決めつける。有名メディアとケンカしてでも「ウソ」とはねつける。4年間この姿勢を貫いた。
2)次に自分が正しいとSNS などで執拗に繰り返す。支持者は徐々に「そうかもしれない」と信用するようになる。オウム真理教の信者が、教祖は宙に浮くと信じたあれである。
3)大統領選では不利な状況に備え、事前に「郵便投票で不正が行われる」とウソを広げておく。開票で負けても「どこかに不正がある」と支持者を洗脳しておく。
4)圧勝の展開なら何もしないが、負けそうになったので、各州で洗脳済みの支持者による「不正選挙」の訴訟を起こす。
5)連邦最高裁判事に味方の1人を送り込んでいたものの、各種訴訟は却下された。それでも「不正」の主張は曲げない。
6)次期大統領の最終決定の際、連邦議会に向かって抗議せよ、と支持者を扇動した。新大統領の就任式を欠席したのは「負けを認めていない」と支持者に訴えるためだ。
しかし、支持者が政界復帰を求めても、せいぜい共和党とは違う「トランプ党」をつくる程度だろう。
大統領選挙で7400 万人がこの男を支持したとされているが、対するバイデン大統領は史上最高の8000 万票以上を獲得している。2 大政党制だから票数が多く出るだけで、多党制や連立政権なら当然、票数は低くなる。
そんな教祖のような男がリーダーになる国はもはや信用できない。アメリカは民主主義の規範ではなく、「自分勝手が許される国」になりつつある。トランプ氏の〝演技〟に独裁者への道はこうやってつくられると教えられた。
トランプ政治をナチスのヒトラーと重ね合わせたのはシュワルツェネッガー氏である。元俳優で元カリフォルニア州知事。共和党員だがトランプ氏を見限った。
シュワちゃんはオーストリア移民。ナチスによるユダヤ人迫害は彼の出身国から始まった。
トランプ支持者による「米連邦議会襲撃事件」をネットでこう解説した。
「すべてはウソから始まった。トランプは公正な選挙結果を覆そうとした。彼はウソをつき、人々をミスリードしてクーデターを企てた。私の父や当時の隣人たちも、ナチスのウソに惑わされた。誤った方向に導かれる先を私は知っている」
シュワちゃんは今のアメリカ社会の危険性に警告を発している。日本はどうするのか。菅政権は日米安保条約に縛られ、1月に発効した「核兵器禁止条約」もアメリカの核に守られているから参加できない。
困ったものだが、これも「究極のアメリカ化」と言えるかもしれない。コロナ禍は「歴史の転換点」とされているが、日本もこれ以上「アメリカ化」に振り回されたくない。
Profile 和田昌親(わだ・まさみ)
東京外国語大学卒、1971年日本経済新聞社入社、サンパウロ、ロンドン、ニューヨーク駐在など国際報道を主に担当、常務取締役を務める。