会社名や組織名・役職・内容につきましては、取材当時のものです。
(企業家倶楽部2021年7月号掲載)
菅さんの伝え方が全く国民の心を打ちません。その理由が、彼の知識不足か情熱不足か、2つの観点からチェックしたと仮定しましょう。
知識あるいは知性を計測する尺度が「IQ」(知能指数)、感情や感性を計測する尺度が「EQ」(感情・感性指数)です。「どうもその2つではない」と私は思うのです。私の専門のパフォーマンス心理学から解明してみましょう。
心の知能指数「EQ」の発見
東大大学院トップ成績で入った「IQ」が非常に高い若者が、みんなの中では浮いてしまって友達もできない。したがって仕事の成績も悪い。
逆に「IQ」はさほどでもないのに、みんなの気持ちがよく分かり、愛されて成功している人がいます。この事実に気付いたアメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンは、この「IQ」以上に人間の成功と失敗に影響する力を「Emotional Quotient」と名付けました。通称「EQ」です。
ゴールマンが「EQ」を最初に提唱したのは1995年ですから、既に30年近くが経過しています。次々と彼の考えを引き継いで、EQ の研究者が世の中にたくさん出てきています。私も原書で彼の本を読み翻訳権を取ろうとしましたが、他の出版社(講談社)に取られてしまいました。そのため「女性のためのEQ 育て」(1997年大和書房)を出したことがあります。
「EQ」については表1を見てください。「IQ」レベルが最高値の人が平均的な「IQ」の人より成功している確率は20%。平均的な「IQ」の人が「IQ」レベルが最高値の人より成功している確率は70%だというのです。
これをみて、「『IQ』だけで成功は決まらない」と好奇心を持った人たちが研究し、開発したものが「EQ」を計測するテストです。ブラッドベリーとグリーブスの単行本「EQ2.0」を参照してください。このテストは数年で全米に広がり、現在も広がり続けています。「IQ」があってもそれを実際使いこなす感性がなければダメだと多くの人が気づいたのは大収穫でした。
PQ 自己表現力指数創設
しかしここでシャイな日本人代表の私は思うのです。もう40年間パフォーマンス心理学を日本で初めて開発し、普及してきました。「パフォーマンスって何?サーカスの研究ですか?」と言われていた当初と比べて、日常での私たちの意図された自己表現のすべてをパフォーマンスとして捉える考え方も、おかげさまで多くの日本人に広がり、心強いところです。
シャイな日本人は自己表現が苦手。菅さんがその代表選手でしょう。ビジネスマンや学者の国際会議でも黙っている人が多い。「3S(silent,smile,sleeping)」と揶揄される所以です。頭が悪い(IQ が低い)のではない、感じる力(EQ)が低いのでもない。
自分の想いをきちんと意識し、科学的に組み立てて最適な言葉と言葉以外の表現(非言語表現)を選択して伝えていくことは、「IQ」と「EQ」の総仕上げとして不可欠です。つまり、「IQ」と「EQ」があっても表現する能力がなければ、誰にも伝わらない。これがパフォーマンス学の原則です。「表現されない実力はないも同じだ」が我々のモットーです。
この「自己表現力」を科学的に測るテストを私が数年かかって組み立ててきました。このたび、「第三知性『PQ(表現の知能指数)』」として、これを発表し、2021年4月1日より多くのビジネスマンにテストを開始してすでにその自己表現力の特徴をつかむことと、その訓練に成功しています。
そこで、現在日本語と英語で単行本化をする作業に入りました。表現が苦手な日本人には本当に心強い自己表現力指数「PQ」の解明です。どうぞ楽しみにしていてください。
PQ テストの今後の活かし方
このテストで、自分の自己表現の長所や欠点、どこを鍛えたらよいのかもわかります。さらに、これをチェックし、個人カルテとして受け取り、訓練や教育を受ける研修システムも整えました。これから「PQ(表現の知能指数)」を日本人の大きな財産「知的レガシー」として普及していきます。特に政治、経済、医療のリーダーや経営者には使ってほしいところです。コンセプトを図2、3、4で確認してください。
Profile
佐藤綾子(さとう・あやこ)
博士(パフォーマンス心理学)。日大芸術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授。自己表現研究第一人者。累計4万人のビジネスマン、首相経験者など国会議員のスピーチ指導で定評。「佐藤綾子のパフォーマンス学講座」主宰。『部下のやる気に火をつける33の方法』(日経BP社)など単行本194冊、累計323万部。